大人の話し合い&リヴァレスとウェイドの関係6
「という訳だ。本日をもってお前はシアの師匠から降りて貰う」
クリスは全く納得がいかない表情だが、もう覆らないと察しそれ以上何も言わない。シアが駄目なら……
「ああ。それからエモリア殿にもこの決定は伝えておくから、ジェイに近づこうとしても無駄だからな?」
「……」
クリスは悔しげに唇を噛む。
“何故俺がこんな思いをしなければならない?”
クリスはこの“理不尽”な結論に歯噛みしながら沸々と湧き上がる怒りを抑え込む。
確かに不用意に下僕呼ばわりをしたのは不味かったが……だからと言って何故こんな結論になる?
“俺は正しい秩序をシアや姉上の子どもたちに教えていただけだ”
いくら身分差別主義を廃しようとも、下劣な者は高貴な者に跪き、恭しく従い仕えるのが筋というものではないのか?
“それを無視して傍若無人に振る舞うジェスやジュエンが悪いんじゃないか! 全ては奴らのせいだ!”
そんな憤懣やる方ないクリスを、その場の全員は冷めた目で観察していた……
「で、後はミルフィナ・ローズの事か?」
取り敢えず1人怒り心頭のクリスは放置し、ジェスは切り出す。
「改めて問うが……ジュエンがリンガたちに土産で渡したあの花の何が問題なんだ?」
そもそもジェス一行はこの件で呼ばれた筈だ。それが下僕発言やらクリスがシアの師匠から降ろされるやら脱線しまくったので、改めてあの花の何が問題なのかを確認する。
「リンガがイェンリー殿に森からのお土産だとミルフィナ・ローズを渡した所、クリス殿が何故報告しないのかと憤ったのですよ」
ファビアンが答える。
「報告? 何の報告を? 一体誰に?」
話の流れで大方は分かるが、敢えて問う。
「勿論、ミルフィナ・ローズが森で生き残っていた事を、君たちが我々……この場合はクリス殿に、かな?」
「……何故そんな必要がある?」
ジェスは低い声で尋ねる。
「一応聞くが……それはここにいる皆の総意か?」
「いや。そう主張しているのはクリス殿だけだよ。他の者は特に必要無い、という意見だ」
ファビアンが解説する。
「そうか」
またクリスか、と思わず溜め息が溢れる。
「そもそもミルフィナ・ローズが森に残っていたのは、誰かが持ち込んだからだろう。そして持ち込んだ誰かは我々にそれを知らせるつもりは無く、あの森でひっそりと復活させたかったのではないか、と私は推測している」
「へぇ」
ジェスは思いの外鋭い考察を見せるファビアンにちょっとだけ感心した。というのも
「あんた、意外に鋭いな」
クスクス笑いながらジェスが言う。
「と、言うと?」
ファビアンは首を傾げる。
「あんた。珍しく人の気持ちを理解してんだな」
「……何が言いたいんだい?」
猶もクスクス笑い続けるジェスを訝しみながら尋ねる。
「いや。だってさ……」
ジェスは言葉を切り、皆を見回す。
「ミルフィナ・ローズをあの森に持ち込んだのは他ならぬ俺なんだからな」
余りにも意外過ぎた人物だった事に、その場の皆は絶句する。
「そもそも俺があの森にミルフィナ・ローズを持ち込んだのはエモリアたっての願いだったからだよ。あいつ、このままミルフィナ・ローズを絶滅させるのは忍びないって言ってさ。俺が一肌脱いだって訳だ」
「……どうして貴方だったんですか?」
ファビアンが声を掠れさせながら問う。
「あの頃、辛い思い出の象徴になってしまったミルフィナ・ローズを命辛辛森に逃げ延びる最中に振り返る者はいなかった。どころか辛い思い出を滅さんとばかりに焼き滅ぼそうとする者が続出する始末だった」
「……」
その時の当事者たちは何も言えない。
「そんな状況を憂いたエモリアが何とか森に持ち込んで細々と復活させようと四苦八苦していてな。俺もエモリア同様、ミルフィナ・ローズを絶滅させるのは嫌だった。だからエモリアに協力して密かに持ち込んだって訳だ」
「……」
「それにあの頃は皆森に逃げ延びんと必死で、荷物は最小限しか持ち運べなかった」
ジェスは皆の顔を見回し
「その辺は俺も同様だったが、あの時既にルオたち4人が配下に下っていた。そこで俺とエモリアとジャンが一株ずつ手に持ち、残りはルオたちに回収を依頼したんだ。そして生き残ったミルフィナ・ローズをあの森で、あんたらの目に付かないよう密かに育てていたんだよ」
「そうして密かにあの森に根付いたミルフィナ・ローズを時が流れて、あの花を気に入ったジュエンが育て始めたって訳だ」
「……」
「こんな事情があって報告義務が〜、とか言われても俺は納得しかねるがな」
そう言ってジェスは肩を竦める。
意外に壮大なミルフィナ・ローズ生還劇に、当時その事で奔走したジェス以下配下衆とジャン以外は呆気に取られ、ポカンと口を開けたまま固まってしまった。




