オープニング:静かなる討論のはじまり
(コの字型に配置されたテーブル。中央に司会者席。背景には「歴史バトルロワイヤル」のロゴが大きく掲げられている。軽快で少しミステリアスなオープニングテーマ曲が流れる。)
(テーマ曲がフェードアウトすると、スポットライトが中央の司会者席に座る「あすか」を照らす。あすかは笑顔でカメラに向かって語りかける。)
あすか:「皆さん、こんばんは! そして、時空を超えてようこそ!あなたの知的好奇心の扉を開く、『歴史バトルロワイヤル』のお時間です!」
(あすか、軽くお辞儀をして、いたずらっぽい笑みを浮かべる。)
あすか:「今夜も、皆さんと一緒に、時を超えた言霊のぶつかり合い、目撃しちゃいましょう!」
(あすか、少し真面目な表情になり、テーブルに座るゲストたちを見渡す。)
あすか:「さて、今夜のテーマは…こちら!
『その言葉、誤解ですから! 汚名返上!哲学者たちの反論』!」
(あすか、手に持ったフリップを見せる。そこにはテーマが書かれている。)
あすか:「歴史に燦然と輝く、偉大な哲学者たち…。
彼らの言葉は、時代を超えて私たちに多くの示唆を与えてくれます。…が! しかし! その深遠な思想ゆえか、あるいは言葉のインパクトが強すぎたせいか、後世で『え? そういう意味だったの!?』ってびっくりするような、とんでもない誤解を受けている方々も少なくないんですよねぇ。言われたご本人は、たまったもんじゃないはず!」
(あすか、ゲストたちに同情的な、しかし少し楽しむような視線を送る。)
あすか:「というわけで、今夜は! そんな「誤解されちゃってる哲学者」の皆さんを、時空を超えてこのスタジオにお呼びいたしました!ご自身の言葉で、その胸の内、積年の鬱憤!? を、存分に語っていただきましょう!」
(あすか、一人目のゲスト、エピクロスに視線を向ける。)
あすか:「まずは、はるばる古代ギリシャからお越しくださいました!
『快楽こそが最高の善である』と説き、アテナイ郊外に『エピクロスの園』という学園を開かれた、この方! エピクロスさんです!」
(エピクロス、穏やかに会釈する。)
あすか:「エピクロスさんといえば「快楽主義」。でも、そのせいで後世では『美味しいもの食べて、お酒飲んで、贅沢するのが一番!』みたいな、享楽的なイメージ、ついちゃってませんか? 本当はもっと、こう…ストイックな面もおありだったとか? そのあたり、後でじっくり伺いますね!」
(エピクロス、かすかに眉をひそめるが、静かに頷く。)
あすか:「さあ、続きまして! 時は下ってルネサンス期、花の都フィレンツェより!
この方の名前を知らない人はいないでしょう! 『君主論』であまりにも有名! 外交官であり、政治思想家、ニッコロ・マキャヴェッリさんです!」
(マキャヴェッリ、鋭い視線であすかを見据え、軽く頷く。)
あすか:「マキャヴェッリさん! あなたの名前を冠した『マキャヴェリズム』って言葉、現代でも『目的のためなら手段を選ばない、冷徹非情なやり方』の代名詞みたいに使われてますよね~。まるで悪魔の囁きみたいに…。でも、本当は祖国イタリアを憂い、現実的な処方箋を提示したかっただけ、という声もありますが…その真意、今日こそはっきりさせちゃいましょう!」
(マキャヴェッリ、フンと鼻を鳴らすが、否定はしない。)
あすか:「そして、近代へ! 19世紀ドイツが生んだ、社会と経済の構造を根底から問い直した巨人! 『資本論』の著者、カール・マルクスさんです!」
(マルクス、厳しい表情で腕を組み、正面を見据えている。)
あすか:「マルクスさん! あなたの思想は、世界中に大きな影響を与えましたが、共産主義というと、どうしてもソ連や中国のような独裁体制や、暴力革命のイメージが付きまといます。『宗教は阿片だ』なんて言葉も、かなり過激に受け取られがちですし…。でも、あなたが本当に目指したのは、もっと人間的な、自由な社会だったんですよね? そのギャップ、今日は埋めていただきたいです!」
(マルクス、ぐっと拳を握りしめ、何か言いたげな表情を見せる。)
あすか:「さあ、そして最後にご紹介するのは! 同じく19世紀ドイツより、哲学界の風雲児!
「神は死んだ」という衝撃的な言葉と共に、ヨーロッパの価値観を揺さぶり、「超人」思想を説いたこの方! フリードリヒ・ニーチェさんです!」
(ニーチェ、挑戦的な笑みを浮かべ、鋭い眼光を放つ。)
あすか:「ニーチェさん! あなたの言葉は、あまりにも鋭く、あまりにも多義的! そのせいで、単なるニヒリストだとか、果てはナチス・ドイツに思想を利用された、なんていう最も不名誉な誤解まで受けていますよね! 力への意志も、なんだかマッチョで暴力的なイメージですし…。ご自身の哲学が、そんな風に解釈されるのは、本意ではないはず! 今日はそのあたり、徹底的に反論していただきましょう!」
(ニーチェ、面白そうにあすかを見返し、頷く。)
あすか:「…というわけで、今宵はこの4名の偉大な哲学者の方々と共に、歴史が生んだ「誤解」に真っ向から挑んでいきたいと思います!
