ジュエンは儀式を受けるのか?
「“神霊降臨の儀”……?」
ジュエンはポカンとした表情で兄を見つめる。
「そう。本来、退魔師が最終的に目指す目標なんだが……訳あって公にはされていない」
「ふ〜ん」
「で、“神霊降臨の儀”は具体的にどんなものなのかと言うと、“神霊を退魔師に降臨させ、人神一体となる”。要するにお前の身体に神の霊を憑依させ、神の力を宿す儀式だな」
「え!?」
いきなりとんでもない事を聞かされ、ジュエンは目を丸くする。
「因みに父さんと母さん、俺とジャン,クロードにシンもこの儀式を受けている。ジョーはもうじき受ける予定だ」
「……」
つまり、家族の全員が其の儀式を受けているという訳だ。
「ねぇ。その儀式を受けてたら、その後はどうなるの?」
ジュエンはどうしても気になったので尋ねてみる。兄たちの様子を見る限り、特に今までとは変わらないように見えるが……本当にそうだろうか?
「基本的には今までと変わらない。しかし、神の御霊と同化する訳だから、儀式を受け神の御霊を受け入れれば半神……即ち純粋な人間では無くなる」
「……兄様たちは、既にその半神だって事だよね?」
「ああ。その通りだ」
「兄様は……儀式を受ける時、どうだった?」
「? どういう事だ?」
「嬉しかった? それとも……怖かった?」
ジェスはジュエンの問いにどう答えようかと考えを巡らせる。
「そうだな……」
ジェス自身、嬉しかったか怖かったかと問われれば…正直よく分からない。
「嬉しかったと言えば嬉しかったし、怖かったと言えば怖かったかな……」
ジェスもあの時の自分の思いをどう表現したら良いのか考えあぐねている。
「さっきも言った通り、“神霊降臨の儀”は退魔師が最終的に目指す目標だ。俺がその儀式を受けると決まった時、丁度今のお前くらいの頃だった。その事自体はとても嬉しかったよ。こんな若輩者が早くも退魔師の頂点に立つのだと思ったら、嬉しくて嬉しくて有頂天だったものだ」
そこでジェスは一呼吸置いて、続きを静かに語り出す。
「しかし……いざその時が迫って来たある日、不意に不安や恐怖といった負の感情が押し寄せて来た。丁度その頃といえば父さんと母さんが俺をリヴァレス家から連れ出した時期でもあったんだよ。
お前も聞いているだろうが、俺はリヴァレス家では宙ぶらりんな立場だった。モーヴィア夫人やクリスの気紛れに振り回され続けた俺は、当時少々情緒不安定な所があったんだ」
「……」
兄が幼少期から少年期にかけてリヴァレス家で過ごしていた事は聞いていたが……想像以上に兄の青春期は過酷だったのかも知れない。
そう思うと、ジュエンの小さな胸はキリキリ痛んだ。
「まあ、それはばあちゃんや父さん母さん、それからジャンの心遣いで徐々に克服していって、俺は無事に儀式を終える事が出来たんだよ」
そう言って微笑う兄に、ジュエンはその頼もしい背に抱きついた。
「兄様……大変だったんだね。…辛かったんだね」
そう言いながらジュエンの目から涙がポロポロ溢れてくる。
「ありがとうな、ジュエン。けど、俺は大丈夫だよ」
そう言って背中にしがみつく妹の頭を撫でてやるジェス。
「私、儀式を受ける!」
しばらく兄の背でポロポロ泣いていたジュエンは、意を決してそう宣言する。
「いいのか?」
兄が再度確認する。
「うん!」
「儀式を受けたら、純粋な人間じゃ無くなる。その為に謂れなき中傷誹謗や迫害を受ける事だってあるかも知れないぞ?」
「そうかも知れないけど……ウェイドの皆はもうその半神なんでしょ? だったら、もしそんな事になっても1人じゃ無いもん! それに1人だけ仲間外れなんて絶対に嫌!! 私も兄様たちと一緒にいたい! それにリヴァレスの当主様が私の命を脅かそうとしていて、その対策の為にも必要なんでしょう?だったら、私は儀式を受ける!」
そう宣言するジュエンの頭をワシワシと撫で
「分かったよ、ジュエン。ならば、お前に儀式を行おう」
そう言ってジェスは小さな妹の身体をギュッと抱きしめる。




