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ショートショート4月〜5回目

文章は物語になれるのか?

作者: たかさば

 ……ここに文章がある。


 適度に漢字が使われた、句読点のある文章だ。

 適度に段落が設けられた、やや圧迫感の少ない文章だ。

 義務教育を受けた大人ならば、たやすく読めそうな文章だ。


 文章を、目で追ってみる…。


 文字の並び方は一般的だが、文章の作り方は個性的だ。

 ありふれた単語が多用されているが、文章の構成は独特だ。


 これは…文章である。

 まごうことなき、正しい日本語で記された文章である。


 これは…物語なのだろうか?


 目で見る分には、物語のように見受けられる。

 文字を読んでみると、物語ではないようにも思う。


 文字を目で追い、読むことはできる。

 文字を追って、文章であると認識することはできる。


 文章を読んで、内容を知ることはできる。

 文章を読んで、内容を予測することはできる。


 文章を読んでも…、物語であると理解するのが難しい。

 文章を読んでも…、物語の内容を理解することが難しい。


 おそらく、読んだだけではわからない部分が有るのだろう。

 たぶん、書いた本人しかわからない部分が有るのだろう。


 おそらく、読んだ者にとっては、文章なのだろう。

 たぶん、書いた本人にとっては、物語なのだろう。


 読んでよかったのか、読まれてよかったのか。

 読ませてよかったのか、読めてよかったのか。

 読んでもらいたかったのか、読ませたくなかったのか。

 読ませたかったのか、読まれたくなかったのか。


 自分だけが理解できる物語なのか、誰かに理解してもらいたい物語なのか。

 自分だけが解ればいい物語なのか、誰かにも解ってもらいたい物語なのか。


 ……ここに、文章が、ある。


 わりと、読みやすい、文章だ。

 わりと、主張のある、文章だ。

 わりと、勢いのある、文章だ。


 ずいぶん、印象に残る文章だというのに…心に残らない。

 ずいぶん、気になる箇所が多いのに…心に響かない。

 ずいぶん、読み進めたはずなのに…心を素通りする。 


 かなり、心が…ざわつく。

 かなり、心が…とまどう。

 かなり、心が…おちつかない。

 

 ……だから、僕は、ここには物語はないと…思うのだ。


 ないと……、思うのだがっ!!!


「あのぉ、どおでしょうか?」

「!!!!!!」


 いきなり声をかけられて、思わず体がびくついた。

 集中している時の他人の声ってのは、本当にこう、心臓に悪……


「えへへ…実は自信作なんですよね!ずっと書きたかった物語なのです!よく書けてるでしょう?!感想聞かせてくださぁい!絶賛していいですよ!大丈夫です、私ぜったいに図に乗りませんから!!上西先輩みたいに書籍化したとたんにダメ出し大魔王化とかしませんっ!!…あ、もしかして涙堪えちゃってる系ですか?指先…震えててカワイイですっ!!ふふ、泣いても笑わないから安心してくださいね!ちゃんとナイショにしますよぅ~!!あ、地味に漢字の間違いとかあったら教えてほしいです!!お礼はもちろんさせていただきますよぅ!印税入ったら絶対おごります!!どうです?戦闘シーンすごい迫力でしょ!!あたし、主人公は絶対に劇団ホニャララのナンチャラさんにやってもらいたいって思ってて―――!!!」


 一方的に浴びせられる言葉ってのは…かなり相当、ダメージがね?!


 手には画面に意味不明の文字列が並んでいるゴテゴテスマホ、耳に聞こえてくるのは理解不能ではあるがよく見知った言語、目に映るのは頬をピンクに染めつつ不敵な笑みを浮かべこちらを見上げる文芸部の後輩―――!!!


 しまった、完全に判断を誤った。

 黙々とスマホで執筆をしているから、どんなのを書いているのか気になって声をかけたら…まさかのカオス状態に突入だ。こんな事ならスルーしておけばよかった、まさかここまでパワフルな人だとは思わなかったぞ……。


