第10話:青春のままに輝く未来へ
桜の季節が終わり、初夏の陽射しが町を包み込む頃――。
飛香と大翔、そして小さな陽翔の3人の暮らしは、確かに、穏やかに、しかし力強く続いていた。
出版社から出された飛香の初著書『戦国の華たちへ』は、初版が即完売。
SNSや書店でも話題になり、「戦国史に詳しくないけれど面白く読めた」「女性の視点が新しい」と好評を博していた。
出版社はすぐに第二作の企画を打診してきた。
今度は「戦国の恋愛と絆」に焦点を当てた作品になる予定だった。
そんな飛香の執筆の合間に、再び“ある知らせ”が届いた。
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◆「ママのおなかに、だれかいるの?」
初夏のある日、飛香はふとした体調不良を感じ、病院を訪れた。
診察を終えて出た言葉は――
「おめでとうございます。妊娠5週目です」
帰宅して、玄関を開けた瞬間、陽翔が抱きついてきた。
「ままー! おかえり! きょう、ほいくえんでおえかきしたのー!」
「ふふ、ありがとう。……あのね、陽翔」
飛香が屈んで、小さくささやいた。
「ママのおなかにね、赤ちゃんが来たの。陽翔の妹か、弟かもしれないよ」
陽翔は目を丸くしてから、そっと飛香のおなかに触れた。
「ぼく、おにいちゃんになるの?」
「そうよ、立派なお兄ちゃんになるの」
それから数分後、大翔が帰宅。
「ただいまー。飛香、今日病院だったんだろ? どうだった?」
「……ねえ大翔くん。もう一人、家族が増えるよ」
その一言で、大翔の目が見開かれる。
「……ほんとに?」
「うん。今度は、あなたと一緒に“全部”迎えられるように、準備する」
大翔は笑顔のまま、飛香を強く抱きしめた。
「ありがとう、飛香。……本当にありがとう」
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◆未来を照らす音色
月日は流れ――。
飛香の第二子妊娠が安定期に入った頃、大翔のプロデュースする新人グループがデビューした。
グループ名は《LUMINOS》、ラテン語で「光を放つ」という意味だった。
「光を放てる人は、誰かを照らせる。その“誰か”が、未来を変えるかもしれないから」
大翔の言葉は、かつて自分がアイドルとして走り抜けた日々と、そして飛香との恋、家族との日常――
全てから生まれた、真実の信念だった。
デビュー初日のライブ会場。
最前列には飛香と陽翔が座っていた。
ステージ上、大翔が最後にステージに登場した。
「今ここに立っているのは、自分ひとりの力じゃありません。
応援してくれた仲間、スタッフ、家族、そして……妻と息子。
すべての“音”が重なって、僕の“音色”になっています」
飛香はマイクを持つその姿を、静かに見守っていた。
(ずっと、あの背中を追いかけてた。
今はその背中に手が届いて、隣で歩いてる)
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◆そして未来へ
第二子は女の子だった。
名は「奏」。
「家族の音色が、これからも優しく響きますように」との願いを込めて名づけられた。
飛香は執筆業を続けつつ、時に講演会や大学でのゲスト講師としても活動を始めた。
慶應義塾大学の歴史サークルでは「飛香先輩」として親しまれている。
大翔はプロデューサー業に専念しつつも、時折LIVEにサプライズ登場するなど“伝説のアイドル”としての人気も衰えず、今も輝き続けていた。
家では、陽翔と奏の無邪気な笑い声が響き、
夜には飛香と大翔が交わす静かな会話と、未来の夢がこだまする。
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◆エピローグ:青春は続いていく
ある夜、飛香はベランダに出て、星空を見上げていた。
「……あの夏、私はただの中学生だったのに。こんな未来が待ってるなんて、思ってなかった」
後ろから大翔が寄り添う。
「君に出会って、俺の時間は“今”になったよ。ずっと青春のままだ」
「ふふ、甘い言葉ね」
「本当のことさ。君に恋する“音色”は、まだ止まってない。これからも続いてく」
そう、音はまだ止まらない。
青春という名前の楽譜に、彼らは今日も音符を刻み続けている――。
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◆音色が重なる日常の中で
週末の午後。
飛香と陽翔は、いつものように近所の神社に立ち寄っていた。
「ママ、これなに?」
「それは“狛犬”っていうの。神様を守ってる存在よ」
「ふーん……でもこの子、ちょっとこわい」
「ふふ、でも大丈夫。ママは小さいとき、この狛犬さんに“だいすきな人と会えますように”ってお願いしてたの」
「えっ!? パパのこと?」
「そう、パパのことよ」
陽翔は、ちょっと不思議そうな顔でお賽銭を投げて、手を合わせた。
「じゃあ、ぼくも……かぞくが、ずっといっしょにいられますように」
その姿を見た飛香は、あの日の自分を重ねて、そっと微笑んだ。
“この子の願いが、いつかきっと未来を照らす”
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◆大翔の選んだ道
帰宅した飛香たちを出迎えたのは、リビングに広がる音楽だった。
大翔がイヤホンで最終チェックしていたのは、自身が全面プロデュースした《LUMINOS》の2ndシングルの仮ミックス音源。
「どう?聴いてみる?」
「うん」
飛香がヘッドホンをつけると、静かに始まったイントロ。
それはどこか懐かしい、でも新しく透き通った旋律――。
「……この音、どこかで……」
「実はね、飛香が初めて俺に“好きです”って言った時の場所で、自然の音を録ってたんだ。
蝉の声と、風と……そして、君の声」
「え……?」
「“その日”が、俺にとっても青春の真ん中だった。だから、全部入れた。俺の中の“秘密の音色”」
飛香の目から、自然と涙がこぼれた。
「……そんなの、反則だよ」
「でしょ」
大翔は、変わらない少年のような笑顔で笑った。
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◆そして未来へ――
大学の卒業式、出版社の契約延長、第二子の出産準備。
飛香の春は目まぐるしく、でも鮮やかに過ぎていった。
自宅では、陽翔と奏の兄妹がリビングで絵本を読みながら眠っていた。
飛香はその寝顔を見つめながら、静かに未来を思った。
“この幸せを守るために、私は学んで、書いて、愛していくんだ”
その夜、飛香と大翔はバルコニーに座り、夜風に吹かれながら語り合った。
「……ねえ、大翔くん」
「ん?」
「子どもたちがもう少し大きくなったら、家族で全国のお城、巡らない?」
「もちろん。君が案内してくれる戦国ツアー、誰よりも楽しみにしてるよ」
「ふふ、じゃあ準備しておいてね。山登りもあるかも」
「……覚悟しておく」
笑い合う二人の間に、そっと風が吹いた。
その風は、あの夏――中学3年の飛香がライブ会場で感じた、あの風と同じだった。
“好き”が始まった日。
“音色”が重なり合った日。
そして、今も続いている“青春”の物語。
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◆エピローグ:音はまだ止まらない
陽翔の寝言が聞こえる。
「……ぱぱ、まま、だいすき……」
隣で眠る奏が、小さな手を飛香の指に絡めていた。
「おやすみ、陽翔。おやすみ、奏」
大翔がそっと灯りを消し、二人でそっと寝室を後にする。
扉が閉まり、静かな夜。
その先にあるのは――
まだ見ぬ未来。
けれども、それはきっと、ふたりが奏でる“音”が導いていく。
青春のままに、輝く未来へ。
―Fin.




