パウル・ドットの思惑
“あ〜、吃驚した!!”
早めに家に帰りたくて森を通り抜けたら散々な目に遭った。まさか化け物に遭遇して襲われるなんて……
これまでも日が暮れてから森を通り抜けた事は何度もあったが…化け物に襲われた事は無かったのに。
そう思い、パウルは溜め息を吐く。今日は本当にツイてない。しかし……
“その為に噂でしか聞いた事の無い退魔師に会うなんてな”
それを思うと、一概に運が悪かったとも言い切れない。
“だって退魔師だぞ? どんな屈強な冒険者や凄腕の魔術師や呪術師も太刀打ち出来ない化け物でも、いとも容易く倒すと噂の退魔師なんだぞ!”
これは、大発見ではないだろうか?
“この事、冒険者ギルドか騎士団に報告するべきじゃないのか?”
そして退魔師の存在が明らかになれば、自分たちの生活は安全になるのではないだろうか? そうなれば、自分は存在が不確かな退魔師発見の功労者として名を上げる事が出来るだろう。
そこまで考えた時、パウルは退魔師に関するもう一つの話を思い出した。
“そういえば、退魔師は人の世に直接関わってはいけないんだという話があるよな……?”
何故かは分からないが、退魔師は人と直接関わってはならないという掟があるらしいのだ。それ故退魔師は闇夜に紛れて化け物を退治し、人々に姿を見せる事が無いのだと。
“けど、何で姿を見せちゃいけないんだろうな?”
パウルは首を傾げる。一説には退魔師そのものが人ならざる存在で、極めて醜悪な見るからに化け物のような見た目をしているからだと言われているが…
しかし、今日出会った少女は紛れもなく人間だった。しかもかなりの美少女だ。
“見た目は至って普通の人間なんだがな……”
まあ、化け物を屠る力は普通ではないが。
“あんな力があるのなら、人々の為にその力を使うべきだろうに”
そもそも何故退魔師は姿を見せる事無く、化け物退治をするのか?
やはりどう考えても退魔師が堂々と化け物退治をしないのか理解出来ない。
“何にしてもあの少女にまた会ったなら、それを聞いてみないとな”
パウルにしてみれば、化け物を屠る力があるのに世のため人のためにその力を振るわないのは身勝手な事のように思えるのだ。
あの少女にまた会ったならば、あの力を人の為に使うよう説得しよう。
そんな事を思いつつ、パウルは眠りにつくのだった。