森での修行 6日目〜朝の散歩と昔の習慣〜
「ケント、起きて!」
約束通り、早朝の散歩に行く為にケントを起こすエドワードとリンガ。しかし……
「……う〜ん、……まだ寝かせてくれよ……」
と煩わしそうに寝返りを打つケント。
「……、起きろー!!」
痺れを切らし、リンガは寝ぼけたケントを思いっ切り足蹴にする。
「はぐ!!」
ケントは堪らず飛び起きた。
「ったく〜、お前乱暴だぞ!」
早朝の郷をテクテク歩きながらケントはリンガに食って掛かる。
「うるさい。お前がさっさと起きないからだろうが!」
とリンガも負けていない。
「まあまあ、2人とも」
そんな2人に苦笑いのエドワード。
「ここだよ」
「うお〜、スゲ〜!」
今朝頼まれたのは苺だ。エドワードが一面に広がる苺畑に案内した時、ケントの目が輝いた。
「俺、苺狩って初めてなんだ〜!」
「俺もだよ」
と、リンガも何だかソワソワしている。
「あはは。じゃ、摘んでいこうか」
エドワードは苦笑して2人を促す。
「けどさ〜、エドワード」
しばらく夢中で苺を摘んでいたケントがエドワードに呼びかける。
「何?」
「お前。前から思ってたけど、やけにここの生活に馴染んでいるよな」
不思議そうに尋ねるケント。
「え? ケント、君……昔、私がここで暮らしていたのは知っているよね? その事は何度も話したと思うんだけど……?」
エドワードは訝しげに首を傾げる。
「それはそうなんだけどさ。けど、それは昔の話だろ? それにしてはやけにここの事情や習慣ってかやり方に詳しいなっ、て」
そう言いながら、ケントは摘んだ苺をパクっと齧りつく。
「まあ……それは」
「それは俺もちょっと思ってたな」
不意にリンガも入ってくる。彼も生まれて初めての苺狩に興奮しているのか、せっせと苺を摘みながら時折、苺が口に運ばれていっている。
「幼い頃に暮らしてただけにしては、やけに習慣に詳しいってか馴染んでいるんだよな。早起きにしても、諸々の仕事にしても」
リンガも訝しげに言う。
「ここは基本的に自給自足だからね」
苺狩からの帰り道、エドワードは語り出す。
「その上、当時から人が殆どいなかったから小さな子どもでも出来る仕事はしなければならなかったんだ」
「「……」」
その辺りは以前聞いたことがあったが…基本的にお坊っちゃま育ちの彼らは、幼子が仕事に駆り出される生活なんて想像出来ない。
「早起きや早朝の果実摘みは、その頃からやっていたんだよ。あの頃はジョーやジュエンはまだ赤ちゃんだったから、あの子たちのお世話とかね。ジェス様にあの子たちの兄になって欲しいって言われて。張り切ってお世話してたなぁ」
「へえ」
「そうか」
その辺は何となく分かる。 彼らにも弟妹がいるので、よく大人たちの横でお世話の真似事をしていたものだ。
「後、幼い頃に住んでいただけにしてはやけに馴染んでいる、って所だけど……」
「そうそう。何でだ?」
ケントが先を促す。
「こちらにはエモリア様が所有する薬草園があるんだよ」
「え? そうなのか? ……また何で?」
ケントが首を傾げる。
「普段よく使うありふれた薬草は、近くの森で採取したり診療所の庭で栽培されているんだけど」
「なら、診療所の庭で全部栽培すれば良くね? 何だってまた、わざわざここで栽培してるんだ?」
ケントは更に首を傾げる。
「こちらで栽培されている薬草は、貴重で珍しい薬草なんだ。それこそ今では図鑑でしかお目にかからないような、幻と言われている薬草とかね」
ここまで話してリンガは得心がいったようだ。
「なるほどな。そういう事か」
「え。何? どういう事だよ!?」
1人理解していないケントが言い募る。
「つまりだな。ここで栽培されている薬草は非常に珍しく貴重なものだ」
「それは聞いた! 俺はその理由を聞いてんの!」
「要は盗難対策だ。珍しく貴重だという事は売れば金になる、という事だからな」
「……」
ケントは呆気に取られた表情だ。インディオール家という、“少々”世間からズレた感覚の一族出身であるケントは、他人の物を盗んで売り捌くというのは考えた事も無かったらしい。
「そういう事。実際、盗難に遭った事があるし。そんな訳で定期的にここに訪れて薬草の世話をしたり採取に来ているんだ。私もよく一緒に連れて来て頂いたものだよ」
「へえ」
「因みにエモリア様たちがいらっしゃらない間はこちらの方々が管理して下さっているんだよ。今は主にジュエンが世話してくれているみたいだよ。あの子、お花とか好きみたいだし」
「……」
ここにやって来てもう6日になるが……まだまだ知らない事が多いんだな、とリンガはとケントは内心溜め息を吐いた。




