森での修行 最終日〜朝の散策と幻の花〜
「……ふわぁ〜〜」
今朝は頑張って自分で起きたケント。しかし
「やっと起きたか……」
呆れ顔のリンガが目に飛び込んで来た。
「……え?」
ケントは目をパチクリさせてリンガの顔を見つめる。
「お前。俺が何度ぶっ叩いても蹴っ飛ばしても、全っ然! 目を覚まさなかったんだぞ!……死んじまったんじゃないかと思ったじゃないか!!」
「……え?」
リンガに捲し立てられ、ポカンとなるケント。
俺、自力で早起きしたんじゃなかったのか……?
そうと知り、ケントは内心ガックリと肩を落とした。
「じゃ、行こっか〜!」
今日は何を取ってくればいいか、御用聞きに厨房を訪れた3人。すると、今日は沢山要るからジュエンも一緒に来るという事だ。
「じゃ、出発〜!」
ジュエンの元気な号令で、一同果樹園に向けて歩き出す。
「えへへ〜。兄たちと一緒に果物取りに行くの、初日以来だよね」
ニコニコとジュエンが言うと
「そうだね。それからは私が散歩がてら摘んでいたからね。一昨日からはリンガとケントも一緒だったし」
エドワードもにこやかに応じる。
「うん、そうだったね。お陰で私がリン兄とケン兄を起こさなくて良くなったもん」
「あははは……」
エドワードは苦笑する。はっきり言ってこの2人は寝起きが悪い。揺すっても殴っても中々目を覚まさない。そしてリンガは起きたら通常運転だが、ケントは目覚めてしばらくは機嫌が悪い事もしばしばある。
……口振からして、ジュエンもこの2人を起こすのには手を焼いていたらしい。
こんな事なら、もっと早く2人を早朝散歩に誘っていればよかった、とエドワードは心の中でジュエンに平謝りだ。
「今日はね〜、いっぱい種類と量が要るの。兄たち、頑張って採っで行こうね?」
ニコニコとジュエンが告げてくる。
「……けど、何で今日に限ってそんなに要るんだ?」
ケントは首を傾げる。それを見て、リンガとエドワードはこっそり溜め息を吐いた。
「あ! それはね〜、夜までのお楽しみ!」
そう言ってジュエンはニコニコと眩しい笑顔を向けてくる。
「え〜っと……まずは林檎にレモンでしょ? それから……」
ジュエンの指示で、4人の籠の中は瞬く間に様々な果物で溢れかえった。
「取り敢えず、こんなものかな?」
ジュエンが籠の中の果物を確認して頷く。
「うん。これで大丈夫! じゃ、帰ろっか」
そう言ってジュエンは歩き出した。
「ねえ、ジュエン。ちょっと寄り道してもいいかな?」
エドワードが尋ねる。
「うん、いいよ! 何処に行くの?」
「この近くの池の広場だよ」
「……」
ジュエンは驚いた顔をしている。何故ならそこにはかつてのエドワード専用、現在はジュエンが使っているあの畑がある場所だからだ。
「エド兄。あの畑の事、知ってたの?」
ジュエンが尋ねる。
「勿論だよ。だってあの畑、私がここにいた頃に大人たちに頼んで一緒に作ってもらった畑だもの」
「……そっか。そうなんだね」
ジュエンはニッコリ笑って答える。
「ここだよ」
ジュエンがニコニコと披露する。
「うわぁ~、想像していたよりも遥かに広いな! 花が一面に咲いてるぜ!綺麗だな!!」
小さな畑と聞いていたが、予想していたよりもずっと広さがある畑だ。他の畑に比べれば確かにこぢんまりとしているが、ケントもリンガも想像よりも大きな畑に咲き誇る花々に目を奪われた。
ジュエンとエドワードの会話に興味をそそられたリンガとケントは、自分たちも是非見てみたい! と言い出した。
勿論、帰りに寄るつもりなので一緒に連れて行くが……2人のやけに高いテンションに“?マーク”が浮かんでしまった。
「なあ、この花……ミルフィナ・ローズじゃないか?」
ジュエン自慢の花畑を散策していたら、不意にリンガが1つの花を凝視して呟いた。
「は? ミルフィナ・ローズ?」
慌ててケントが寄って行き、マジマジとその花を見つめる。
「……まあ、確かにミルフィナ・ローズっぽい見た目だけど…? 俺も花は詳しくないからなぁ……」
ケントはしきりに首を傾げている。
ミルフィナ・ローズというのは、かつて退魔師が重宝していた幻の薔薇だ。
約50年前にミルフィナ・シャロという退魔師が作り出した新種の薔薇で、強力な魔除けの力を持つ事で知られている。
花弁は勿論、葉や茎を御守り袋に入れて持ち歩いても充分に効果を発揮し、小ぶりで可憐な花弁を装身具として利用する者も多かった。
その為、退魔師の間で手軽な護身符として大流行したが、市井に迫害を受けた際に退魔師の象徴と見做され、市井の者たちの手によって全て燃やし尽くされ絶滅したと言われている。
その幻の花が、今自分たちの目の前に咲き誇っている。この奇跡にリンガとケントは言葉を失う。
「この郷で育つ植物の多くは、この森に逃げ込んた時に持ち込んだ種から育ったものだって聞いているよ。エモリア様の薬草園の薬草たちも、ね」
エドワードがポツリと語る。
リンガとケントは目の前の幻の花をじっと見つめる。壮絶な運命に翻弄されたその花は、今はただ静かに風に揺られていた。




