埋蔵金
最近は見かけなくなりましたが、一時はテレビでも
徳川埋蔵金の話題が頻繁に取り沙汰されていました。
有名なコピーライターが「あるとしか言えない」と
よく分からないキャッチコピーを掲げて日本各地を
探索していましたね。結局は出てこなかったけど。
あと国民の気の迷いで一時的に与党になった某政党
も、特別会計の見直しから捻出できるという財源に
この言葉を使っていました。出てこなかったけど。
もしも埋蔵金が事実どころか、洒落にならない真相
のものだったらと、妄想を膨らませ書いてみました。
この酷いオチは、ある映画のラストをパクった……
もとい、リスペクトしたものだったように思います。
しかし、公開年度を考えると、時系列的に全然違う
かもしれません。無責任かもしれませんが、人間の
記憶なんて、所詮そんなものではないでしょうか。
或いは誰かに記憶を捏造されたのかもしれません。
そういえば近ごろ、火星の夢ばかり見るんです。
では読んでくださいね。
大判小判がザックザク……何やこれは!?
学生時代の友人、田中から手紙が届いたのは一昨年
の七月でした。父親が急逝したので故郷に戻ったと
記されていました。
『土蔵を整理していたら、面白いものが見つかった。
歴史好きな君の意見を窺いたい』
田中家は、いわゆる地方の名家で、昔は庄屋として
近隣一帯を取り仕切っていました。屋敷の土蔵には
骨董的価値を持つ貴重な品々が多く保存されており、
今回、相続税を支払わなければならないので、高く
売れそうな物品をチェックしていたそうです。
『よかったら来てみないか? うまくすれば、君にも
大金が転がり込むかも知れないぞ』
暇だった私は、すぐに田中の故郷に向かいました。
再会の挨拶もそこそこに、田中は黄ばんだ紙切れを
持ち出してきました。古文書の一部らしく、墨文字
で何か書き込まれています。
「かなり読みづらいけど、これは……般若心経かな?」
「光で透かしてみな……その後ろに、何が見える?」
言われるままに室内灯にかざしてみると……
「これは……地図?」
「そう、この町が城下町だった頃の地図さ!すぐ傍の
城跡公園の案内図とピッタリ一致するんだ」
「まあ確かに珍しいものではあるけど、これにおまえ
が言うような価値があるかなあ?」
田中は急に声を落としました。
「死ぬ前に親父から聞いたんだよ。かつてこの辺りを
治めていた戦国大名が、いざというときに備えて、
軍資金を領地のどこかに、密かに隠したらしい……」
「それって……埋蔵金じゃないか!」
田中はニヤリと笑って地図の一点を指差しました。
城の裏山の一部に×印がついていました。
翌日、私たちは町外れの城跡公園に赴いて、裏山に
足を踏み入れました。目的の場所は、意外なくらい
あっさりと見つかりました。
山の斜面に、石で枠を組んだ横穴への入口があって、
苔むした一枚岩がそれをしっかりと塞いでいました。
二人で肩を当てて何度か押してみましたが……
「駄目だ。ビクともしない」
「侵入を防ぐために、この岩を置いたんだろうな」
疲れ果てた私は岩から離れて傍の倒木に凭れ、例の
紙切れを眺めていました。田中は膝をついて岩の下
を覗き込み、隙間はないかと熱心に探していました。
夏だというのに妙に肌寒く、今にも泣き出しそうな
曇り空でしたが、やがて、ポツリポツリと大粒の雨
が落ちてきました。
「おい、降り出したよ。出直そうぜ」
「待ってくれ! 今、いい感じの隙間を見つけたんだ!
ここに棒を突っ込んで梃子にすれば、動くかも……」
やれやれと思い持っていた紙に目を戻すと、ところ
どころに雨の雫が染み込んでいました。濡らしては
大変とポケットに仕舞いかけ、手を止めました。
濡れた部分に、別の文字が浮き出している……?
雨に濡れて滲んでいく般若心経の墨文字の下から、
別の文章が、徐々に姿を現して……これは……!
