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市井の退魔師〜リヴァレス家での叔父と姪〜

「やあ!」

 リヴァレス家の訓練場に元気な掛け声が響く。シア・ディネルが剣の稽古をつけて貰っているのだ。

「脇が甘いぞ、シア!」

 剣の師匠であるクリス・リヴァレスは指導を入れつつ、シアの剣を払う。

「うわ!」

 シアの剣は宙を舞い、床に突き刺さる。



「うわ〜ん、また負けた〜!」

 シアは心から悔しそうに天を仰ぎ、その場にペタリと座り込む。

「当たり前だ。お前と俺とでは、剣を握ってきた年数が違う」

 クリスは事も無げに言い放つ。

「ぶ〜! それでも、悔しいものは悔しいの!!」  

 

 

「しかしお前。何をそんなに焦っているんだ?」

 剣の稽古を終え、二人は仲良くティータイムである。

 今日はシアが頑張ったご褒美にシアが特に好んでいる香草茶と焼き菓子だ。これを目にした瞬間、シアは頬を緩ませた。 

 “これで、こいつの元気が出ればいいがな”

 修行中は厳しい師匠であるクリスは、一歩プライベートエリアに入ると相当な叔父馬鹿なのである。



「む〜」

 シアはそう唸ると外方を向いてしまった。

「……」

 クリスは溜め息を吐く。シアのこの反応で、大体の事は察せられた。

「……また何かジュエンに負けたのか?」

 クリスが呆れ気味にそう尋ねると

「……ーうっ、ぅわあぁ〜〜〜ん!!」

 途端にシアは大粒の涙を浮かべ、心底悔しそうに泣き出した。



 泣きじゃくりながら話すシアの話は到底要領を得たものでは無く……短気なクリスには非常に珍しく辛抱強く聞き出す羽目に陥った。


 

 で、シアの話を要約し一言で言い表すと、先日ラシャールの森にお使いでシアを出向かせたのだが……そこで目の当たりにした幼馴染のジュエンとの実力差に愕然とした、という事らしい。



 現在ラシャールの森に住まうジュエン・ウェイドとディネル家の双子シアとジェイは、同い年かつ生まれた時期もほんの数日違いである為、赤ん坊の頃から一緒に過ごす事が殆どだった。



 その為、幼馴染というよりは姉弟同然に育ってきた3人である。

 しかしその性格・性質は三人三様、まるで異なっていた。

 ジュエンはその母・兄に似て天真爛漫。何処かポヤヤンとした無自覚な天才である。



 対するシアは、いわゆる努力する天才である。負けず嫌いで、横で何もかもをあっさりとこなしていくジュエンに歯噛みしながら必死に努力し、様々な事柄を身に付けていく。



 そしてジェイは。一言で言って内気で大変大人しい性格である。生来より外を元気に駆け回るよりも部屋で本を読むのを好む、根っからの学問好きであった。現在は医師を志してエモリア・バルムに師事している。

 そして虫も殺せないような性格は、かつてのラザー・バルムを彷彿とさせた。

 


 話を戻すとシアを森へ使いにやった際、ジュエンと剣の打ち合いをする事になり、ものの見事に負けたらしい。


 

「……」

 話を聞き終え、クリスは何と声を掛けたものか思案する。

 話を聞く限り、理由は分からないがシアがジュエンに打ち合いを持ち掛け、負けたのだろう。



 言っては何だが……あの兄妹に何の対策もせずに対決してもまずこちらに勝ち目は無い。

 まずあの兄妹、というよりもあの母子はとんでもなく規格外なのである。何事もあっさり華麗にこなしてしまう真正の天才だ。それはかつて、自分も自分の両親も味わってきた理不尽である。  



 その上、兄ジェスは凶悪過ぎる実力を有する霊体を4体、配下として従えている。ジュエンはそもそも規格外の母・兄のみならず、その配下たちにまで師事を受けている。

 従って今現在、どう逆立ちしたってシアがジュエンに敵う訳が無いのだ。

 しかし、そう言われて“はいそうですか”と納得出来るものでは無い事もクリスは重々理解している。



 目の前で落ち込みながらも、大好きなお茶とお菓子を頬張る姪を眺めながらクリスの表情は優しい笑みを浮かべていた。

 


  

 

 

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