ミルフィナ・ローズとウェイドの弟妹
「私たちが下僕だから?」
だったら何だと言うのだ? ジュエンは首を傾げる。
「その事を話す前に、少しミルフィナ・ローズの話しをしよう。ジュエン、あの花の事を何か聞いた事があるか?」
「うん。この前セーガダールで当主様から。確か……あの花は退魔師にとってとても大切で、とても複雑な思い出のある花だって言ってた」
「その通り。あの花はミルフィナ・シャロという退魔師が作り上げた薔薇だ。優れた魔除けの効果を持っていた事から、手軽な護符として多くの退魔師が愛用していた」
ジェスは複雑そうな表情で語る。
「そして迫害を受けた際、あの花は退魔師の象徴として市井の奴らが片っ端から燃やして鬱憤を晴らしていた。信じ難い事に、辛い現状の八つ当たりで市井の奴らに混じり燃やしてしまう退魔師も存在した。そうやってミルフィナ・ローズは絶滅寸前にまで追いやられたんだ。
そんな状況を憂いたエモリアが、森に逃げ込む際に何とか持ち込めないかと俺に相談してきた。俺はエモリアと配下衆の手を借りて可能な限り森に持ち込み、他の奴らの目には触れないよう密かに育てていた」
「それから時間が経ち、市井に戻った退魔師たちはあの花を懐かしみ、何処かであの花が生き残っていないか探し始めたんだ」
ジュエンは何とも言えない複雑な気分になる。
「当然ながらミルフィナ・ローズは全く見当たらない。それでも僅かな可能性に賭け、目を皿のようにして退魔師が探し求めたが……ミルフィナ・ローズは決して見つかる事は無かった」
「……」
「そして何時の頃からかミルフィナ・ローズは幻の花と呼ばれ、神聖視されるようになっていったんだ」
ジェスは苦笑する。
「そんな中、リンガたちが森の土産でミルフィナ・ローズを持ち帰った事により、事態は大きく動き出したんだ」
「……」
兄の話を聞いて、ジュエンは呆気に取られる。
「それじゃ……あの時お土産にあげない方が良かったの?」
ジュエンは自分たちの身が危険に晒される羽目になったのは自分のせいなのか? と悲しくなる。
「いや。あの時は俺も承諾した。あの時リンガは母親に喜んで貰いたくてそう願い出ただけだ。そして俺も姉さんに喜んで欲しかったから許可を出した。絶対にお前のせいじゃない」
ジェスはジュエンの頭を撫でてやる。
「まあしかし。流石にリンガが姉さんにあの花を渡した場にクリスがいて、あいつがあんなに騒ぎ立てるとは想定外だったけどな」
思えばあれからクリスはおかしくなった。
「リヴァレス当主様。あの花が好きだったの?」
ジュエンは兄に尋ねる。話を聞く限り、クリスは異常なほどにミルフィナ・ローズに固執している。余程あの花が好きだったのかと思ったのだが……
「いや。俺やイアンが記憶する限り、昔は見向きもして無かった。寧ろ、あの花に頼る退魔師を馬鹿にしていたくらいだよ」
「? なら何で?」
ジュエンには理解出来無い。好きでもない物に普通あそこまで拘るだろうか?
「それに関しては、あの花が一度“絶滅”したからだろうな」
「?」
「つまり、一度“絶滅”した退魔師の象徴は希少性が極めて高い。その花を発見し、占有すれば退魔師の頂点に躍り出る事が可能だとか考えているみたいだな」
「……」
何だそりゃ? とジュエンは思った。そんな事で退魔師の頂点に立てるものなのか?
「それでだ。退魔師が血眼になって探し求める幻の花を、よりによって“下僕”のウェイド一家が隠し持っていた事がまず気に入らない。そして、持っているのなら“主人”に“献上”しない“下僕”の俺やお前にあいつはお冠って訳だ」
「……」
ますます意味が分からない。欲しいのならまずはそう言って貰わないと、こっちも分かる訳が無いじゃないか。
「で、あいつはミルフィナ・ローズを狙って日々何かしら仕掛けてきている。この郷に侵入して強奪しようとしたり、お前やジョーを捕らえて言う事を聞かせようとしたりな」
「「……」」
ジョーとジュエンは理解した。何故兄たちが大急ぎで自分たちに儀式を施そうとしているのかを。
「なあ、兄貴。もしも俺とジュエンがクリスに捕らわれたら……?」
ジョーが恐る恐る尋ねる。
「お察しの通りだ。お前たちを拷問し、下僕としての“躾”をしてやるんだとさ」
「「!!」」
ジョーとジュエンはその場面を想像し、身震いする。
「そしてクリスの後ろにはユーレン当主がいる。何時何を仕掛けて来るか分からない。俺たちが常に一緒に居られればいいが……お前たちも決して油断はするなよ」
ジェスは真剣な表情で弟妹に告げる。
「「うん!」」
ジョーとジュエンは力強く返事を返す。




