森での最後の夜
「お疲れ様〜!」
帰宅するなりジュエンが満面の笑みでお出迎えしてくれた。
「兄たち。お風呂の準備が出来てるから、入って来なよ!」
と、何故かグイグイ背中を押され、3人揃って風呂に連れて行かれた。
「着替えは直ぐに持って来るから、兄たちはゆっくり入っててね!」
そう言ってジュエンはパタパタ走り去った。
「「「……」」」
ジュエンの背中をポカンと見送った後
「……取り敢えず、入ろうか」
エドワードがそう促す。
「「……だな」」
何がなんだかよく分からないが、リンガとケントも一先ず汗を流す事に同意した。
「はあ〜、気持ち良いなぁ〜!」
ケントが湯船に浸かり、まったりと寛いでいる。
ここの風呂は小ぢんまりとした造りだが、露天風呂で見晴らしの良い場所にあるので雰囲気は頗る良い。絶景を拝みながらの入浴は、ここでの生活の最大の楽しみの1つであった。
「はあ〜、この景色も見納めかぁ〜」
ちょっと残念そうに呟くリンガ。実家や学院の風呂も広くて快適だが、ここの風呂はまた違った趣きがあって大好きになった。
「ふふふ」
エドワードはそんな2人を微笑ましく眺めながら、久しぶりの露天風呂を楽しんでいた。
「うお〜、スゲェ〜〜!」
風呂から上がり、来るように言われていた広間にやって来た3人組。そこの光景を見てケントが感嘆の声を上げる。
「あ、兄たち。早く早く!」
3人組の姿を見つけたジュエンが、一番近くにいたエドワードの手を引っ張る。
「早く! 座って、座って!」
と、3人を席に座らせる。
「ジュエン。これは一体どうしたの?」
エドワードが笑顔で尋ねる。
「今夜は兄たちの最後の日でしょ? すっごく頑張った兄たちの為に最後の夜はご馳走をいっぱい作って、お疲れ様をやろう! って、決まってたんだよ」
ニコニコとジュエンが教えてくれた。
「そうなんだね」
エドワードは胸が熱くなる。リンガとケントも同様らしく、心做しか瞳が潤んでいる。
「うん! 今日は兄たちが好きな料理をいっぱい作ったから、遠慮無く食べてね!」
3人は感無量でジュエンをギュ〜ッと抱きしめたくなるが、既で堪える。そんな事をしたら彼女の兄たち、特にジャンと配下衆が恐ろし過ぎる……
そして始まった慰労の食事会で3人は、ただひたすら食事に集中、最高に美味しい絶品料理を堪能したのだった。
「はあ〜、この部屋で過ごすのも今日で最後かぁ……」
食事の後のデザートもしっかり平らげ大満足の3人は、リンガの部屋に集まっている。
「な〜んか、過ぎてみればあっという間だったよなぁ」
しみじみとケントが呟くと
「だな。最初は化け物だらけのこの森で過ごせるか不安で一杯だったのにな」
リンガもウンウンと頷いている。
「エドワードは最初っから、余裕綽々だったもんな」
ケントがそう言うと
「そんな事は無いよ。私も最初は不安だったよ」
エドワードはそう返す。
「でもお前。早起きも畑仕事も余裕だったじゃん」
「だから、それは昔ここに住んでいたからだよ。後は時々エモリア様やラザー様と一緒にこちらに伺っていたし。……見回りではむしろ君たちの方が活躍してたじゃない」
エドワードの言葉にリンガとケントは顔を見合わせる。
「そんな事は無いぞ、エドワード」
「そうだぞ。エドワードもしっかり活躍してたじゃん!」
「そうかな? 討伐数は私が一番低かったし」
エドワードは何処か不安気だ。
「何言ってんだよ。確かに討伐数は俺とケントが稼いだが、お前はどちらかというと俺たちの援護に回る事が多かっただろう?」
「そうそう。だから、特に後半はすっごく動き易かったんだからな!」
「……そっか」
エドワードは内心驚いたが、自分の行動の意味を2人が理解していた事にとても嬉しく思う。
「何だかんだ大変な事も色々あったけどさ。俺、この一週間すっげー楽しかった!」
ケントがポツリと漏らす。
「だよな。朝早くに果物を摘んだり、畑を耕して苗を植えて水遣りして。午後に収穫する時なんか、自分で育てた訳じゃないのに凄く嬉しかったよな」
リンガも呟く。
「ここに修行に来なければ、一生体験する事なんか無かったよな……絶対に」
「だな」
「化け物討伐だけじゃなく、様々な経験をする機会をくれた皆に感謝しなきゃだよな、本当」
そんな事を語り合いつつ、この森最後の夜は更けていく。




