難しいお話
「ねえ、好きって言葉の意味を聞かれた時なんて答える?」
そう突拍子も無く聞いてきた僕の幼なじみだった。
土曜日の夕方に喫煙喫茶に行ってみようだなんて言い出すような、まるでおっさんみたいな嗜好をしている癖して、
たまには女の子らしいことを言い出すんだなと少し驚きながらも、ただ浮かんできたまま
「その人とずっと一緒にいたいと思ったらそれは好きなんじゃないの?」
点けたての煙草をひと吸いしてからそう答えた。
「でも、それは依存っていうんじゃない?」
確かにな。と変に納得させられてしまった。
普段はふわふわしていて何も考えてないような奴だが、こういう時だけはインテリみたいになるな。
「確かにねえ」
「いや興味なしじゃん、それだからいつまでも元カノの数ばっか増えてくんじゃない?」
「俺が1番気にしていることを....お前こそ、そろそろ彼氏の1人でも作ったらどうよ。もう俺らも20で大人だよ??」
自分の気にしている部分を突かれたからと、ノンデリな発言をしてしまったなと思いつつもそう言い返した。
「今の私に恋愛なんて無理だよ。もし付き合えたとしても、私は本当にこの人が好きなのか不安になっちゃうんじゃないかな。」
「だから、怖いんだ。」
喫茶店の窓を見つめて黄昏たように、そう言葉を零していた。
気づけば灰皿に添えておいた煙草もほぼ灰に変わってしまったが、なんだか勿体無い気持ちにはならなかった。
じゃんけんに負けて支払いを持たされた後、僕たちは喫茶店を後にした。
3月下旬の半端に冷たい夜風を浴び、いつになったら春はくるんだよなんてくだらない話をしながら家に送り届けた。
自宅へ向かって歩き出そうとすると、
「あのさ」
と消え入りそうな声で呼び止められた。
振り向くと、寒さからか赤らめた幼なじみの顔があった。
「私、お前って呼ばれるの嫌かも」
急だったので驚いて沈黙してしまった。
すると家の玄関に手をかけながら、
「だから次も奢りね」
そう言い捨ててオレンジ色の明かりの向こうへ消えていった。
.....今日はなんだか不思議なことばかり言う奴だったな。
少しコンビニの隅に寄り道して、昔はどんな風に呼んでいたか思い出すことにした。