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騎士団長とギルマスの対談

「……う〜ん」

 一般民のパウル・ドットから退魔師に遭遇したという通報を受けたミルド王国イリアン領の治安を守る騎士団長ロベルト・アーチェスは頭を抱えていた。

 “これは……マズいかも知れん……”

 退魔師の存在が一般民に知れ渡ってしまったなら、どんな騒動に発展するやら……

 それを憂慮するロベルトは妙案が浮かばないまま頭を抱え、ひたすら時間ばかりが過ぎて行く。



「は? マジか……?」

 イリアンにある冒険者ギルドのギルドマスター、アーノルド・マーキンは呆然とした表情で、そう報告してきた副ギルドマスターの顔を見つめる。

「何だってまた、そんな話が出たんだ?」

 アーノルドがそう呟くと

「何でもその通報をしてきたパウル・ドットは昨日日が暮れた後、家路につく際近道をしようと森を通り抜けたそうです」

 副マスターは淡々と続ける。

「は? そいつ、馬鹿なのか?」

 アーノルドは呆れ顔だ。



 この世界では日没後に森に入らないというのは常識、鉄則だ。理由は日が暮れた後に化け物どもの活動が活発になるからだ。

 それを守らずに日が落ちてから森を通り抜け、被害に遭ってもそれは全て自己責任である。

 それを敢えて破るような人種は化け物の討伐を目的とした冒険者や魔術師、魔導師くらいである。 



 そういった暗黙の了解がある中、近道がしたいからとノコノコ森の中を歩いた一般民には開いた口が塞がらないが……



「その上、退魔師に助けられただと?」

 アーノルドは本気で頭が痛くなった。

 退魔師は過去の出来事から決して表舞台に姿を現さない。それは嘗ての人間たちが犯した罪故に、決して違える事が許されない取り決めなのだ。



 退魔師は表立っては人間の世界に関与しない。

 しかし、それはあくまで“表では”という事である。

「はぁ……」

 アーノルドは深く溜め息を吐き

「こりゃ……一度ロベルトの奴と話し合わんといかんだろうな……」

 その億劫さを思い、また一つ溜め息が溢れる。



「おう。お前も話を聞いていたか」

「……ああ」

 ここは冒険者ギルドマスターの部屋である。

 今からする話は、人には絶対に聞かせられる内容では無い。故に予め盗聴防止の結界を張った上で二人は会談を始める。


 

「まずは一般人がラシャールの森で退魔師と遭遇した」

「……」

「その退魔師は14〜5歳程の少女。その見た目を大いに裏切り、化け物を難なく倒した、と」

 渋い表情で淡々と語るアーノルド。

「そして少女に説教された後、森の出口まで案内された、って話しだ」

 アーノルドは手酌で酒をグラスに注ぎ、グイッと呑み干す。



「森で出会ったって事は、そいつはウェイド家の奴で間違いは無いだろう。……ウェイド家にそんな年頃の娘がいたか?」

 首を傾げるアーノルド。

「ああ。噂でしか聞いていなかったが、“死霊の王”に親子ほど歳の離れた妹がいる筈だ」

「“死霊の王”か……」

 アーノルドとロベルトは溜め息を吐く。



 退魔師は決して表に出て来ないと言われているが、実はそうでもない事は国の重鎮たちや騎士団長、ギルドマスターといった国の安全に関わる組織のトップたちにのみ知らされている。

 


 退魔師はラシャールの森に拠点を置くウェイド家の他に国の各地に数家、拠点を据えている。

 表向きは普通の人間として一般人に混じって生活を営み、人知れず化け物退治に勤しんでいるのだ。

 その他にも冒険者や騎士として活動している退魔師もいると聞いている。

  


 そんな退魔師の中で一際異彩を放つのが“死霊の王”ジェス・ウェイドだ。

 彼は退魔師の中にあっても異質な死霊使いである。死体や怨霊を自在に使役するジェスはその配下に強力な霊体を従えている事で有名だ。



 死体や怨霊を使役するジェスはそのイメージに反して温厚な性格で、請えば自分たちに快く力を貸してくれる頼もしい存在だ。……尤もまず遭遇するのが至難の業ではあるが……しかし、彼の逆鱗に触れるとこの世のどんな存在よりも恐ろしい存在に豹変する事でも有名である。

 従って、冒険者や騎士団はジェスに対してかなり複雑な感情を抱いている。



 そんな“死霊の王”に親子ほどの歳の差の妹がいる……

 彼の情愛深さを思えば、相当可愛がっていると思われる。そんな妹の存在が一般人に知られてしまった……

 この事が厄介事に発展しない事を、アーノルドとロベルトはひたすら祈るばかりであった。

 

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