コーサルでの情報交換3
「で、では……他にも有資格者はいるのでは?」
ファビアンは勢い込んでジェスに詰め寄る。
「それについては、俺の一存では何とも言えないな。まずはばあちゃんの裁定を受けないとな」
「ばあちゃん? ホーリー殿か?」
イアンが尋ねる。
「ああ。ばあちゃんが儀式を行う術者で儀式を行う祭壇の管理責任者だ」
「え?」
「そして母さんはばあちゃんの姪に当たる。ウェイド一家が皆と森を出なかったのは、そういう理由があったんだよ」
「で、ファビアン殿。貴方は儀式を希望するんですか?」
ジェスがファビアンに尋ねる。
「はい。出来るなら私もその儀式を受けたい」
「……もう一度言いますが、儀式を受けるという事は神と同化するという事。儀式を受けたら純粋な人間では無くなりますよ?」
「構わない。どのみちそれが退魔師の目指す所なのだろう? ならば否やはない」
ファビアンははっきり宣言する。
「そうですか。分かりました、ばあちゃんに話は通しておきましょう。この際だ。イアン、お前も試してみるか?」
「……いいのか?」
「別に構わないさ。何も今日明日に儀式をやろうって言うんじゃない。裁定に儀式に向けての準備に何ヶ月かは掛かるからな」
そう言ってジェスは肩を竦める。
「ならばオレールにも声を掛けても良いだろうか? クラウス殿あたりが興味を示しそうだ」
「構いませんよ」
というか、蚊帳の外に置いて後から除け者にされたと騒がれても面倒なのでむしろ参加願いたい。
「だが……儀式の事をクリスは知っているのか?」
ふとイアンが首を傾げる。
「あいつは知らない」
ジェスは断言する。
「何故分かる?」
「あいつがこの事を知っていたならば、自分に受けさせろと五月蠅いだろうからな」
「それは……確かに」
唐突に見せた、あのミルフィナ・ローズへの執着ぶりを見ても、クリスが儀式の事を知っていれば間違いなく自分に儀式を受けさせろと騒ぎ立てるだろう。
「まあ、あいつが儀式を望んだとしても、まず許可は下りないだろうがな」
「というと?」
「さっきも言ったが、儀式を行うには条件がある。あいつはその条件を満たしていない」
「……」
「一つ目の条件をクリアするのは、そう難しい事じゃない。要は化け物討伐に精を出せばいいだけだからな。しかし、問題はもう一つの方だ」
ジェスは神妙な面持ちで周囲を見回す。
「退魔師として相応しい志。要は世の為人の為に持てる力を振るい、私利私欲無く己を律する事。それが神を宿す器である退魔師が最低限、心掛ける事だ」
「……」
「これは生身の人間には中々難しい。私利私欲なんて生きていれば当たり前に持つ欲なんだから」
「……」
「そんな訳で、私利私欲はある程度のお目溢しはある。要は一線を越えなければ、少々の事は見逃して貰えるって訳だ。まあ、それも状況と程度の問題だけどな」
ジェスは肩を竦める。
「それで、クリスが条件を満たしていないというのは?」
イアンは首を傾げる。クリスとて化け物討伐でそれなりの成果を上げていた筈だし、志という面でも決して悪くなかったと思うのだが……
「言葉通りだよ。クリスは討伐こそ数多く出ているが、殆どあいつ自身の手で化け物を屠らず弟子にやらせている。そもそも殆どの場面でクリスは討伐現場に足を踏み入れず、近くで待機しているらしい」
今初めて聞く事に皆は唖然としている。仮にも退魔師が討伐に向かって現場にすら立たず、近くで待機している?
「だからクリスは言うほど討伐していないし、そもそも現場に赴いてもいない。まあ、弟子たちの修行としての意味もあるんだろうが……だからと言って何か指示を出している訳でも無く、全部弟子に丸投げしているらしいぜ」
「しかし……それが事実だとして、何故お前がその事を知っている?」
イアンが不意に疑問に思った事をジェスに問う。
「ああ、それは……」
ジェスはニッコリと笑い
「怨霊たちが逐一報告してくれるのさ」
「……それは、先ほど言っていた野良の怨霊がか?」
イアンが恐る恐る尋ねる。
「そう。後は現場で殺された化け物の魂とかがな」
「……化け物に魂?」
「というか、化け物になる前の生き物の魂がな」
「…………」
この言葉に皆絶句する。
“死霊の王、何でもありなんだな。野良の怨霊って便利過ぎる……”
皆、内心でそう思った。




