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第7話:二人の夢、家族の未来




春の風がやさしく街をなでるように吹く頃。

慶應義塾大学を卒業した飛香は、満開の桜並木の下を歩いていた。

白いスーツ、胸元にさりげなくつけられた家族三人の小さな写真チャーム。


「ついに、卒業……」


4年間、全力で駆け抜けた大学生活。

子育て、家事、仕事の準備、そして何より、ずっと大翔との愛を守ってきた日々。


親友・悠依も駆け寄ってきた。


「飛香ーっ! 卒業おめでとう! ついに社会人だね」


「うん。ほんとに、あっという間だったなって……でも、濃かった」


「間違いないね。なんせ、家庭と勉強と恋、全部本気でやってきたもん」


二人は、大学内のカフェで語り合いながら、未来の話に胸をふくらませた。



その夜、家に帰ると、大翔と息子の陽翔はるとが手作りの花束とケーキで飛香を迎えた。


「卒業、おめでとう、飛香」


「ママ、おめでとー!!」


3歳になったばかりの陽翔が、精一杯に声を張り上げる姿に、飛香の目に涙がにじんだ。


「……ありがとう、ほんとに、ありがとう」


大翔はそっと彼女の肩を抱き寄せ、静かに囁いた。


「君が頑張ってたの、ずっと見てたよ。今日くらい、甘えていいんだよ」


その夜、二人は久しぶりに子どもを寝かしつけたあと、静かにワインを傾けた。


「ねえ、大翔くん。私、夢を叶えてもいいかな」


「もちろんだよ。…もう次の夢、決まってるの?」


飛香は少し照れながら、ノートを取り出した。

そこには、彼女が構想していた歴史ノンフィクション小説の草稿が綴られていた。


タイトルは――

《祈る指先、刃を隠して 〜戦国の姫たち〜》


「ずっと、温めてたの。家族と歩んでいくこと、女性の生き方、戦うってどういうことか……この4年間で、私なりに答えを見つけたの」


大翔はそのノートを静かに読み、ページをめくるたびに目を見開いた。

「……これ、すごいよ飛香。もう“書ける人”になってるじゃん」


「本気でやるなら、出版社に持ち込みしてみようかと思ってる」


「全力で応援する。俺、アイドルでいることに迷いがあった時期もあったけど……君を見ててわかった。大切な人のために“続ける”って決めることって、すごく強いことなんだなって」


二人はその夜、何時間も語り合った。

未来のこと、家族のこと、夢と愛のこと。


そして――


「飛香。……俺、正式に言いたいことがある」


「え?」


「ずっと内緒にしてたけど、俺、来月から地方局でラジオ番組を一つ持つことになったんだ。

タイトルは――“君に恋する、秘密の音色”」


飛香はハッと息をのんだ。

それは、かつて大翔が飛香に恋をしたあの夏を象徴する言葉だった。


「……うそ。タイトルに私たちのこと、重ねたの?」


「うん。内緒だけどね。でも、誰かの心に、届くといいなって思ってる」


春の夜風がベランダのカーテンをふわりと揺らす。

彼らの愛もまた、音色のように静かに、でも確かに、響き続けていた。



夜が更けても、二人の会話は尽きなかった。

静かなリビングに、ワインのグラスが静かに鳴る。


「飛香、もし……もしさ、いつかお互いにやってることがうまくいかなくなっても、俺たち、ちゃんと戻ってこれるよね」


ぽつりと、大翔が言った。


飛香は一瞬、驚いた顔をして、そして真剣にうなずいた。


「もちろん。だって私たちは、何度も乗り越えてきたじゃない。

受験も、出産も、すれ違いも……。戻る場所は、もう決まってるよ」


「うん……ありがとう」


その言葉に、大翔は心から安堵のため息をつく。

人前ではキラキラと輝く彼も、家の中ではただの「夫」であり、「父親」であり、そして「一人の男」だった。

そんな弱さを見せられる場所が、この家しかないのだと、飛香は痛いほど感じていた。


「ねえ、大翔くん」


「うん?」


「子どもがもう少し大きくなったら、家族3人で、私の好きなお城巡りしようよ。春は彦根、夏は松本、秋は姫路……」


「お、いいねぇ。でもそのスケジュール、わりとガチ勢の旅っぽいね」


「当たり前じゃん。本気で回るんだよ?」


大翔は笑いながら、飛香の髪にそっとキスをした。

その頬に、飛香は自然と微笑み返す。


「この子にも、歴史の面白さ、伝えたいんだ。命が繋がってるって、教えたい」


「……それ、すごくいいね」


歴史好きで、神社と御朱印を愛する少女が、母となり、愛する人と築いた今。

彼女の中に宿る信念は、揺らぐことなく育っていた。



翌日、飛香は出版社への原稿持ち込みに挑戦することを決めた。

緊張で手が震えたが、大翔が書いた小さなメッセージカードが胸ポケットに入っていた。


「君が伝えたいことを、信じる人が必ずいるよ。——大翔」


彼の言葉を胸に、飛香は出版社の自動ドアをくぐった。


これがまた、新たな一歩となることを、彼女はまだ知らなかった。


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