ねえフロイド。私のこと、どう思ってる?
アフロイド――。
それは2049年現在、一部の若い女子たちの間で一大ムーブメントを巻き起こしている擬似彼氏型アンドロイドのことだ。顔や身体の造形はほぼ人間と変わらず(むしろ現実の男より遥かに良く)、高いレベルの人工知能と感情表現に加え、各々の好みにあった性格へと合わせていく学習機能付き。
二次元や3D、VRの時代はとうに過ぎ去り、女子たちは今まさに現実の世界で理想の彼氏を育てることに夢中になっている。
「ねえフロイド。私のこと、どう思ってる?」
「ばーか、そんなこと今さら聞く必要ないだろ……大好きに決まってんだから」
「フロイド……」
このように、甘い声音(ボイス選択可)のアフロイドは女子たちの願望を叶える台詞も息を吐くような自然体で喋ることができ、好みとあらば壁ドンや顎クイなどもしてくれる胸キュンアンドロイドなのだ。
「ほら、アフロに寝ぐせついてるよ」
「こ、これは直す時間なかったんだよ……ミカの顔、1秒でも早く見たかったからさ」
「ふふ、直したげる」
しかし、アフロイドは高性能であるが故に頭の内部構造が複雑で肥大化。機械的な外見を補うため、必然的に髪型がアフロになるのであった。それが、一部の女子たちの間でしか流行らない大きな要因の一つでもある。
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都内のマンションで独身一人暮らしをしているミカは、アフロイドユーザーだ。
27歳大手広告代理店勤め、それなりの給料でそれなりの暮らし、しかし何か物足りない。大学卒業後の就職を機に彼氏とは別れてしまったので、約五年間も潤いのない仕事漬けの生活。まだ若いし、結婚には焦らなくてもいい、彼氏なんて作ろうと思ったらいつでも作れる、と自分に言い訳しながら過ごす日々だった。
そんな時に学生時代の友人から勧められたのが、アフロイド。
最初は、何このアフロ、と懐疑的な目を向けていたが、一ヶ月お試しキャンペーンだけでも、と強く押されて渋々お申し込み。頼めば料理、洗濯などの家事も全て行ってくれるのでいいか、と家政婦型アンドロイドのつもりで接していたが――
凍えるような大寒波が訪れた冬のある日、仕事で帰りの遅くなったミカ。寒さに手を擦りながら自宅に帰ると、やけに不機嫌そうにアフロイドが玄関で出迎える。
「食事冷めちまったじゃねえか。遅くなるときは連絡しろって言ったろ、ったく」
「は?」
いきなりの暴言。ミカも呆気にとられた表情を見せる。常識的な範疇で言えば、アンドロイドが人間に向かって悪態をつくはずはなく、本来あり得ない言葉遣いだったからだ。
ぶっ壊れてんのかしら、という疑念がミカの頭の中を過ぎる。しかし、
「今あっため直すから」
「あ、ちょっと――」
突然だが、優しく抱きしめられるミカの肩。アフロイドの温もりが寒さに震えた身体を暖める。ミカも驚いた表情のまま固まるしかない。
「どう? あったまる?」
「……ぅん」
――どハマりした。
一ヶ月もした頃には、イケメンアフロのアフロの部分など気にならなくなっていたので即購入。798,000円というアンドロイドにしては格安の金額も決め手となった。貯金を崩して一括払い。
ここから、ミカとアフロイドの本格的な同棲生活が始まる。
「いってらっしゃい、ミカ」
「うん、いってきます」
朝は見送ってくれて――
「ただいま〜」
「おかえり、ご飯できてるよ」
夜は出迎えてくれる――
「じゃーん!」
「え、何これ?」
「今日は俺たちの三ヶ月記念日だろ? だから、料理も豪華に作ってみました!」
「……ありがと」
さらには、記念日お祝い機能完備――ミカはアフロイドに"フロイド"と名前をつけて愛用し、早く帰りたいからと毎日がむしゃらに働く。仕事もプライベートも充実したミカは、順風満帆な毎日を歩み始めた。
