ジャンとウェイド兄妹
「ジャン兄兄〜、お帰り〜!」
実家への定期的な帰宅から戻って来たジャンにジュエンは勢い良く飛び付く。
「ただいま、ジュエン」
ジャンはジュエンの勢いにも全く揺るぎなく抱き止める。
「えへへ〜」
ジャンは自分に懐いてくるジュエンに微笑みながら、可愛い妹の頭を撫でる。
「今回はどんな感じだったの?」
ジュエンはジャンが持って帰って来たお土産のお菓子を頬張りながら尋ねる。
「……いつも通りだった」
言葉少なに答えるジャン。そう答えながらジャンはジュエンの空になったカップにお茶を注ぎ入れる。
「ありがと。いつも通り……、う〜ん……」
ジュエンは首を傾げる。
ジャンは非常に口数が少なく、その発言の真意を図るのはコツを要する。
ジャンの実兄ファビアンやジェスであれば即座にその意図を察する事が出来るが、生憎ジュエンはまだその技術を完璧に習得していない。よってジャンが発言する度に考え込み、会話がしばしば途切れてしまう。
なので
「ん〜、何も問題は無かったんだね!」
とまあ、概ねこういう大雑把な理解になってしまう。
「うん」
しかし、ジャンはジャンでこんな自分の話し方に嫌な顔をせずおしゃべりしてくれるジュエンに感謝している。
ジャンとその兄ファビアンは、訳あって両親では無く父の弟チャールズに育てられた。
チャールズは非常に厳格な人物で、学問のみならず礼節や道徳観などをそれは厳しく叩き込まれた。
その結果パッと見は完全無欠な聖人風に育ったが、二人とも何処か人間離れ・浮世離れした歪な性格になってしまった。
ファビアンは人当たりは非常に良いのだが、上っ面を取り繕い人の気持ちが理解出来ない人物に、ジャンはその生真面目過ぎる性格に更なる磨きがかかり、融通の利かない感情が抜け落ちた人物に。
そんなジャンの世界の壁をぶち破ったのがジェスだった。
ジェスはいつも仏頂面で無口なジャンをいつもからかい、ちょっかいをかけていた。
そんなジェスをジャンは最初煩わしく思い無視していたが、何時の頃からか少しずつ言葉を交わすようになるにつれジェスに心を開くようになった。
それからジェスと過ごしていくにつれ、ジャンは叔父の教育により忘れていた感情を徐々に表す事を思い出し、表情も少しずつ豊かになっていった。
そしてジェスが自分の一番になっていったのだ。
今現在においてもジャンは感情を表すという事は苦手だ。三つ子の魂百まで。幼い頃から叔父に叩き込まれた教育の影響は未だにジャンの中で燻っている。
ジェスがジョーを連れ帰り、育てる事が決まった時は迷う事無くジャンは共に育てて行く事を決意した。
その際実家とは多少ゴタゴタしたが、ジェスのみならずウェイド一家にディネル家、更には兄ファビアンの口添えを得て無事にジェスと共にジョーを育てて行けるようになったのだ。
ジョーの面倒を必死に見ているうちにディネル家に双子が、次いでジェスの妹が誕生し、更に賑やかな毎日が訪れた。
感情を表すのが未だにド下手なジャンは、赤ちゃんたちをあやす度に大泣きされ密かに落ち込んでいた。
そんな中ジュエンだけはジャンの仏頂面を見ても泣く事が無く、当時の赤ちゃんだらけの状況で自分は専らジュエンのお世話係を仰せつかっていたのだ。
そんな経緯があり、ジャンにとってジュエンはジェスの次に大切な存在である。ジュエンもまた、赤ちゃんの頃から甲斐甲斐しく面倒を見てくれたジャンを兄兄と呼び、非常に懐いている。
「ねぇ、ジャン兄兄。次コーサルにはいつ行くの?」
不意にジュエンが聞いてきた。
「……来月にまた数日」
「そっか! じゃあまた、お勉強教えて貰えるんだね!」
ジュエンはそう言って嬉しそうに笑う。
森で暮らすジュエンは、当然ながら学校の類に通っていない。なので自宅での学習を行っているのだが、その際ジャンが主に教師を務めているのだ。
ジュエンの教育にはジャンの他にジェスや配下4人衆も請け負っているが、座学は主にジャンの担当だ。他の者は剣や体術等の実技を担当。ジェスはその他ジャンが不在の時、代わりに勉強を教えている。
理由としてジャンはインディオール学院の歴とした講師であり、ジャンが教えるならば出張講義と見做し単位を与えると学長のファビアンと話がついている。
なのでジュエンは現在、特例で自宅にいながらインディオール学院に在籍している形になっているのだ。
「ただいま〜」
ジャンとジュエンがおしゃべりしていると、所用で市井に出向いていたジェスが帰って来た。
「あ! 兄様お帰り〜! ジャン兄兄帰って来たよ〜」
そう言いながら兄に飛び付くジュエン。
「ただいま。いい子にしてたか? ジャン、お帰り。」
「……ただいま。ジェスもお帰り」
ジャンはフワリと微笑む。
その笑顔を見たウェイド兄妹は一瞬顔を見合わせ、とびきりの笑顔をジャンに返していた。




