ディネル一家のお引越し
「え? シアたち、ここに来るの?」
儀式の後、疲れて眠りこけていたジュエンがようやく目を覚まし、皆に祝福されていた時にシアからそう告げられ吃驚仰天である。
「そうよ。よろしくね、ジュエン」
そう言ってニッコリ笑うシア。
「「よろしくお願いします、ジュエン姉様!」」
「「ねえさま〜、よろしくおねがいしま〜す!!」」
弟妹たちにも元気な挨拶を貰った。
「ねえ、いつこっちに来るの?」
吃驚しつつも大好きなディネル一家が森にやって来るとあって、ドキドキワクワクしながら尋ねるジュエン。
「ん〜、父様?」
そこら辺は聞いていないシアは父に尋ねる。
「まだそこまで決まっていないよ。しかし近い内、早ければ2〜3日中になると思うよ」
「へえ」
思ったよりも遥かに急な話でちょっと吃驚だが、大好きなディネル一家と暮らせるのはとっても嬉しい。
「こっちでは何処で暮らすの?」
ジュエンがそう尋ねると
「昔、我が家が住んでいた邸が綺麗に残っているからそこに住むつもりだよ」
イアンがそう答える。
「えっと……それ、どのお家?」
言っては何だが、この郷には無人の邸は数多い。そしてその無人の邸群は何かしらで利用するからとウェイド一家総出でこまめに手入れしている。その為、その殆どの邸群は今でも人が住める状態を維持しているのだ。
「ここから真っ直ぐ行って右から3番目の邸だよ。黄色い屋根の煉瓦造りの邸だ」
「え? あそこ……兄様の発明品置き場になってるよ? 兄様、あそこで発明・開発もやってるし……」
ジュエンの証言に
「まあ……あの時放棄した邸だからな……文句は言えん」
イアンは渋い表情でそう言う。
「まあ。姉さんたちが引っ越して来るなら片付けるさ」
ジェスは苦笑いを浮かべてそう言うと
「まあまあジェス」
とイェンリーが笑って入ってくる。
「他にもお邸は沢山あるんだもの。無理に片付けなくても、この際だから別のお邸に住むのも悪くないと思うわ」
と、にこやかに提案してくれた。
散々話し合った結果、現在ウェイド一家が再利用していない邸に住む事が決定した。
その邸は元はオレール家が所有していた邸で、当時から武家であり無骨だと有名だったオレール家にしては珍しい瀟洒な造りの邸だった。
決め手として決定的だったのはディネルの女の子組がこの邸を気に入った事だった。更にウェイド家が住まう邸とは目と鼻の距離にある事も高ポイントであった。
「うんうん。君たち、お目が高いねぇ」
選ばれたオレール当主のマルクは非常に嬉しそうに微笑っている。
「この邸はね、私が時間をかけて造り上げたんだよ」
とニコニコと語り出す。
「そういえばお前。よく手を入れていたな」
当時を思い出し、クラウスは渋い表情でそう言う。
「だって。それが私の仕事だったんだもの」
そう言ってマルクは微笑う。
あの頃は皆、心にゆとりがまるで無かった。命辛辛この森に逃れ、森を切り拓き、家を建て、化け物や追手と戦い、彼らが侵入出来ないよう幾つもの結界を張り、生活用水の確保に畑を耕して食料を確保して。
仕事など次から次に湧いて出てきていた。
そんな時、マルクはほんの遊び心を加え、家や道具に飾りを徐々に付けていった。
最初はそんな暇は無い! と突っぱねられたものだが、生活が落ち着いていくにつれて心にゆとりが生まれたのか、少しずつ受け入れられていったのだ。
今回、ディネルの女の子たちが気に入ったこの邸もそんな時に造り上げたものだった。
この子たちがこの邸を気に入り住みたいと言った事は、あの辛く苦しい日々の密かな努力が実を結んだようでとても感慨深い。
さて、この邸に引っ越すとなれば何はともあれ補修と掃除だ。
これはディネル一家とウェイド一家総出で行われた。一応男性陣は補修係、女性陣は掃除係、と組み分けたのだが……補修組の男性陣はディネル側は殆ど役に立たず、ウェイド一家がやってしまう結果になった。
そして女性陣は…‥シアを始めディネル家のお嬢様は経験が無く、殆どイェンリーとジュエンだけで済ましてしまった。
この事実に衝撃を受け、打ちひしがれるディネル一家(イェンリーと戦力外のちびっ子以外)。3人組もエドワード以外余り役に立たず、どんよりと落ち込んでしまった。
……思わぬ所で森での生活の厳しさ? を肌で感じたディネル一家だった。
そして補修・掃除が完了した翌日、ディネル一家は最低限の荷物だけを持ち込み、森に引っ越しをしてきた。
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