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市井の退魔師〜インディオール学院の学生たちと妹たち〜

「では、今日はこれまで」

「ありがとうございました」

 講義が終わり、学生が一斉に講堂から出て来た。

 ミルド王国コーサルにあるインディオール学院。この学院は将来、国の中枢を担う優秀な頭脳が集う学問の最高峰として名を馳せている。



「リンガ!」

 午前の講義を終え、昼食を取ろうと食堂へ向かっていたリンガ=ディネルは声を掛けられた方へ視線を向ける。

「エドワード、それにケントか」

 リンガはふっと笑みを溢す。エドワード・バルムにケント・インディオール。この二人とは幼馴染で、幼い頃からいつも一緒に過ごしていた。  



 一定の年齢になり、退魔師の修行が始まってからは中々顔を合わせる時間が取れなかった。この学院に入学し、また一緒に過ごせると分かった時は心の底から嬉しかったものである。



「リンガ。私たちと一緒に昼食を食べませんか?」

 エドワードがニコニコと誘ってくる。

「ああ。一緒に食べよう」

 リンガが快く応じると

「ほら、早く行こうぜ! 俺、もう腹減って仕方ないんだよ!」

 ケントが待ち切れないとばかりに二人の手を引っ張る。

「おいおい。食堂は逃げないぞ」

 リンガが苦笑混じりにそう言うと

「食堂は逃げないけど、料理は無くなっちゃうだろ! 俺、今日こそあの特大ハンバーグセットを食うんだからな!!」

 食いしん坊のケントらしい物言いにエドワードとリンガはフフッと微笑い合い、大人しくケントに付いて行った。  

 


 エドワードはかの名医エモリアの親戚で、彼も医師を目指しているらしい。その為退魔師の修行と医師の勉強の両立は非常に大変そうだが、本人は実に涼しい顔でこなす将来有望な人材である。

 


 ケントの方はその名で分かる通り、このインディオール学院・学長一族の一人だ。しかしこのケント、学問の方はさっぱり身が入らず、専ら退魔師の修行に力を注いでいる。 

 その為、剣術や体術は師範に手が届く実力を有しているが、座学の方は年相応。可も不可も無く常に平均点、といった具合だ。

 決して頭が悪い訳では無いのに……と一族の長老たちには渋い顔をされているが、本人はどこ吹く風である。



 因みにジェスの親友で現在ウェイド一家と同居しているジャン・インディオールはインディオール家当主にして現学長のファビアン・インディオールの実弟である。

 彼はラシャールの森でジェスと同居するにあたり、定期的に実家に戻り教鞭を取る、という約束を兄と交わしてる。

 なので、彼はラシャールの森とコーサルを行き来する生活を長いこと続けているのだ。



「で、シアは敢えなくジュエンに打ち負かされたらしい」

 リンガは先日妹から送られて来た“近況報告”をエドワードとケントに話して聞かせていた。

「あららら」

 エドワードは苦笑する。

「あいつら、相変わらずだなぁ」

 ケントは念願の特大ハンバーグセットを美味しそうに頬張りながら、退魔師の宝たちの話を聞いていた。

 


 ジュエン・ウェイドとシア・ディネル。この二人は特に退魔師界における期待の星なのである。

 ジュエンもシアも幼い時分から退魔師としての才を発揮していた。周囲も当時から二人に相応しい教育を受けさせ、今では二人して退魔師の宝と言わしめる存在に育った。



 リンガやエドワード、ケントも二人の事は赤ん坊の頃から知っている。その為、正真正銘シアの兄であるリンガのみならずエドワード,ケントも彼女たちを妹だと認識している。



 そんな事情は当人たちも承知している。故に二人とも修行を嫌がる事は無い。

 周囲の大人たちも二人には特に目を掛け、全力で教え導いている。

 そうして退魔師としてメキメキ力を付けていく二人なのだが……



「やっぱり……生まれ持って来たものが違うんだろうなぁ……」

 リンガは思わず溜め息を吐く。 

「リンガ。それを言っては……」

 エドワードはそっと窘める。とはいえエドワードとてリンガの言いたい事は痛いほどよく分かる。

 


 エドワードは幼い頃、ラシャールの森でウェイド一家に預けられ彼らと一緒に暮らしていた。その為、ウェイド一家の実力は嫌でも身に沁みているのだ。

 


「シア……何て慰めてやったものか……?」

 リンガは頭を抱えて唸っている。

 勝負に負けた悔しさが、涙ながらに綴られた手紙を読んだリンガは悩む。

 周囲に才能を認められ、切磋琢磨し合うジュエンとシア。しかし、二人の気質は大きく異なる。



 ジュエンは真正の天才。大抵の事は一度見聞きしただけで華麗に鮮やかにこなしてしまう。  

 シアは努力する天才だ。何度も何度も反復し、要求以上の事をやってのけるのだ。



 従ってジュエンが優れ、シアが劣っているという訳では決して無いのだが……シア本人にしてみれば自分は何度も何度も練習しなければ出来ない事を、毎度毎度目の前であっさりとこなされてしまうのを見せつけられるのは堪ったものでは無いのだろう。



 勝負に敗れ、落ち込んでいるだろう妹に“気にするな”と言ったところでどうにもなるまい。

 う〜ん、と唸り続けるリンガにエドワードは提案した。



「ねえ、リンガ。来週の休日に学長に許可を取ってシアに会いに行きませんか?」

「は? どういう事だ?」

 リンガは首を傾げる。

「ですから。直接シアに会って皆で慰めてあげましょう」

 エドワードはニッコリと告げる。

「いいな、それ!」

 ケントもノリノリで賛成する。



「……いいのか、お前たち」

 リンガはちょっと申し訳無さそうに尋ねる。

「勿論です。シアには少しでも早く元気になって貰いたいですから」

「……ありがとうな、お前たち」 

 リンガは微笑って礼を述べる。



 早速ケントが学長に許可を貰いに行き、来週シアに会いにリヴァレス家に行く旨を叔父と妹に手紙で伝えたのだった。

 

 

 

 

 


 


 

 


 

 

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