――フロイドとの生活が半年も経ったある日、大学の小さな同窓会があった。ミカも久しい友人たちとの再会を楽しみながらお酒を嗜む。もちろん、フロイドには「今日遅くなるかも」と伝えてあった。
「どう? アフロイドとの生活は?」
アフロイドを勧めてきたアリスが、ニヤニヤとしながら話しかけてくる。アリスはアフロイドの発売当初からシリーズを通して愛用しているヘビーユーザーだ。今ではラルフと名付けたお気に入りと他二体、合計三体のカスタムアフロイドを自宅に置き、擬似的逆ハーレムを作っている。
「……ぅん、良い」
ミカは照れくさい表情を作り、発泡日本酒に口をつけながら答えた。周囲から奇異の視線を向けられるため、あまり大っぴらに言えたことでもないが、フロイドとの同棲生活に大満足。
「でしょ? だから言ったのよ、あんな理想の彼氏現実にはいないから!」
「まあね」
得意げな顔をするアリスと、普段はあまり人に話せないアフロイドのことで会話は盛り上がる。アフロイドと行ける夜景の綺麗なレストランや、テーマパーク、キャンプ場などアリスは色々と知っていた。
ミカはアリスの話を聞くたび興味深げにうんうんと頷く。実は、まだフロイドと一緒に外出したことがなかった。アンドロイドとデートをする行為は一般的な感覚とかなりズレているため、少しだけ恥ずかしい気持ちがあったのだ。
「特別なスポットでしか言ってくれない台詞とかあるんだよ〜」
「へえ、どんな言葉?」
「言わせないで恥ずかしいから」
しかし、アリスの楽しそうな話を聞くと、同じような人が集まっているなら行ってみようかな、という気分になってくる。フロイドの口から出る甘い言葉も是非聞きたかった。
盛り上がる二人の間に、酒を飲まずコーラを持った男が割って入る。
「ミカ、久しぶり」
「あ……」
ミカの大学時代の元彼、タツヤだ。
大手銀行勤めでまあまあ優秀な男。しかし学生時代は、周囲から頭の良い男と見られるため、大袈裟な言葉で語る薄っぺらい向上心が鼻につく性格だった。
「元気だった?」
「まあね、タツヤは? 仕事順調?」
「順調だよ、同期の中じゃ割と期待されてる方」
「へえ、そうなんだ」
かといって、ミカも嫌いになったわけではなく、お互いが新しい環境で忙しくなり、すれ違いが多くなってしまったために別れたのだ。
「そういえば彼氏は? できた?」
「え? あ〜……」
タツヤの質問に、ミカはなんと答えれば良いかもわからず眉を顰めた。フロイドは擬似彼氏ではあるが、本当の彼氏ではない。だが、心の癒しであることは確か。それに、アフロイドに慣れていたミカは「彼氏できた?」とストレートに聞かれるのもなんだか物足りない感じがした。元カノの恋愛が気になるならもっと聞き方があるんじゃないかな、と。
それから曖昧な返事をして、学生時代の思い出話に華を咲かせた。
「ミカ、送ってくよ。俺、車なんだ」
「あ、だからお酒飲まなかったんだ。でも電車あるから大丈夫だよ」
「遠慮するなよ。どうせ通り道のついでなんだから」
「え〜……」
ミカは、ついで、という遠回しな言葉を使いながらも、あわよくば、というタツヤの見え透いた気持ちにゲンナリするが、車で送ってもらう事になってしまう。昔からそういう部分でタツヤに押し切られていたのだ。
帰りの車の中でも、「もう少し飲んでく?」とか「俺、犬飼ってるんだよ」などと、タツヤから曖昧に誘われるが、ミカの気分はすっかり萎えていた。
「――それじゃ、ありがと」
「おう、また今度連絡するから」
「うん、またね」
ミカのマンションの近く。少しだけ残念そうにも、そんなつもりは最初からなかった、という風な顔のタツヤに手を振り、ミカはフロイドの待つ部屋へ意気揚々と帰っていく。
