第6話:すれ違いと再確認の絆
飛香と大翔の新しい生活は順調に進んでいたが、忙しさが二人の距離に少しずつ影を落とし始めていた。
飛香は職場での責任が増し、歴史研究のプロジェクトにも熱を注いでいた。
一方で大翔はアイドル活動のピークを迎え、多忙なスケジュールに追われていた。
「最近、話す時間が減ってる気がする……」
飛香はふとした瞬間にそう感じていたが、言葉にすることができなかった。
大翔もまた、飛香の変化に気づきながらも、自分の疲れとプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
そんなある日、二人は久しぶりにゆっくり過ごせる休日を作ることにした。
静かなカフェで向かい合い、飛香は思い切って口を開いた。
「大翔くん、私たち、ちゃんと話そう。私、あなたのことが本当に大切だから」
大翔も深く頷き、感謝の言葉を返した。
「飛香、ありがとう。俺も同じ気持ちだ。忙しくてごめん。これからはもっと君と向き合うよ」
二人は改めてお互いを想い合い、これからも支え合いながら歩むことを誓い合った。
子どもも一緒に過ごす幸せな時間は、忙しさの中でもかけがえのない宝物だった。
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その日の夜、飛香は赤ちゃんを寝かしつけた後、リビングのソファに座って静かに考えていた。
「こんなにも忙しいのに、どうして私たちはすれ違いそうになるんだろう」
その時、携帯電話が震えた。大翔からのメッセージだった。
「飛香、今日はありがとう。君の声を聞けて、本当に安心した。明日はオフだから、ゆっくり話そう」
飛香はその言葉に涙があふれそうになりながら、返事を打った。
「私もありがとう。これからもずっと一緒に歩いていこうね」
翌日、二人は近くの公園に子どもを連れて出かけた。
柔らかな日差しの下、家族三人の笑顔が輝いていた。
大翔は飛香の手を取り、穏やかに言った。
「これからも、どんな時も君のそばにいる。約束するよ」
飛香はその言葉に強くうなずき、心からの笑顔を返した。
忙しい日々の中で見つけた大切な時間は、二人にとって何よりの宝物となった。
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その後の日々も、飛香と大翔はお互いのペースを尊重しながら支え合い続けた。
飛香は仕事と家庭の両立に努力を惜しまなかったが、時に疲れが顔に出ることもあった。
そんな時、大翔は必ず気づいて声をかけ、二人でリラックスできる時間を作った。
ある夜、二人は久しぶりに夜空の見える屋上に座り、手を繋いで静かに話した。
「大翔くん、これからもずっと一緒にいようね。どんなことがあっても乗り越えていこう」
大翔は優しく微笑み、彼女の手を強く握った。
「絶対に離さない。飛香、ありがとう。君がいるから俺は頑張れる」
遠くに見える街の灯りが二人の未来を優しく照らしているようだった。
屋上から部屋に戻ると、子どもは静かに眠っていた。
ほんの少し前までは、夜泣きで眠れない日々もあったのに——。
「すっかり大きくなったね」
飛香がぽつりと呟くと、大翔は頷いた。
「俺たちも、ちゃんと“家族”になってるんだなって思うよ」
日常の中で、言葉にしないと気づかない大切なことがたくさんある。
すれ違った日々も、こうして向き合えば、愛しさに変わっていく。
その夜、飛香は思い切って一つの願いを大翔に伝えた。
「ねえ、大翔くん。…私、いつか本を書きたいの」
「本?」
「戦国時代の女性たちのこと。私たちみたいに、誰にも言えない想いを抱えてた人たちの話を」
大翔は驚いた顔をしたが、すぐに柔らかな表情で言った。
「いいじゃん、それ。飛香らしい夢だね。絶対、応援するよ」
「ほんとに?」
「俺の妻が作家になるって、めちゃくちゃ誇らしいことだよ」
その言葉に、飛香の胸の奥で何かがじんわりと灯る。
夢を語れる誰かがいて、その夢を信じてくれる誰かがいる。
それは、何よりも心強いものだった。
——未来は、まだ始まったばかり。
やがて子どもが目を覚まし、小さな手を差し伸べてくる。
飛香と大翔はその手を、そっと包み込んだ。
「この子のためにも、ちゃんと笑って、前に進んでいこうね」
「うん。俺たちの音色は、まだ止まらない」
夜の静けさに包まれた部屋の中で、三人のぬくもりが、確かにひとつに重なっていた。