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d2-4.余計な詮索

まだ何も決めていないところから、とりあえず絶望してる女の子書こうと思って書き始めました。

設定も何もなかったペラッペラな彼女はひとまず救われましたが、彼女の独白には不穏な雰囲気が散りばめられています。

私は蓮くんと別れた後、次の仕事をもらうべく管理棟へ向かった。

「龍崎さ-」

やらかした。

ガラスの向こうの人物はサーファーさんこと「ナカジ」さんだった。

私は既にドアを開け、声をかけてしまった。当然相手も私に気付く。龍崎さん、ごめんなさい。見つかってしまいました。

「こんにちはー、ってなにその顔。俺に見つかっちゃダメだった感じ?」

どうしよう。直接ダメだと言われたわけじゃないけど、わざわざ会わないように薪を渡させたりしていたから、ダメなんだと思うが…。

「ああ、いえ、そんな事はなくて。すみません、人違いしてしまって。バイト初日の桜井です。何かご用でしたか」

私は従業員として対応し、誤魔化すことにした。

「他のキャンパー居るかの確認にね。もしいないなら、晩御飯一緒にどうかと思って聞きにきたんだよ。龍はどこかに行ってるっぽいけど、桜井さんも一緒にどうかな」

笑顔が爽やかで、蓮くんはパパ似なのかなと思った。

「予約のお客様は他に有りませんが、龍崎さんに確認しないとなんとも…」

「それもそうか」

にかっと笑うサーファーさんとは対照的に、対応に困る私の笑顔はきっと引き攣っているだろう。よく言われるのだが、顔に出やすいタイプなのだ。

「櫻井さんって下の名前はなんて言うの?」

この流れはまずい。なんか色々聞かれそうだ。龍崎さん、私はナカジさんとどこまで話して良いんですか!

「ミサキと言います。美しく咲くと書いて美咲です。苗字のサクライは、チェリーブロッサムの方の桜です」

「へぇー」と言いながらナカジさんは椅子に腰掛けた。しかも「まあ、座って待とうよ」とくる。

私はおずおずと椅子に座る。間違っても龍崎さんを怪しい誘拐犯にしないよう上手く答えなくては。

「凄い綺麗な名前だよね。美咲さんにぴったりの素敵な名前だと思う。なんていうか、美咲さんって儚げな美しさがあるよね。思わず目を惹きつけられるというか。上手く言えないけど、特に瞳が綺麗だ」

私はこんなにはっきりと、正面から褒められたのが信じられなくて、口をぱくぱくと動かすことしか出来なかった。

ナカジさんは声を出して笑う。

「ごめんごめん、口説いてる訳じゃないんだけど、思ったことは正直に言っちゃうタイプなんだ。気を悪くしないでね」

「そんなことないんです、ただ、そういう事言われ慣れてなくて…。気の利いた返しができなくって」

「こんなに可愛いのに口説かれ慣れてないなんて嘘だよ!」

蓮くんはパパに似てプレイボーイに育ったんだなとしみじみ思う。

私は頬が熱くなるのを感じ、目を背けてしまった。

これは決して恋だとかではなく、ただ恥ずかしさからくる熱だ。

「嘘じゃないです。いままでそんな…あ、私にも名前を教えてくれませんか?」

私は質問する側に回って、自分の事を聞かれないようにする事にした。

「ああ、中島篤哉です。龍も俺のことナカジって呼ぶからナカジで良いよ」

「えっとー、じゃあナカジさん。龍崎さんとはどういう付き合いなんですか」

待ってました、と言わんばかりにナカジさんの口角が上がる。

「その前に質問。俺、普段なんの仕事してると思う。初めて会った人にはこの質問するんだ〜」

にやにやしてるナカジさん。こういう時は相手が喜びそうな答えを出すのがモテる女のテクニックだと、バイト先の子は言っていた。でも私は、ぜひ当てたいと思った。

冷静に情報をまとめてみる。

日に焼けた肌、手首には腕時計の日焼け跡。そして、夏休みとはいえ平日に来てることもヒントになるだろう。本当にサーファーの可能性…いや、ライフセーバー? 何かしらのインストラクターという線もありうる。筋肉もしっかりしていて健康的だ。