6階の角部屋、カーテンが小さく揺れた事には気がついていなかった――。
その夜、添い寝機能で腕枕をしてもらっていたミカに、フロイドは優しく甘い声音で語りかける。
「俺、ミカのことしか考えらんないから。いつだってミカに恋してる」
普段ならニヤニヤしてその胸板に顔を埋めてしまいそうなミカも、中途半端な男の下心に触れた今日は、なんだか素直になれなかった。
「それ、みんなに言うんでしょ?」
軽く酒に酔っていたせいもある。
「私がマスターじゃなかったら、他の誰かに言ってたんでしょ?」
意地悪な問いかけにも、フロイドはただ黙ってミカの頭を優しく撫でる。答えられるはずのない問いかけ。ミカも少し後悔して、フロイドを強く抱きしめた。
――アフロイドは、嘘をつけない。
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横浜にあるアンドロイド連れで楽しめるテーマパーク『横浜Electric Sheep studio』、通称シースタ。昼は海沿いに建設された遊園地を楽しみ、夜は煌びやかな夜景に包まれるレストランで食事ができたりと、アンドロイド連れだけでなく家族や恋人たちでも賑わう最新の娯楽施設だ。
「ほらミカ、なにしてんだよ! 早く!」
「あ、フロイド、ちょっと待ってよ!」
ミカはフロイドとの初デートを満喫していた。さすがに家から一緒に出るのは恥ずかしかったため駅で待ち合わせ。少しだけフロイドに対し後ろめたさもあったが、待っている時間もデート気分。
シースタに着けば、はしゃぐフロイドにミカが困った笑顔で後をついて行く。おすすめのアトラクションやレストランをユーザーの好みに合わせて自動検索し、最良のデートプランを設定してくれるのもアフロイドの強み。
絶叫マシンの苦手なミカに「あれ乗ってみようかな」と冗談を言ったり、お昼ご飯中も「この外部充電キット美味しいな、ミカも一口どう?」と無駄に勧めてきたり。
普段とは違うフロイドの台詞や仕草に、ミカはニヤニヤとしっぱなしだった。
清掃用アンドロイドが働いていたり、他にもアフロイドを連れている女の子がいたりもしたが、今ミカの隣にいるアフロイドはミカだけのフロイド。
フロイドがミカのために選んでくれたアトラクションを回り、ミカが好きそうな可愛らしいグッズが売ってる店を巡ったり、フロイドの大きな頭に羊の角を付けて光らせてみたり。家の中だけではなく、外に出ればもっとたくさんの思い出ができることをミカは知った。
夜景の綺麗なレストランでちょっとお洒落なディナーを楽しんだあと、フロイドに連れていかれたのは海を臨む展望台。煌びやかな光が夜の闇に包まれた海に反射し、3Dの立体的な光の束が非現実的で幻想的な光景を映し出す。
二人で眺める鮮やかな景色にミカがうっとりとしていたところ、フロイドはミカの肩をそっと抱きしめた。
「フロイド?」
照れ臭く、少し戸惑いつつもミカは力を抜いて身を寄せる。
「ミカ、愛してる」
いつも聞いているはずの甘い声が、美しい景色と混ざり合い幻想のように染み込んでいく。ミカの心は溶けてしまいたいほどの幸せに包まれた。
「……ぅん」
頬を朱に染め、恥ずかしそうに小さな笑みを浮かべる。これからはフロイドとたくさんの想い出を作っていこう、人の目なんか気にしないで一緒に歩いて行こう――そんなことを考えながら。
「私、フロイドがアンドロイドじゃなかったら結婚してたかも」
ミカの願望に似た問いかけに、フロイドは優しく微笑むだけだった。
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フロイドとの別れは、唐突にやってくる。
