ユーレンと退魔師の因縁〜ルオの語り〜
「取り敢えず、クリスが俺たちを目の敵にする理由は何となく分かったぜ……意味は分かんねえけど」
ジョーの言い方に苦笑するジェス。
「要はモーヴィアってオバサンが元凶で、クリスはそのオバサンにそう教え込まれた、って事だろ?」
「ああ。その理解で問題無い」
「けどさ。それならイェンリー様もそんな風になってもおかしくないと思うんだけど? イェンリー様にそんな感じは微塵も無いよな?」
ジョーは首を傾げる。
「ああ。姉さんはそんな事は全然無い。これは本人の気質の問題だろうな」
ジェスは大きく頷く。
「やっぱりな。イェンリー様はフォルト爺の気質を受け継いだって事なんだな?」
「その通り。姉さんはフォルト似だ」
「だよな〜」
ジョーも納得顔で頷く。
「因みにユーレン夫人がそんななのは、そもそも生家のユーレン家が身分至上・差別主義だからだ。特に現当主のウルバヌスはその傾向が強い」
ジェスがそう言うと
『と、言うより隠そうともしてないな』
ルオがそう評する。
「え?」
ジョーとジュエンが首を傾げる。
『ウルバヌスの父ハロルドも息子以上に野心家だったが、それをあからさまに表に出す事は無かっただけだ』
ルオの評価にジョーとジュエンはポカンとなる。
「はは。言うな、ルオ?」
『当然だ。俺は先代のバルム当主だぞ? 奴らの腐り切った性根は嫌というほど目の当たりにしている』
ルオは顰めっ面で答え、それにジョーとジュエンは目を瞬かせる。
「だよな」
『だがそれは別に俺だけじゃないぞ。フォルトもアスルも同様だがな』
これにフォルトとアスルは頷く。
「「え?」」
ジョーとジュエンは目を丸くする。
『ん? アスルは先代のインディオール当主、ファビアンとジャンの父親だぞ? ……知らんかったか?』
2人の反応を訝しんだルオがそう補足する。フォルトの事はつい今しがた話に上がったばかりなので良かろうと、アスルの事のみ触れる。
「「えーーーーー!!」」
2人は驚いて絶叫し、マジマジとフォルトとアスルを見つめる。
『まあ、その辺は後でまた話してやる。でだ』
ルオはジョーとジュエンの思いがけない反応に驚きつつ、話を戻す。
『元々ユーレン家は野心が強い家だったが、ある出来事をきっかけにそれが際限無く膨張する事になった』
「それは先代ユーレン当主が当時、退魔師の家で最も影響力を持っていたバルム家から嫁を貰った事だな」
「へえ」
『まあ。当時バルム家は退魔師の代表、取り纏め役を担っていた。主に退魔師の意見を纏め市井や王宮との交渉を行う、それだけの話だったんだが……ユーレン家はどうやらバルム家を退魔師の王と思っていたようでな』
「「……」」
『つまり退魔師の王と縁続きになった、と勘違いしたユーレンは元々尊大だった態度を更に増長させる結果となった』
ジョーとジュエンは呆れ顔になる。
『そしてウルバヌスやモーヴィアのような輩を次々に輩出した。ウルバヌスはその野望を隠そうともしなくなり、モーヴィアは当代一の退魔師という地位に酔いしれ、ユーレンの者は一人残らず我が世の春とばかりに好き放題、傍若無人に振る舞っていた』
「すっかり増長したユーレン家は、今度は世界を手に入れようとあれこれ画策し始めたって噂もまことしやかに囁かれていたっけな?」
『因みにそれも我々が迫害を受ける一因であったと言えるだろう』
「「……」」
2人は何をやってるんだ!? としか思えない。
『迫害の事はここでは省く。市井の者から迫害を受け、この森に我々は逃げ延びた訳だが……そこからそれまで蔓延っていた身分至上・差別主義を排除し、皆で手と手を取り合って行こうと決められた……しかし、一部それを不服とする者たちがいた。それがユーレンを筆頭とする奴の配下家だ』
「具体的にはヤードン家、サンローパ家、スーミ家だな」
『こいつらは何かと我々が決めた事に突っかかり、異を唱え和を乱す事から、次第に他の家から距離を置かれるようになっていった。そして退魔師が森を出る頃、考え方の相違からユーレンとリヴァレスは決別し、今後一切関わりを持たないという約束を交わし市井へと戻って行った。因みにその約束を交わす際、イアンが証人に立っている』
「なのに、今またクリスとユーレン当主はコソコソと秘密裏に会合を繰り返している、って訳だ」
ジェスは憤懣やる方ないといった様子で言い放つ。
「そしてその目的はジュエンが育てているミルフィナ・ローズの強奪、そして退魔師が再び市井に舞い戻り実権を“取り戻す”為だとさ」
「え?」
ジュエンは目を丸くする。あの花が欲しいのならば、そう言ってくれれば分けてあげるのに?
ジュエンはそう思い、首を傾げる。
「それじゃあ、あいつは納得しないのさ」
ジェスは苦笑を漏らす。
「……何で?」
「それは、あいつにとって俺たちが下僕だからさ」
そう言ってジェスはジュエンをそっと抱きしめる。




