d2-5.吐露
まだ何も決めていないところから、とりあえず絶望してる女の子書こうと思って書き始めました。
設定も何もなかったペラッペラな彼女はひとまず救われましたが、彼女の独白には不穏な雰囲気が散りばめられています。
「じゃあ、改めまして〜…かんぱ〜い!」
既にだいぶ飲んでるが、ナカジさんが乾杯の音頭を取った。
それじゃ早速、と肉を野菜をとジャンジャン焼き始めたナカジさん。火起こしどころか、テントを張り終わった時点ですぐに飲み始めていたというのは奥さん談だ。
ナカジさんの奥さんは恵さんと言うそうで、背が高くスタイルも良く、涼しげな切れ長の目が印象的な美人だ。モデルと言われても通用しそうな見た目をしているが、とてもとっつき易い明るい性格だった。
「ほら蓮、もう焼けてるからどんどん食べなさい。龍さん美咲ちゃんももうぞー」
どうやら恵さんが焼き網の上を管理しているようだ。その証拠に肉を追加しようとするナカジさんが追い払われている。
「美咲お姉ちゃん、今日は何してたの」
私の隣にぴったりくっついた蓮君はカルビを頬張りながら聞いてきた。
「えっとー、色んなところのお掃除かなー。蓮くんは」
「僕は自由研究。パパが火の付け方とか蛇を切る方法とか教えてくれたから、それを写真に撮って後でまとめるんだ」
「蛇を切るって何、まさか食べたりとかするの」
驚いて引き気味に聞いてみたら、そのまさかだった。
本人は美味しかったと言っているが、恵さんは首を横に振っていた。
「もうほんっと勘弁して欲しいんだから! 私ヘビ苦手なのよ? なのにあっくんはノリノリで罠用意したりして、っていうか罠に使うカエルも気持ち悪いし、最悪よほんと」
嫌がる恵さんを見て蓮くんは笑う。子供らしからぬプレボーイだと思っていたが、母親へのいたずら好きな表情はとても子供らしかった。
ナカジさんはというと、龍崎さんと他2人で語り合っていた。
どうやらナカジさんは、自衛官仲間の近況や、面白かったエピソードを延々話しているようだった。
龍崎さんも、それを楽しそうに聞いている。
暴力を振るって退職したと言っていたけれど、昔の事を思い出すのは嫌じゃないのかな。
私が盗み聞きをしていると、恵さんがそれに気付いたようだった。
「何話してんか、気になるの」
声のトーンを落として、恵さんはニヤニヤと笑う。
「いえ、そのなんて言うか…。私、あんまり龍崎さんのこと知らないので、どんな人なんだろうなって」
これは嘘じゃない。
「そんな熱い目で見つめちゃって、可愛いわねー、美咲ちゃん」
「そっ、そんなんじゃ無いです!」
急に大声を出したせいで、全員驚いて私を見た。いや、ナカジさんは何事もなかったかのように話し続けていた。
すみません、と龍崎さんにジェスチャーを送る。
蓮くんは驚いた拍子にピーマンを皿から落としていた。いや、ニヤニヤしているから、わざとかも知れない。
私は一段と声を落として恵さんに耳打ちする。
「それに私、一応彼氏いるんですよ」
あらっ、と驚く恵さん。一応いる、なのかな。もう会う事も無いだろうけど、正式に別れたわけじゃないから嘘ではないよね。
どんな人なの、と恵さんは興味津々だった。蓮君も私に注目している。
私はここで何と言うべきなんだろう。
散々迷った挙句、正直に言うことにした。
「32歳無職のヒモ男です…」
ヒモ? と首を傾げている蓮くん。君はそんな男になっちゃだめだぞ。
「なんで、なんでそんな人を。美咲ちゃんそういう人がタイプなの」
一方で、心底驚く恵さん。思わず肉を返す手が止まるほどに。
「違うんです、それは成り行きっていうか…。いろいろありまして、言いにくいんですけど、決して好かとかじゃありません」
これは本当だ。恵さんは訳を聞きたくてうずうずしているようだった。
私は…頭を整理する意味でも、少し話したい自分に気付いた。
「龍崎さんに内緒にしてくれるなら、話しても良いですよ」
もちろん! と恵さん。ついでに蓮くんはナカジさん達のとこへと追い出された。
同じ卓の角と角で、男子会と女子会が始まった。
次回は彼女の過去の一部です。