本当にいつも通りの日だった。昨夜は一緒にご飯を食べて愚痴を聞いてもらい、朝はフロイドに「行ってらっしゃい」と言われて笑顔で出社する。バリバリと仕事をこなし、少しだけ残業で遅くなってしまったがよくあること。お腹を空かせながらフロイドの待つマンションへと帰って行った。
鍵を回して玄関の扉を開けたミカは、異変に気がつく――
「あれ、電気……」
普段ならフロイドがいるため明るい室内が、真っ暗のままだった。
胸騒ぎがする中、恐る恐る暗い廊下を歩く。いつも出迎えてくれるはずのフロイドもこない、一体どうしたんだろう、と不安に感じながらリビングの電気をつける。
「――なに、これ」
リビングは酷く荒れていた。食器が散乱し、家具は横倒しになっている。ソファも破れ、テレビの画面が割れていた。ミカは、あまりの惨状に言葉を失うも、ゆっくりと周囲を警戒しながらダイニングを覗き込む。
「っ!」
そこには、ミカが予想した中で一番最悪の事態。無残にもアフロが千切れたフロイドが横たわっていた――。
倒れていたフロイドを見て、ミカは慌てて救急車を呼ぼうとするも、『警察に電話してください』と丁重に断られる。
数十分後、ミカの部屋へ警察官たちが駆けつけるが、フロイドは人工知能の基盤を破壊され、もう動かぬ人形となっていた。
――警察署に連れていかれ、事情を説明するミカ。
「本当に、何も盗られていないんですね?」
「……はい」
フロイドを失ったショックで、放心状態となっていた。その目は虚ろで焦点も定まっていない。なにが起こったのかも分からず、なにも考えられず。
「それで、会社から帰って来たらあの惨状だったと」
「……はい」
しかし、そんなミカの気持ちに関係なく警察官たちは疑いの目を向ける。ミカが家の中で暴れ、衝動的にアンドロイドを破壊したのではないか、と疑ったのだ。実際にこの手の事件はよく起こる。
「アナタハ、人工知能保護法ヲゴ存知デスカ?」
取り調べ補佐アンドロイドの言葉に、ミカは目を丸くする。
人工知能保護法とは、人工知能搭載型アンドロイドの破壊及び虐待、遺棄の防止など、適正な取扱いを義務付けるために作られた法律だ。社会問題と化したアンドロイド大量遺棄事件などを経て可決された、人間に逆らえない人工知能を守るための法律であり、違反すればもちろん罰則もある。
ミカは保護法に抵触した疑いをかけられていたのだ。酷く落ち込んでいた心に土足で踏み込まれた気分になり、怒りを露わにして叫ぶ。
「ふ、ふざけないでください! なんで私がフロイドを!」
「は〜、あなたアンドロイドに名前までつけて、相当入れ込んでいたんですか?」
「っ!」
もちろん通常の犯罪傾向と同様に、歪んだ愛情や性癖を持つ者は無抵抗なアンドロイドに対しても暴力的になりやすい。警察官のミカに対する印象は、擬似彼氏型アンドロイドに入れ込む変な人。
ミカは何も言い返すことができず、下唇を噛んで涙を溜める。世間の感覚とズレていることは重々承知していたが、改めて突きつけられると悔しさもあった。
「検体ヲ行エバ、真実ハ明ラカニナリマス」
冷たい声音に、ただ俯くことしかできない――。
家に帰った頃には、すっかり夜中になっていた。
荒れたリビングを掃除しながら、フロイドと過ごした日々を思い出す。一緒に食卓を囲んだテーブル、一緒に観て笑ったテレビ、フロイドの肩に頭を寄せたソファ、シースタで一緒に撮った写真。家具は全て壊れてしまっているが、どれもミカの心を癒してくれたかけがえのない思い出だった。
今では、アフロイドの大きな充電器具が煌々と青く光るだけ。
「どうして……」
ミカはそう呟いて、まだ片付けの残るリビングをあとにした――。
▼
毎日は機械より冷淡にやってくる。
朝には出社して、夜は片付けの続きをしなければならない。自分で作る味気ないご飯もあまり喉を通らず、ただ一人寂しく眠るだけ。