なんにせよ普通のサラリーマンということはないだろう。サービス業で、外で働いて、運動する仕事…。

「言って良いですか」

どうぞ、とナカジさんは余裕そうだ。

正直自信はない。

「海上…保安官とか」

おお、とナカジさんは大きなリアクションを取った。しかし-

「惜しいな〜」

一瞬当たりかと思ったが、違った。

「正解は自衛官でした。陸上のね。消防士とか海猿とか、たまに言われるけどちょっと近いよね」

「違うじゃないですか。どこが惜しいんです」

「普段はアパレル系とか、サーファーとか言われるからさ」

ギクリ。でもやっぱりそうみえるよね。

「っていうかなんなんですか、この質問。サーファーとか言われたかったって事ですか」

真面目に考えて外した分、少し悔しい。

「ああ、いや、それもある。だけど今回は美咲さんの質問に関連してたからさ」

自衛官の仕事が龍崎さんとの関係に? 疑問は答えに変わった。

「もしかしてナカジさんと龍崎さんは自衛隊で知り合ったって事ですか」

「正解」と笑うナカジさんはさらに続ける。

「龍とは新隊員の時からの中でね、配属された部隊は別れたけど、レンジャーでも一緒になったんだ。それ以来、あいつが辞めてからも連絡を取ってて、こうして遊びに来てやってるんだ」

ナカジさんは意外だけど、龍崎さんはイメージ通りだ。

「レンジャーって何なんですか?」

「自衛隊の中でも結構キツイ教育でね、んー、なんて言えば良いか。特殊部隊とまではいかないんだけど、普通の自衛官よりは大変な訓練を集中的にして、耐え切れた人だけが残るんだよ」

「凄いですね! え、じゃあ2人は最後まで残ったんですか」

この質問に、ナカジさんの顔が少し曇った。

まさか、ダメだったのか。

「いや、龍はだめだったんだ」

歯切れが悪かった。龍は、という事はナカジさんは最後まで残ったんだろう。

「なんか、意外ですね。悪い意味じゃなかって、2人が協力して残った話しかと思ったので」

「うん…なんていうか、龍は残れるだけの体力もやる気もあった。実際、龍がいる間、課程の中で常に1番だったしね」

暗い表情で視線を落とすナカジさん。この先は聞かないほうがいいと思いつつも、私は自分の口を止められなかった。

「じゃあどうして、最後まで残れなかったんですか」

「それは…」と、ナカジさんは目を泳がせて考えこんだ。

それから、声のトーンを落として膝を寄せた。

「誤解しないで欲しいんだけど」、と前置いてから、ナカジさんは話し始めた。

「処分を受けたんだ。想定中に…同期を殴っちゃってね。そいつが被害届を出して、それで依願退職したんだ。でも-」

ー管理棟の扉が開く。龍崎さんが帰ってきた。

「仲良くなったか? ナカジは誰とでも打ち解けるから心配いらないだろうが」

人を殴って処分を受けた。それが私には想像できなくて、脳が混乱していた。そんな性格だとは思えないのだ。

でも、ややテンションの低いその声に少し体が強張る。ナカジさんと話していたことを怒っているのか、それとも話の内容を聞かれてしまったとか。

私は再び「ミザリー」を思い出し、頭を振ってリセットした。

「超仲良くなったよ、電話番号まで聞いちゃったもんね、美咲ちゃん」

話を誤魔化しているつもりだろうが、無駄です。私がスマホも持ってない事、龍崎さんは知ってます。

私は首を傾げて返事を濁した。きっと顔にも出ているだろう。

「それより龍、今晩一緒に飯食わない? みんなで食べられるだけの食材は持ってきてるからさ。久々に飲もうぜ」

爽やかな笑顔でナカジさんが言うと、龍崎さんも笑って答えた。

「俺もそう言おうと思ってたとこだ」

夜のバーベキューでは、ナカジさんが言いかけた「でも」の続きが聞けるだろうか。

私の詮索は私を幸福にするだろうか。知らなくても良いことも、世の中にはあるんじゃないか。そんな葛藤をしながら、私は夜を待つのだった。

龍崎さんの過去が少し垣間見えましたね。いやー、夜のBBQどんな内容にしよう。

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