d0.私が人生を諦めた日
まだ何も決めていないところから、とりあえず絶望してる女の子書こうと思って書き始めました。
設定も何もないペラッペラな彼女がどんなキャラクターに育つのか、見当もつきません。
でも取り敢えず、救われると良いですね。
多分だけど、1時間は歩いたと思う。
車を降りてから考えたら、もう2時くらいなんじゃないかな。丑三時っていうのももう直ぐなのかも。そう思うと、少し背筋が寒くなったけど、そんな考えもすぐに霧散する。
頭の中は靄がかかったみたいに重くて、色んな人の消えない言葉がいつまでも反響している。
「成績が落ちてるぞ」「くだらない付き合いはやめなさい」「失望させるな」「もう学校にはいかなくていいわ」「もう娘とは思わん」「あなたの為を思って言っているのよ」「こんな事ご両親にバレたら大変なんじゃないの」「ただって訳にはいかないでしょ」「貸した金は返してもらわないと」「こんな事も出来ないの」「使えねえな」ーーー
私はいつだって失敗してきた。両親に従ってきた時も、逆らって家出した後も。何をしたってダメで、迷惑かけるしか能がない役立たずだ。
だから今度は誰にも迷惑かけることなく成し遂げたかった。
その決意で、富士の樹海へと潜ってきてるのだ。これだけ歩けばきっと、すぐには見つからないだろう。そう思って歩くのをやめた。
滑らかな木の根を湿った苔が覆い尽くし、柔らかそうだと思って腰をかけてみた。人生で初めての経験だけど、なんていうか、気持ち悪いとしか思わなかった。
思わず鳥肌が立ったけど、立ち上がる気力も体力もなくて、もうここでいいと思った。
覚悟を決めてポーチからジップロックを取り出した。
A4ほどのジップロックには白い粉が、これまた小分けのジップロックに入ってびっしり詰まっていた。
「あいつらにかかる迷惑だけは、ノーカンだよね」
悪戯っぽく笑うつもりが、出てくるのは涙ばかりだった。20年も生きてきて、最後に手元にあるのがこれなの。
小袋を全て外に出し一袋ずつ水筒の中に開封していく。月明かりも弱くて、結構溢れてるかもしれない。それでも2袋、3袋と開けていくうちに、確実に死ねる気がしてきた。
小心者の私はこれを使ったことがない。命令されて使ったのはもっと別の多分マイルドなやつ。詳しくはわからないけど、その1回きりで後は逃げてここまで来られた。
みんなは炙ったりしてたけど、私は分かんないから水と混ぜて飲もうと思った。念のためお酒も買ってきた。その方がキクって言ってたから。
全部の小袋を水筒に開封して、水を振ってめちゃくちゃ振った。それから、持ってきたウイスキーを瓶のまま飲んでみた。
「がっ…」
生まれてこの方、味わったことのない衝撃かも知れない。命令されて使ったあれなんか非じゃない衝撃。喉が燃えるように熱くなって、一気にカラカラになった。食道も、胃も、ひっくり返して洗ってしまいたいほどだ。
どれだけ飲んだのかも暗いせいでわからない。200mlの小瓶はまだ重く、私はこんな物を選んだことを後悔した。
「不味すぎる。梅酒とかにしとけば良かった」
顔が、体が、内側からほてってきた気がした。酒が回るには早すぎると思うけど、とにかく回ったような気分になった。
勢いに任せて、2度、3度と口をつける。
「あ、あ〜」
喉は完全におかしくなっていた。
それからしばしらく時間をかけてなんとか全て飲み干した。
私は強く、水を飲みたいと思った。
ちらと手元を見る。真っ暗な森の中、私が作った特製のカクテルを。
雲を抜けたのか月明かりが差し、すいとうに入らなかった粉が死神の手の様に見えた。一瞬ギョッとして、飛び上がりそうになった。
酔いが回るにはまだ早い。…はず。
これを飲めばきっと死ねる。飲みたくないけど、早く飲みたい。
「さあ! さいごくらい、どきょうみせなきゃね!」
思ってたより大きな声が森の中に響いて、自分でも驚いた。酔ってるのかもしれない。
そう思うと、なんだか急に怖さが薄れた。
「もしもうまれかわったら、こーいうのごくごくのんで、わらっていられるじんせーにしたいな」
今度こそ悪戯っぽい笑みが作れた気がする。
「わたしのらいせに、かんぱーい!」--
ーーパキッーー
背後から木の枝が折れた音がした。思いっきり水筒を掲げたところで、私は本当に飛び上がった。
最後の音はなんなのか、それだけ決めたら次を描き始めます。