修道女のお茶と謎〜回復のフェンネルティー〜
修道女・クラーラは書庫へ出向き、資料を読みこんでいた。時にむかしの修道女が書き残した野菜、薬草、魚などの記録を。
昔は修道院が医者の役割をやっていたらしく、健康的な食事への研究もやってうたらしい。クラーラはそれを貪るように読んでいた。
クラーラは最近まで入院していた。元々身体が弱く、長血もあり、修道院から強制的に入院となっていたが、最近どうにか復帰し、修道院で暮らしていたが、健康への不安はとれない。
同じ年頃の修道女・リーゼからは、昔の資料が役立つと言われ、こうして探していた。
健康だけでなく、肌荒れや日焼けの事も気になり、膨大な資料を読むだけで楽しい。元々真面目なクラーラ。地味な修道着姿もバッチリと似合っているぐらいストイックな性格だったので、調べ物は自体が楽しい。
「へえ、フェンネルティーは女性の健康全般に役立つのか……」
得た情報はメモに書き付け、奉仕の仕事へ戻った。今日は村で菓子の移動販売、慰問、子供達への学習支援の奉仕がある。いつまでも書庫に引きこもっているわけにはいかない。
今日はよく晴れていた。クラーラは菓子の移動販売の担当となり、村の広場で仕事をしていた。同じく修道女であるアメリーとコンビを組み、試食を勧めたり、商品説明をしたり大忙しだ。
最近はシナモン味のクッキーが人気でよく売れているようだ。代わりに甘いだけのマカロンなどは売れ行きが悪い。
「ねえ、何でシナモンのクッキーが人気なの? 私が入院している間、何かあった?」
ちょうど客が途切れた時、アメリーに聞いてみた。アメリーはいい子だが、村の噂を仕入れるのが大好き。何か知っているだろう。
「最近、村では美容や健康ブーム。特に奥さん達がそうで、修道院のお菓子や料理に興味深々みたい」
「へえ」
「まあ、私は医者じゃないし、本当に修道院が健康的かは不明だけど」
「そうなんだ。でも私はこれからは薬草や野菜の勉強もいっぱいして、美しく健康になりたいわ」
「わー、立派だわ。クラーラは村の人とのは気が合うよ。意識高い。あ、でも……」
ちょうど菓子の販売所に一人の村人がやってきた。村の奥さんだ。ゲルデという名前だが、子供はいない。そのせいか、ゲルデはちょっと村では腫れ物扱いされていた。年齢も三十五歳だが、大人っぽく真面目そう。とっつきにくい雰囲気もある。
「お菓子なんて売ってるの? 良くないわ」
ゲルデは文句を言ってきた。突然の事でクラーラは呆然。
「いいじゃないですか。お菓子は癒しです。過度に食べなければ良いものですよ」
「ふん、興味ないから」
アメリーの反論もろくに聞かず、ゲルデは去って行ってしまった。
「あの人何?」
「あの人、村の美容や健康もガチでやってるとか。肉も食べず、一週間もストイックに断食してるんだって。だからって私達に嫌味を言う事ないのに」
アメリーは明らかにゲルデの事が嫌いそうだった。
ゲルデの家は中間層だ。貧乏でも金持ちでもないが、身分は恵まれた立場にも見えた。それなのに美容や健康に執着しているのも気になる。
クラーラは自分と重ねてしまう。自分も病気がきっかけとなり薬草などを調べていた。もしかしたら、何か事情はあるのだろうか。
翌日、ゲルデの家へ行ってみる事のした。手ぶらで行くのも気が引けたので、クッキーやフェンネルティー持っていく事にした。
ゲルデがあんな態度をとる理由が知りたい。もし健康に悩みを抱えていたのなら、修道院でもできる事がある。慰問はもちろん、末期の患者にはホスピスも紹介する事もできる。
「こんにちは。ゲルデ。ちょっと良いかしら」
突然の訪問だったが、意外にも家に招いてくれた。
クラーラにはどれだけ健康や美容に気を使っているか話す。単に話しているだけでなく、自慢という雰囲気だった。ゲルデの話す声に棘があり、嫌味っぽい。
それにしても家の中はがらんとしてる。洗濯物もゲルデのものしかない。
「旦那さんは?」
「出稼ぎで都に出ているのよ」
そう語るゲルダは寂しそう。目を伏せ、急に声も弱々しくなった。意識が高く話しにくい人かと思っていたが、そうでもなさそう。というか家で一人で食事をしているゲルダを想像すると、胸が痛くもなる。
過度に美容や健康にこだわってるいるのも、寂しいからかも。身体というより、心が不健康になっているのかもしれない。
「ねえ、ゲルダ。お茶とクッキーを持ってきたの。お茶しない?」
「お茶?」
「ええ」
「でもクッキーは、砂糖や小麦が……」
「大丈夫だって。たまに食べても太らない」
クラーラの押しに負け、二人でお茶会をした。お茶はフェンネルティー。クッキーはシナモン入りの今一番の人気商品。
「あ、美味しいかも?」
ゲルデはおそるおそるクッキーを咀嚼していた。
「でも美容や体重が……」
「だから大丈夫だって。断食とかもやめません? 実は私も……」
クラーラも断食しすぎて病気になった。祈祷会で頑張り過ぎた。一カ月も断食していたら、身体も悲鳴をあげるのに決まっている。
「私の場合は頑張り過ぎちゃった。何か色々薬草とかも調べたけど、頑張り過ぎたのが原因だったのかな」
今、ゲルダを目の前にして、病気の原因がわかった気がした。
「そう、そうよね……」
「ゲルダは十分綺麗です。ありのままの美しさっていうのもあると思います」
ティーポットからフェンネルティーをカップに注ぐ。
古い資料によればフェンネルティーは女性の不調に効くという。食欲も回復し、視界がクリアになるとか。スパイシーな香りはちょっと癖があるが、味は苦味もあるが、逆に効果がありそう。
気づくと、クラーラもゲルダも笑いながらお茶やクッキーを楽しんでいた。
頑張りすぎるのも一旦休憩。今日はこんなお茶会を楽しむのも悪くないはずだ。
「フェンネルティー飲んでたら食欲も戻ってきたかも。断食はとりあえずやめよかな」
気づくと、ゲルデの表情もスッキリちしたものに変わっていた。
「ええ。何だか私も回復してきたかも」
クラーラの表情も笑顔に変わっていた。自分ももう大丈夫だ。フェンネルティーを飲みながら、今は回復していると確信していた。