私はそれを解読して、血の気が引きました。
もしもこれが……事実なら……?
「田中! 今すぐ引き上げよう!一刻も早く!」
「だから待てって、ちょうど手応えがあったんだ!」
田中は、雨を気にする様子もなく、手近な棒を岩の
隙間に突っ込んで奮闘していました。
「やめろ。諦めるんだ……そこに埋蔵金はないよ」
田中は訝しげに振り返りました。
私は浮き上がってきた文章の内容を伝えました。
「おまえの先祖は、大勢の人足を雇ってこの辺り一帯
を掘り起こさせ、首尾よく埋蔵金を発見したんだ。
しかし当時の藩主からそのことを隠蔽するために、
関わった人足全員を生き埋めにして、口封じを……」
「出鱈目を言うな!どこにそんなことが……」
「ここに書いてあるよ……晩年、自らの所業を悔いて、
般若心経の下に特殊な隠し文字で全てを記し、人足
たちの菩提を懇ろに弔った。しかし、そんなことで
生き埋めにされて殺された人足たちの激しい恨みが
おさまるわけがないことも、重々承知していた……」
私は田中に向けて紙切れを掲げました。
「これは埋蔵金の地図なんかじゃない……自分の子孫に
向けて、つまり田中……おまえに向けて、先祖からの
『この場所にだけは絶対に近づくな』という警告だ……
早くここから退散しないと、大変なことに……!」
田中の持っていた棒が岩の隙間に吸い込まれました。
ぎょっとして立ち尽くす田中の目の前で、あれだけ
堅牢で動かなかった岩が、音を立て横にずれました。
そして、ぽっかりと口を開けた漆黒の暗闇の奥から、
いくつもの痩せこけた顔が、ゆらりゆらりと浮かび
上がってきました。髑髏に皮を貼り付けたように、
干からび、朽ち果てた無表情。しかし、虚ろだった
眼差しは、田中の姿を捉えると、激しい怒りと憎悪
にかっと見開かれました。同時に、何十本もの腕が
穴から伸びてきて、田中の全身に纏わりつき、頭も
胴も腕も足も、容赦なく掴み、捩じ上げ、締めつけ、
有無を言わさず闇の中に引き摺り込みました。田中
の悲鳴がまだ途切れないうちに、再び動いた岩が、
穴を完全に閉ざすと、辺りはまるで何事もなかった
かのように、ひっそりと静まり返りました。
あっという間の出来事でした。
気がつけば、空は晴れ渡って、まぶしい日差しの下、
蒸し暑い空気の中を、蝉の声が鳴り響いていました。
汗まみれの、しかし冷え切って震えが止まらぬ私の
手の中で、干からびた紙切れが、音もなく崩れると、
生暖かい風に吹き飛ばされていきました。
【註:ネタバレあり〼。本編を読んでからの閲覧推奨】
南無阿彌陀仏、南無阿彌陀仏……南無~ (チーン)
先祖の悪行が子孫に報いる、因果応報といえば
因果応報ですが、これけっこう理不尽ですよね。
田中君は全然悪くないのに何故こんな悲惨な目
に遭わねばならんのか(←お前が書いたからだ)
さてお化けの集団にガッツリ捉えられ、連れて
いかれるシチュエーションは、いろんなホラー
映画であったように思いますが、これを書いた
頃だとあれかな、ネタバレにならぬよう題名は
伏せるけど(監督名は出すけど←おい)サム・
ライミの、最初の数分でオチが分かってしまう
のにその後の展開や描写がやたらテンポよくて
面白くて最後までしっかり見てしまいラストは
やっぱりそのオチかよと突っ込みたくなるあれ。
あれも主人公は社員として真面目に業務を遂行
しただけなのに、理不尽に恨まれて、呪われて、
最期は酷い目に遭わされてました。悪くない人
に因果応報って、何か納得できないですよね。
思えば「真景累ヶ渕」も登場人物のほとんどは
ほぼほぼ血筋で巻き込まれてるだけですもんね。
血は水より濃いということですかね。違うか。
それではまた来週、貴方とお会いしましょう♪(来週?)