第4話:未来を紡ぐ日々の中で
大学生活最後の春が訪れた。
キャンパスの桜が満開に咲き誇り、柔らかな風が舞い散る花びらを運んでいた。
飛香は教室の窓際に座り、ふと空を見上げた。
入学した頃のこと、そしてあの日、大翔に告白したあの瞬間の胸の高鳴りが鮮やかに蘇る。
「もうすぐ卒業か……」
静かな独り言に、隣の友人が微笑みながら答えた。
「飛香なら大丈夫。卒業しても、きっと素敵な未来が待ってるよ」
その言葉に少しだけ肩の力が抜けた気がした。
大学生活最後の半年は、卒論や就職活動、そして大翔との結婚準備で慌ただしかった。
けれど、どんなに忙しくても、彼と過ごす時間は何よりも大切だった。
ある週末、大翔の自宅で二人きりの時間を過ごした。
穏やかな光が差し込むリビングで、大翔がそっと手を取り言った。
「飛香、これからもずっと一緒にいよう」
その言葉に、飛香は笑顔で答えた。
「うん、ずっと一緒に未来を歩んでいこう」
秘密の恋はやがて、二人だけの幸せな日々へと変わり始めていた。
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リビングの窓から見える新緑の眩しさが、まるで私たちの未来を祝福しているように感じられた。
「飛香、卒業式のあと、二人でゆっくり話そう」
大翔は優しく私の手を握りしめた。
その日から、私は卒論に集中しながらも、就職活動の準備を始めた。
面接の練習を重ねるたびに、緊張と期待が交錯した。
「大翔くんがいるから、きっと大丈夫」
心の中で何度も自分に言い聞かせた。
ある夜、悠依とカフェで話していると、彼女が真剣な顔で言った。
「飛香、秘密の恋って大変だけど、あなたなら乗り越えられるよ」
私は笑いながら答えた。
「ありがとう、悠依。いつも支えてくれて感謝してる」
そして迎えた卒業式の日。
大翔と母たち、親しい友人たちだけに祝福されながら、私たちは静かに誓いを交わした。
「これからもずっと一緒に」
大翔の言葉に、私は強く頷いた。
結婚式はまだ秘密にしているけれど、二人の絆は確かなものだった。
その後の数ヶ月、私は大翔の活動を支えながら、新しい命を授かったことを知る。
未来への希望と不安が入り混じる中、二人は新たな家族の形を紡いでいく準備を始めたのだった。
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妊娠がわかった日、飛香は大翔にそっと伝えた。
「大翔くん……私たち、家族になるんだね」
彼は驚きと喜びで言葉を詰まらせながらも、しっかりと飛香の手を握り返した。
「飛香……本当にありがとう。俺たち、これからもずっと一緒だ」
それからの日々は、これまでとは違う時間が流れ始めた。
飛香は体調に気をつけながらも、大学卒業の準備を続け、就職活動も無事に終えた。
大翔は忙しいアイドル活動の合間を縫い、飛香の体調や気持ちに寄り添い続けた。
二人の間には、確かな絆があった。
親友の悠依も、飛香の変化を温かく見守り、何度も励ましの言葉をかけてくれた。
やがて、飛香は無事に大学を卒業し、社会人としての第一歩を踏み出す準備を始めた。
しかし、大翔はまだアイドルとしての活動を続けており、その間も飛香の支えは欠かせなかった。
二人はお互いの夢と未来を尊重しながら、新たな家族の形を作り上げていくことを誓った。
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季節が移ろう中、飛香のお腹は徐々に大きくなっていった。
それでも彼女は大学卒業式の準備や就職の最終段階を着実にこなし、まわりの人々からも尊敬の眼差しを受けていた。
ある日、大翔がライブの合間をぬって飛香の自宅を訪れた。
「飛香、今日はゆっくり休んで」
優しい声に、飛香は安心して微笑んだ。
彼はそっとお腹に手をあてて言った。
「もうすぐ、家族が増えるんだな」
飛香はその温かさを胸に刻みながら、
「私たち、きっと大丈夫。歴史も未来も、ちゃんと自分の足で歩いていける」
そう自分に言い聞かせた。
夜、二人で過ごす時間は宝物のようで、夢や未来の話に花が咲いた。
「大翔くん、私、将来は歴史研究者として少しでも戦国時代の謎を解き明かしたい」
飛香の目は輝いていた。
「俺は飛香の夢も支えたい。子どもも、俺たちのこれからの宝物だ」
未来の家族への期待と不安が入り混じるなか、二人は手を取り合って歩み続けた。
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飛香の出産予定日が近づく頃、二人はますます強く結びついていた。
どんな未来が待っていようとも、一緒に乗り越えられる自信があった。
ある穏やかな夕暮れ、飛香は大翔と共に病院の待合室で過ごしていた。
「もうすぐ会えるね」大翔は優しく彼女の手を握りながら囁いた。
飛香は深呼吸をしながらも、不安よりも喜びが勝っていた。
「ありがとう、大翔くん。あなたと一緒だから心強い」
数時間後、元気な赤ちゃんの産声が響き渡った。
二人は涙をこらえながら、初めてのわが子の顔を見つめた。
「これからもずっと、私たち三人で歩んでいこうね」飛香の言葉に、大翔は力強く頷いた。
彼らの秘密の恋は、新しい家族の物語へとつながっていった。