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郷の住人〜ウェイド一家の団欒〜

「たっだいま~!」

 森の見回りを終え、元気に自宅に戻って来たジュエン・ウェイド。

「お帰り。今日は遅かったんだな」

 にこやかにジュエンを出迎えるのは、親子ほども歳の離れた兄ジェス・ウェイド。

「兄様〜、今日は大変だったんだよ~?」

 ジュエンは大好きな兄ジェスに戯れつき、猫のようにゴロゴロと甘える。

「ははは、ジュエンはまだまだ赤ちゃんだなぁ」

 ジェスはグリグリと胸に押し付けてくる妹の頭を優しく撫でてやる。



「へえ。珍しい事もあるもんだな」

 ジェスはジュエンに食事を用意してやりながら、ジュエンのマシンガントークに相槌を打つ。

「でねでね!」

 ジュエンは今日の見回りで出会した男性、パウル=ドットについて矢継ぎ早に喋る。



 ジュエンの話しによると、その男性は日も落ちた森の中を通り化け物に遭遇し襲われていたらしい。

 間一髪ジュエンが間に合い化け物を倒し、パウルを森の出口まで送って行った、と。



「そいつ。何だってまたそんな時間に森を彷徨いていたんだ?」

 ジェスは呆れ気味に呟く。

「知らな〜い。何か、早く帰りたかった……とは言っていたけどさ」

 ジュエンはパンをモグモグした後、兄に答える。

「にしても、命知らずだろ」

「だよね。私もそう思う」

 ジュエンもウンウンと頷いている。



 この世界では魑魅魍魎が跋扈している。その為、この世界の住民は日が暮れたら基本的に出歩かない。大きな都市になればまた別だが、街中だからといって安心はできないのだ。

 その為、人々の間でも自衛の為の武力を擁している。魔術師や呪術師、冒険者といった者たちが被害が出る度に化け物を討伐している。



 それでも太刀打ち出来ない化け物が現れた時は退魔師の出番という訳だ。



 しかし、退魔師は決して表舞台に現れる事は無い。何故なら彼らはかつて人々に迫害を受け森に逃れた過去があり、彼らはその事を決して忘れる事は無い。

 故に彼らは闇に紛れ、自らの使命を果たすのだ。




『お。ジュエン、戻って来ていたのか』

 食事を終え、兄とまったりお茶を飲んでいたら声を掛けられる。

「あ! ルオ爺! ただいま!!」

 ジュエンはニコニコと返事を返す。

『その様子だと怪我は無いようだな』

 ルオ爺と呼ばれた霊体はそう言ってフッと表情を緩める。



 この“ルオ爺”は兄の配下の霊体である。兄は死者を自在に操る、いわゆる“死霊使い”だ。

 兄の死者を支配する力は凄まじく、ありとあらゆる死者を従える事が可能で、この道の頂点に君臨する“死霊の王”である。

 兄にはルオ爺の他にあと三体霊体の配下がいる。何れも強力な霊体で、兄や自分、もう一人の血の繋がらない同い年の兄の頼れる護衛だ。



『ふふふ。ジュエン、今日は大活躍だったねぇ』

「あ、見てたの?」

『勿論。今日は私が君の護衛をしていたんだから』

 そう言うのは兄の二体目の配下、アスルだ。

「え〜? 全然気付かなかった〜!」

 ジュエンは膨れっ面になる。

  

 

 「兄様、いつの間にアスルを付けてたの〜?」

 ジュエンは兄を問い詰める。

「特に俺が命じた訳じゃ無いぞ。こいつらが自発的にお前やジョーの護衛に付いている」

 ジェスは肩を竦めて答える。因みにジョーというのはジュエンの同い年の兄である。



「え? ジョーにも?」

 ジュエンは目を丸くする。

「ああ。因みにジョーにはフォルトがついてるぞ」

「……」

 そのジョーは現在、修行の為にこの郷の更に奥の修行場に詰めていて数日戻らない予定だ。

 


 ジョー,ジュエンと兄ジェスの配下四体とは、彼らが赤ちゃんの頃から四体は世話を焼いてきた。なので四体にとってジョーとジュエンは孫同然なのだ。

 その為、ジョーとジュエンも四体には大いに甘えている。が、そこはデリケートなお年頃。子供扱いされるのも何だか嫌なのである。

 


「おー、皆戻ってたのかい? おかえり、ジュエン。今日はお前さん、頑張ったねえ」

 ニコニコ笑いながらそこに現れたのは、この郷の(ぬし)であるホーリー・モント。年齢不詳の謎の人物だ。

「おばあちゃん! おばあちゃんも見てたの?」

「勿論さ。ジルも一緒にお前の活躍を具に見ていたよ」

「え? ジルジルまで?」

 ジルは四体目のジェスの配下である。

『はい。(ぬし)様と共に。ジュエン、腕を上げましたね。』

「本当〜? 嬉しいな〜! って、結局兄様以外の皆に見られてたって事ぉ〜?」

 ジュエンは驚きの声を上げた。



「ねえねえ兄様。ジャン兄兄は?」

 ジュエンは兄の親友で同居人のジャン・インディオールの姿が見えない事に首を傾げる。

「ああ。あいつは今、実家に行ってる。もうそろそろ帰って来るんじゃないか?」

 そう言い終わらない内に当のジャンが戻って来た。

「お帰り、ジャン!」

 ジェスは満面の笑みでジャンを出迎える。

「……ただいま、ジェス」

 ジャンはフッと微笑む。



「ジャン兄兄、お帰り!」

 ジュエンは兄二人が醸し出す雰囲気を一切気に留めずジャンに突撃をかます。

「ジュエン、ただいま」

 ジャンは、自分に懐いて胸にグリグリ頭を押し付けてくるジュエンに苦笑を漏らしつつ、優しくその頭を撫でてやる。

 ジュエンは大好きな兄二人に頭を撫でてもらい、大変満足している。



 その様子を周囲の大人たちは微笑ましく見守り、今日も退魔の郷の時間はは穏やかに過ぎて行く。

 




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