ウェイド一家、勢揃いする
「たっだいま~!」
今日も森の見回りを終え、元気に帰宅したジュエン。
「おう! お帰り」
と返して来たのは、大、大、大好きな兄ジェスでもジャンでも無く……
「あ〜! ジョー!! 帰ってたんだ! お帰り!!」
同い年の、一応義兄にあたるジョーであった。
ジョー・ウェイドはジェス,ジュエン兄妹とは血が繋がっていない。ジュエンは詳しく知らないが、ジョーが赤ん坊の頃に兄が何処からか連れ帰って来たらしい。
そしてそのままジェスが面倒を見ることになり、それをきっかけにジャンが同居するようになったそうだ。
当時のジョーはジェスとジャンの養い子という扱いだったらしい。因みにジョーが兄たちの養子になった時点ではジュエンはまだ母のお腹にいた。
このままではジュエンとの関係性がややこしくなるからと、ジュエンが生まれ落ちたのを契機にジョーはジェスとジュエンの両親の養子になり、晴れて義兄弟妹になったのである。
何はともあれ、ジョーとジュエンは兄妹として育った。ディネル家の双子ともよく一緒に遊んだが、年齢が上がるにつれ、ジョーはディネル双子と少しずつ距離を取るようになっていった。
そして退魔師の修行が始まる頃にはディネル双子とはすっかり疎遠になり、ジュエンは寂しく思っているのだ。
「ねぇ、ジョー。修行はどうだった?」
しばらくぶりに顔を見た義兄に早速修行の成果を尋ねるジュエン。
「おお、バッチリだぜ。……詳しくは兄貴たちが戻って来てからな」
そう言ってジョーはジュエンの頭をワシャワシャと乱暴に撫でる。
「ちょ! も~、ジョーったら! 髪がグチャグチャになる〜!」
ジュエンはジョーに抗議し、ジョーはそれを笑い飛ばす。
「お、ジュエンにジョー。帰ってたのか。お帰り」
しばらくジョーとおしゃべりをしていたら、ジェスとジャンが帰って来た。
「あ!兄様〜!! お帰りなさい!!」
そう言って兄たちに突撃し、その胸に頭をグリグリ擦り付ける。
「ははは、ただいま、ジュエン」
ジェスは笑いながらジュエンの頭を撫でてやる。
「ただいま帰りました。ジュエン、相変わらず師匠が大好きですね」
苦笑混じりの声が聞こえ、ジュエンはようやくジェスとジャンの他にもう一人いる事に気付いた。
「あ! クロ兄だ! お帰りなさい!」
もう一人の人物は兄ジェスのただ一人の弟子、クロード・モウだった。
クロード・モウはディネル家の血縁なのだが、訳あってジェスがクロードを預かり退魔師として育てる事になった。
クロードはジェス仕込の退魔の技術と死霊術を習得し、現在は市井に下り冒険者として活動している。
「クロ兄〜、久しぶり〜!」
と、これまた元気に突撃するジュエン。
「久しぶりですね。ジュエン、大きくなりましたね」
「本当〜? 嬉しいな〜!」
そう言ってニパアッと笑うジュエンを皆、微笑ましく見つめている。
「そういえば、後でウェイド夫妻も戻って来られるそうですよ」
「え? 母さんたちも?」
ジェスは驚いた表情になる。
「父様と母様、帰って来るの?」
対するジュエンは喜色満面の笑顔だ。
「はい。間違いなく、そう仰っていましたよ」
クロードはニッコリ微笑って頷く。
ウェイド夫妻、ルーサー・ウェイドとウェラ・コロール・ウェイドも冒険者として市井で活動している。
その為ラシャールの森には殆ど戻って来ず、ウェイド兄妹は年に1〜2度しか両親に会えないのだ。
そんな夫妻が今日こちらに顔を出すという。ジュエンのみならずジェスもまた、両親に会えるのを楽しみにしている。
そして……
「たっだいま~! 可愛い可愛い私たちの子どもたち! 元気にしていたかしら?」
日が暮れようかという時刻になって、賑やかな声と共に一組の男女が入ってきた。
「母様!」
真っ先にジュエンが反応し、母に思いっ切り突撃をかます。
「ジュエン〜! ただいま〜! 元気にしていた~?」
そう言って自分に飛び込んで来た愛娘をギュ〜〜ッと抱き締める。
「母様、母様〜〜〜!」
ジュエンは母の胸に思いっ切り頭を擦り付ける。
「ジュエン〜! 大きくなったわねぇ〜!」
母も娘の成長に感激し、満面の笑顔で娘を抱き締めている。
「ただいま。ジェス、ジョー」
ルーサーは妻と娘の再会劇を微笑ましく見守りつつ、息子たちに帰宅の挨拶をする。
「お帰りなさい、父さん」
「おやおや。珍しく勢揃いしているねぇ」
クスクス笑いながら入ってきたのは、この森の主であるホーリー・モントだ。
『こんなに賑やかなのは久しぶりだな』
『本当に』
そしてジェスの配下衆も揃って入って来た。
今夜のラシャールの森は、非常に賑やかに時間が過ぎて行く。