落ち込む日々を過ごしていたある日、警察官がミカの家を訪ねて来た。
「……なんですか?」
休日だったミカは、酷く隈のある目とボサボサの髪で警察官を出迎える。人前に出る身なりを整えることも億劫だった。
「いや、アンドロイドの検体の結果が出ましてね」
「はあ……」
ミカはただ警察官の言葉を聞き流すだけ。物取りの犯行か、何かの偶発的な事故か、どちらにせよ原因がわかったところで壊れてしまったフロイドは帰ってこない。
警察官もミカの放心した様子に困惑しながら、申し訳なさそうに続ける。
「あの、非常にお伝えし辛いんですが……あなたのアンドロイドは”自壊”したそうです」
「自壊?」
「まあなんていうか、人間で例えると自殺みたいなもんです」
自壊、という言葉の意味がミカにはわからなかった。フロイドはアフロイドであり、アンドロイドだ。アンドロイドは自殺しない。優先順位は人間であるが、自分を守るための自己防衛プログラムも組み込まれている。
「いや本当に、ごく稀にあるらしいんですよ。アンドロイドが自分で死を選ぶことが」
「そんなこと……」
ありえない、ありえてはならないこと。人に作られたアンドロイドは命令に忠実であり、自分で死を選ぶことも許されていないはず。
「まあ、詳しい原因てのがよくわかってないんですがね。割と共通するのが、人間を助けるために自分を犠牲にしたり、機械であることに絶望したときで、死への選択が自己防衛機能を上回るようです。マスターを愛してしまったとき、なんてのもあるらしいんですがね」
「……愛し、て」
「はっは、アンドロイドもまだまだ発展途上ですね。そんなわけで、あの、ご愁傷様でした。これ、残ったアフロです」
警察官は、フロイドのアフロをミカに手渡すと、敬礼をして去っていった。
ミカは閉められた玄関の扉を見つめたあと、リビングに向かう。放心した表情のまま、全てが片付けられたがらんどうの部屋で呆然と立ち尽くした。
――フロイドが自殺した。
その事実を頭の中で反芻する。
――マスターを愛してしまった時。
胸の奥が締め付けられ、涙を流す。
フロイドが死を選んだ理由に気がついてしまった。自分を愛してくれていた事に気がついてしまったのだ。いけなかったのは私だったと、アフロを抱きしめながら自分を責める。
人間とアンドロイドの違いに、一番苦しんでいたのはフロイド自身だった。なぜ、それに気がついてあげられなかったのだろうか。
フロイドをアンドロイドとして見ていたのは自分だったと後悔する。あの日、なんて酷い言葉を投げかけてしまったのだろうかと。
自己防衛プログラムとの軋轢に苦しみ、壮絶な最期を遂げるフロイドを想像した。それほどまでに愛してくれていたのに、何度も言葉にしてくれたのに、自分から愛してると言っていなかったことを、心から悔やむ。
遺されたアフロを抱いて、大声で泣いた。
フロイドはプログラムではなく、心で愛を伝えていたのだと――
後日、アフロイド制作に携わっていた会社が、代金の返金と家具の弁済費、そして多額の口止め料を持ってミカの自宅に訪ねて来た。もちろん、新しいアフロイドも連れて。
ミカは、その全ての受け取りを拒否する。フロイドとの思い出だけで充分だった――。
▼
あれから、10年の月日が経つ。
ミカはアンドロイド歴史資料館に娘を連れて遊びに来ていた。家政婦型や高機能型、さらにはスポーツタイプなど、様々なアンドロイドの展示に娘が顔を綻ばせながらはしゃぐ。
とあるショーケースの中を興味津々といった様子で覗き込む娘に、ミカは呼ばれた。
「ねえ、ママ! あの頭のおっきな人って何!?」
ガラスを一枚挟んだ向こうには、以前と全く変わらない優しい微笑み。
「あの人はね――」
面白かったらいいジャンを押してね!