 こんなに独りよがりで擬音語まみれのオノマトペゴリ押し文章のどこに感動ポイントがあると…?効果音がすごければ戦闘シーンが盛り上がるって思ってんのは脳内で戦闘シーンを繰り広げてる作者だけだからね?他人が作者の頭の中と繋がってると思ったら大間違いだ。泣く……?こんなの…目薬も秒で干上がると思うよ?漢字の間違いがこそばゆくなるくらいの大ダメージをもろ受けする明らかな誤用…もしかしたらわざとなのかもしれないが、どう見ても知識の欠如がなせる業としか思えない。これはもしや間違い探しを楽しむ文字パズルなのでは?キャラがブレにブレまくっている展開はもはやギャグにしか思えないわけだがどうやら全く気が付いていないらしい…どう考えても文字書きに向いてない。思い付きで書き始めてプロットをしっかりたてないからこんな事になるんだろうな…。あれほど物語を書く時は登場人物の一覧を作れと言ったのに。初心者のくせになんで自分ルールですすめるんだ、先輩のアドバイスを何だと思ってるんだろう。…そもそも文筆業を志すならまず一字下げの常識を身につけろ。ルビ振りもしてないし…記号の後は半角あけるのが常識なんだけど。というか、そもそもだいたいからして、人には自分の書いたもんを読ませるくせに人の書いたもんをいっさい読まないってのがまず許せないっていうか。なにが『あたし書くのは得意だけど読むの苦手なんですよね~』だよ。人の書いた物語を読めないやつが誰かに読んでもらえる物語を書けると思ってんのか?せめて部誌ぐらい全部読め、感想を述べろっての。褒め合う事を良しとする文芸部の習わしがここまで悪影響をもたらすとは思いもしなかった。感想はすべて褒めてくれる言葉が返ってくるものと思ってるとかどんだけお花畑なんだろう。っていうか、何でそんなに自信満々?逆にスゲーよ……。つか、印税の仕組みもわからんくせに何寝ぼけたこと言ってんだろう?現実見ろってね…もういい大人なんだからさあ。はー、そこらへんの一般人の書いた話をどこのタレントが喜んで演じるというんだかねえ…、常識しらずのご都合主義、能天気丸出し自己中人間ってのはこうもイタイものだったんだな……。


 思わず口からもれ出そうになる感情を、ふうとひとつのため息にのせてやり過ごす。


 ……よし、落ち着いた。

 手にしていた鬼盛りデコスマホを返しつつ、僕は後輩に厳しすぎない表情を向け。


「…これ、まだ完結してないよね?続きが気になるし、最後まで一気に読みたいから…完成したら見せてもらおうかな!」

「ええー!!でも、そんなのいつになるか!!飽きちゃうかもだし!!とりあえずできてるとこまででいいんで、感想聞かせてください!!!」


 とりあえずって……なんだよぉおおおおおおお!!!!


 完成させる気のない作品を読ませるつもりか?!飽きるって何だ、自分の物語は最初から最後まで自分の力で書けよっ!書いてやれよっ!!完結に持って行けないやつが…物語を書くんじゃない!!!つか、まさかとは思うけど…、たにんの意見を聞いて内容をコロコロと変えたりするつもりじゃないだろうな?!でもって気軽にキャラ変してつじつまが合わなくなって後出し設定モリモリのご都合主義ぶっちぎりとか…いやまて、そもそもこの先の展開を何も考えていないからこその他人ぼく頼りのネタ探しなのでは?!そんなの…ゆるさんぞ!!!


 秒でささくれ立ってしまった心を落ち着かせつつ、吐くべき言葉を吟味する。


 ……厳しい指導はダメだ、この文芸部は【みんな仲良く】を第一としている。

 ……否定はダメだ、この文芸部は【心地よい執筆ライフ】を目指している。

 ……本当のことを言ってはダメだ、この文芸部は【親しき中にも忖度を】を掲げている。


「せっかくのスピード感のある文章だからさ、物語を途中でとめたくないんだよね。感想を聞くことでせっかくの勢いが鈍くなることもあると思う。序章を見た限りの印象だけど…かなりの大作になりそうだしね。9月の学祭に間に合うようスケジュールを組むこと、……いいね?」


「……はぁい」


 よかった、納得……、してもらえたみたいだ。

 少々唇を尖らせて入るが、おとなしく…執筆を始めた様子を見て、安堵した。


 真面目に、冷静に、真摯な対応をしたのが功を奏したようだ……。

 あとは…後輩のモチベーションを保ちつつ、少しでも読書の習慣を後押ししておきたいところだな。


 300ページ越えの部誌が発行できるかどうかは、部員のやる気にかかっている。

 もちろん、自分のやる気にもかかっている。


 いかに部員の士気を高め、結果に繋げるのか。

 ……やるしか、ない!!!


 半年後に、たくさんの物語と対面できたらいいなと思いつつ……、僕は過去の部誌を読み漁るのだった。


 

 

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[一言] 小説家にな……いえ、なんでもありません。
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