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修道女の野菜と謎〜宝探しと玉ねぎパイの幸運〜

 修道女・ヘルガの朝は早い。暗いうちに聖書朗読、礼拝を済ませると、畑仕事に取り掛かる。ヘルガの仕事は修道院での農作業だった。


 農作業は基本的に若い修道女達が担当していた。ヘルガだけでなく、アメリー、リーゼ、ユリアーナ達が玉ねぎを収穫。今の季節は秋で玉ねぎも豊作だった。時給自足生活している修道女達は、これも立派な仕事だった。


「玉ねぎは栄養が豊富で、体も温めるらしい。あと太っている人にも食べ過ぎずにいいんだって」


 手を動かしながらも、ヘルガは野菜の蘊蓄(うんちく)を披露していた。


 元々病弱で医者には長く生きられないと告げられていたヘルガ。侯爵という家柄も良かったは、ヘルガの健康状態に縁談相手も断り、結局嫁ぎ遅れた。その結果、侯爵家がある都から修道院がある田舎に放り込まれたが、すっかり体調不良が良くなってしまった。今は健康的で小柄な修道女といった雰囲気だ。。


 医者は田舎の空気、水、それに野菜が健康に良かったのだろうと分析していた。ヘルガもそう思う。特に修道院でとれる野菜は大きく、太陽の味がする。ヘルガはどんどん野菜が好きになってしまい、今は畑仕事をするのも幸運だと思っていた。


 確かに身分が高い家から修道院で暮らすのは、世間的に見れば良くない事かもしれない。結婚もできなかった。それでも健康な身体を手に入れられた。修道女も村の人もみんな良い人だ。これ以上の幸運は思いつかない。


「またヘルガは野菜の蘊蓄(うんちく)を話してるんだから。薬草だって健康に良いのよ」


 そう言うのはリーゼ。ヘルガが一番親しくしている修道女だが、最近は薬草にハマっているらしい。おかげで二人には共通点が増えてしまい、余計に仲良くなっていた。


「ちょっと、二人とも。何、野菜や薬草で盛り上がってるのよ。私だってとびっきりの噂を耳にしたんだからね!」


 そう言うのはアメリー。アメリーも若い修道女だが、噂好きなのが玉に瑕。性格や頭も悪くないのに、村人の噂の最新情報を話す姿は、ちょっと残念。修道女達は聖女と誤解される事も多いが、特別な人ではない。普通に欠点もある人間だった。


「噂ってなんですか?」


 まだ修道女になったばかりのユリアーナ。こちらは初々しく、アメリーの噂話を素直に聞きたがっていた。


「実はね、この村に宝が埋まっている噂があるの。村の人達、みんな必死に探してるのよ」


 宝という言葉にヘルガやリーゼも食いついていた。


 アメリーによると、最近都で窃盗団が捕まったらしい。窃盗団はきつい尋問に全てを吐き、この村にも盗んだ宝を隠した事があると供述しているというが。


「本当ー?」


 比較的リアリストなリーゼは全く興味がなさそだが、ヘルガやユリアーナは興味が出てきた。


 空いた時間に二人で宝を探しに行くことにした。アメリーやリーゼは菓子作りの仕事が忙しく、結局二人で行く事になった。


 まずは村の森へ。カラスの森と言われているところで、昼間でも薄暗い。それでも森に大勢の村人がいた。みんな宝のありかを探しているという。


「ユリアーナ、お宝って本当にあると思う?」

「どうだろう?」


 村人は必死に探していたが、ヘルガやユリアーナはピクニック感覚で森を見ていた。二人とも貴族出身なので、実はさほど宝にもお金にも興味がなかった。こうして宝探しをする事自体にワクワクしていた。


 特にヘルガはお金に汚い親や婚約者を見てきた。大事なものではあるが、それ自体が人間を幸福にするものではないと気づいていた。


「ねえ、ユリアーナ。お宝見つけたら、どうする?」

「そうだな。ヘルガの美味しい玉ねぎパイ食べたい!」


 ヘルガは玉ねぎパイが得意料理だった。


「いいよ、玉ねぎパイいっぱい作っちゃおう!」


 こんな呑気な事を言っている二人が宝を見つけられるわけもなく、日が暮れていった。


 翌朝。ヘルガはいつものように早起きし、畑仕事をしていた。今日は土の状態に気になる所はあり、他の修道女達よりも早く行き、畑を見ていると……。


「あれ? これって宝箱?」


 土をいじっていたら、シャベルの先端がガリっと何かぶつかったようだ。別の大きなシャベルで掘り起こすと、そこには大きな宝箱。


「これってみんなが探していた宝箱! 大変! アメリー、みんな起きて!」


 ヘルガはみんなを呼びに行った。修道女だけでなく、祭司や村人もやってきた。この宝箱をみんなで開ける事になった。


 中に入っていたのは宝だった。だったのだ。そう、過去形だ。


 指輪は錆びつき、紙幣は虫が食われていた。アクセサリー類も元々偽物だったか、ボロボロのガラクタばかり。劣化し、宝物とはの言えない状態だ。


 修道女達も村人達も祭司もみんな脱力していた。村人は肩を落としていたが、ヘルガは安堵していた。もし本当の宝があったら、自分の身も危険があったかもしれない。


 貴族であった親戚は遺産争いで命も落としていた事を思い出す。これで良かったのだろう。宝なんてなくて良かった。自分に言い聞かせていた。


 その証拠に村人達と修道女達も相変わらず仲良しだった。


 それでもユリアーナには約束通り、玉ねぎパイを振る舞った。黄金色の丸くて大き玉ねぎパイは、とても美味しい出来だった。


「玉ねぎは温めると、より栄養素があがるとか。ユリアーナもいっぱい食べてね!」

「うん、美味しい!」


 そこのアメリーやリーゼもやってきてみんなで玉ねぎパイを食べた。


 こんな風にみんな笑顔で食事ができる事。それはどんな宝物より幸せな事だ。ヘルガも微笑みながら、玉ねぎパイを噛み締めていた。


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