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退魔の郷〜神と人間の間の者たち〜  作者: 朝顔


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儀式の朝とジュエンの神

「ふわぁ~、緊張するなぁ……」

 いよいよ今日、“神霊降臨の儀”が行われる。普段から夜明け前に目を覚ますジュエンも、緊張からか更に早い時刻に目が覚めた。

 辺りはまだ真っ暗で、起き出すには流石に早過ぎる。なのでジュエンはベッドに潜ったまま、あれこれ考えを巡らせる。



 “私に降りてくる神様って……どんな神様だろう?”

 やっぱりそれが一番気になる。兄やホーリーの話では、当人と相性が良い神様が降りて来るという事だが……

 “考えても仕方無い事だけど……やっぱり気になっちゃうよ”

 そしてジュエンはコロンと寝返りを打つ。



「ジュエン、起きてるか?」

 空が薄っすらと白み始める直前、珍しい事に兄がジュエンを起こしに来た。

「うん、兄様」

 ジュエンは返事を返す。

「そうか。なら、ちょっと下りてきてくれ」

「は~い」

 いよいよ儀式が始まるようだ。ジュエンは軽く身支度をして兄たちが待つ階下へ下りて行った。 



「来たね。おはよう、ジュエン」

「おはよう、おばあちゃん。兄様もジャン兄兄もおはよう」

「ああ、おはよう……いよいよだな」

 そう言ってジェスはジュエンの頭を撫でる。

「うん」

「はは。緊張しているか? 何も心配いらない」

 そう微笑う兄にジュエンは笑い返す。



「じゃ、まずはこれを飲んでおくれ」

 ホーリーは大きめのグラスを渡してきた。中には淡い緑色の液体が入っている。お茶だろうか?

「何?」

 ジュエンは恐る恐る受け取り、匂いを嗅ぐ。すると何だか甘い匂いがした。

「ふふふ。それは今朝摘んだばかりの特殊な薬草で淹れた“神茶(かみちゃ)”さ。甘い匂いがするだろう?」

「うん」

「神の世界の食物は全て甘いと言われている。飲んでみるととっても甘いよ」

 そう言われ、ジュエンは思い切って飲み干す。すると、ホーリーが言った通りこのお茶は凄く甘かった。



「……本当に甘い」  

 その甘さは想像を遥かに超えていた。例えるなら蜂蜜をそのまま飲み干したくらい甘ったるい。正直甘すぎて却って飲み干し辛い代物であった。

「よしよし。このお茶はね、“人間”が祭壇に近づく際に飲んでおかなきゃいけないんだ。でないと、身体が神気に耐えられないからね」



「よし。これで祭壇に向かう準備は整ったね。じゃ、行こうか」

 ホーリーはジュエンを促す。

 しばらく森の奥を目指して歩いて行くと、ジュエンも見覚えの無い場所に出た。



「ほら、あそこだよ」

 そう言ってホーリーが指差す先に、何とも古めかしい、壮大な遺跡が姿を現した。

「ふわぁ~! 凄〜い!」

 ジュエンは感嘆の声を上げる。

「ふふふ。じゃ、入るよ」 

 ホーリーの案内でジュエンたちは遺跡の中に入って行く。



「へぇ~、中は凄く綺麗なんだね」

 ジュエンは外見は古めかしい遺跡然としていたので、中もそんな感じなのかと思ったが……意外や意外、中は今も誰かが生活をしているかのように綺麗で新しかった。ぶっちゃけ、内装だけを見ればディネルやインディオール辺りの別宅だと言われても疑う人はいないだろう。



「こっちだよ」

 そう言って案内されたのは、中庭だと思われる場所に静かに佇むプール状の池だった。

「まずはこの池で禊だよ。この池を時計回りに一周して来ておくれ」

「分かった」

 ジュエンは事前に言われていた薄着になり静かに池に入っていく。

「ううっ! 冷た!!」

「我慢しておくれ。その水は神水だからね。とっても冷たいんだよ」

「は〜い」

 ジュエンはゆっくりと池を一周する。



「お疲れさん。じゃ、これを着ておくれ」

 と、ホーリーはあの衣装を差し出して来た。

「は~い」

 ジュエンは教えられた部屋で儀式用の衣装に着替える。

「おばあちゃん、着替えて来たよ」

 ジュエンがホーリーに駆け寄る。

「うんうん、良い感じだね。じゃ、ここに座っておくれ」

 ホーリーはいつの間にか用意していた椅子に座るよう促す。

「?」

 ジュエンが首を傾げていると

「シアから頼まれているからねぇ。お前の髪をきちんと結って欲しいってさ」

「……」



 実は自分は儀式に同席出来ないと知り、どんよりと落ち込んだシア。しかし彼女は諦めなかった。自分が駄目なら一緒に行ける人に託せば良いと。

 それにホーリーが快諾し、ジェスが例の魔導具を改良してシアにその姿を見せてやると約束しているのである。



「と、いう訳だ。すぐに済むから早く座っておくれ」

「……は〜い」

 こうなってはもう逃れられないと、ジュエンは大人しく椅子に座る。



「ほら、出来たよ」

 ニコニコとホーリーに言われ鏡を覗くジュエン。そこには確かに先日シアに結われた通りのシニヨンが出来上がっていた。



「よし! 準備万端だね。なら祭壇に行くよ」

「は〜い」

 ここに来るまでに何だか疲れてしまったジュエンである。



「ここだよ」

 ホーリーに連れて行かれた祭壇は非常に大きく、荘厳な雰囲気に満ちていた。何処からか差し込んでくる光が更にその場を神々しいものにしていた。

「ジュエン。ここに立っておくれ」

 ホーリーに指示され、複雑な陣が幾つも描かれた祭壇の中央にジュエンが立つ。

「じゃ、いくよ。肩の力を抜いて目を瞑っておくれ」

 ジュエンは深呼吸をしてから目を瞑る。



 それを確認してからホーリーは詠唱を始める。

 程なくして陣が輝き出し、光がジュエンを包み込む。

 詠唱が進み光は更に激しくなると、遂に光が弾け飛んだ。と同時に雷鳴に似た轟音が響き渡った。

「成功だね」

 ホーリーは険しい表情で祭壇を見つめる。



 やがて光が収まり、祭壇にはジュエンと、その横に降臨した神霊が静かに佇んでいる。

「……神よ。御身は何方(どなた)であられるか?」

 ホーリーは丁重に問いかける。

『我は、精霊王也』

 ジュエンの横に降り立った神霊はそう返答した。

 






 

 

 



 

 

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