皆さん、改めまして、本日はよろしくお願いいたします!」
(ゲスト一同、それぞれの仕方で頷く、あるいは会釈する。)
あすか:「さて、早速ですが、皆さんに単刀直入にお聞きします。
ご自身の思想や言葉が、後世で「誤解」されている、あるいは「歪曲」されている現状について…ぶっちゃけ、どんなお気持ちですか? まずはエピクロスさんから、いかがでしょう?」
エピクロス:「(穏やかながらも、芯のある声で)ふむ…。まあ、時の流れと共に、言葉の意味が移ろうのは世の常ではありましょう。
しかし、わたくしが説いた『快楽』が、単なる肉体的、刹那的なもの…飽食や酩酊、際限のない欲望の追求といった、むしろわたくしが最も警戒したはずのものと同一視されている現状は、率直に申し上げて、甚だ心外ですな。
真の快楽とは、心の平静…アタラクシアにあるというのに。それを、ここまで低俗に解釈されるとは…。嘆かわしい限りです。」
あすか:「(頷きながら)なるほど…「低俗な解釈」、ですか。確かに、エピクロスさんのイメージ、かなり変わってきますね。
…では、マキャヴェッリさんはいかがです? ご自身の名前が、まるで悪口のように使われている現状は。」
マキャヴェッリ:「(少し皮肉な口調で)フン…儂の名を冠した『マキャヴェリズム』なるものが、巷間でどのように語られているかは聞き及んでいる。まるで儂が悪徳そのものを推奨したかのようにな。馬鹿馬鹿しい。
儂が『君主論』で述べたのは、理想論では国を救えぬという、冷厳なる現実だ。必要悪というものを理解できぬ青臭い連中が、儂を悪魔か何かのように扱っているに過ぎん。まあ、それもまた、政治というものの現実なのかもしれんがな。少々、うんざりしているのは事実だ。」
あすか:「必要悪…うーん、深いですね。そのうんざり感、よく分かります。
…さあ、次はマルクスさん。かなりお怒りのようにも見えましたが…。」
マルクス:「(待ってましたとばかりに、熱を帯びた声で)誤解だと!? あすか君、それはあまりに生ぬるい表現だ! これは断じて誤解などではない、意図的な歪曲であり、誹謗中傷だ!
我々が目指したのは、資本による搾取と疎外から人間を解放し、誰もがその能力に応じて貢献し、必要に応じて受け取れる、真に自由で平等な共同体だ!
それがどうだ! 後の世の独裁者どもは、私の名を騙って、官僚主義的な圧政と粛清の口実にした! 彼らが築いたものは、私が夢見た共産主義とは似ても似つかぬ醜悪な怪物だ! この汚名を雪がずして、どうして安らかに眠れようか! 断固として、真実を語らねばならん!」
(マルクス、テーブルを軽く叩き、憤りを露わにする。)
あすか:「(少し驚きつつも、興味深そうに)おおっと、マルクスさん、冒頭からエンジン全開ですね! その熱い思い、しかと受け止めました。
…では、最後にニーチェさん。あなたも、かなり複雑な誤解を受けていらっしゃいますが…。」
ニーチェ:「(他の3人とは違う、どこか高みから見下ろすような、しかし強い意志を感じさせる口調で)フン…(と、マルクスを一瞥してから)大衆が、私の言葉の深淵を理解できぬだろうことは、初めから分かっていたことだ。彼らは常に、安易なレッテルを貼り、凡庸な理解に引きずり下ろそうとするからな。
『神は死んだ』と言えば、単なる無神論者の戯言としか捉えられず、『超人』を語れば、己の矮小さを棚に上げて、傲慢なエリート主義だと騒ぎ立てる。挙句の果てには、あの忌まわしい国家社会主義の者どもが、私の思想を泥靴で踏み躙った! これ以上の侮辱があるかね?
…まあ、よい。誤解されることもまた、強者の宿命かもしれん。だが、歪曲されたまま放置しておくほど、私は寛容ではない。今宵、私の言葉の真の雷鳴を、聞かせてやろうではないか!」
あすか:「(目を輝かせながら)強者の宿命…! さすがニーチェさん、痺れますね! そして「真の雷鳴」! 期待が高まります!
いやはや、皆さん、オープニングからすでに火花バチバチ! このスタジオ、時空の歪みだけでなく、とんでもないエネルギーで満ち満ちてきました!」
(あすか、改めて全員を見渡し、笑顔で締めくくる。)
あすか:「さあ、準備はよろしいでしょうか?これから、お一人ずつ、その「誤解」の核心に迫り、徹底的に語っていただきます!
歴史バトルロワイヤル『その言葉、誤解ですから!』、いよいよ本戦、スタートです!」
(ファンファーレのような短い効果音。CMのあとに次のラウンドへ。)
CM
ぶどう絞り機が全てを教えてくれました。
書物は書く時代から機械で印刷する時代へ。
ハイテク技術の結集「活版印刷機」。