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1話


「レイア・ヴァルラント。婚約してから3年近く経つにも関わらず私には君のことが分からない。何を考えているのか分からないのだ。こんな私では君を幸せにはできない。すまないが婚約は」

「貴方のことを考えています」

「え」

「貴方のことを」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 待ちましょう。

 待っている間に私は今までの経緯を振り返って、彼に分かってもらう為に最も良い言葉を探すことにした。




◇◇◇


 生徒会執行部が開くお茶会は毎月開かれていて、テーマに添って招待客が決まる。

 オルスタント王国の貴族が通うクォルニカ学園の生徒会執行部には王族や高位貴族が在籍していることが多く、この習慣は生徒会以上に彼らと繋がりを持ちたい生徒側の希望によって続いてきた。


 何か変だとは思っていた。招待状を持って春の日差しが射す中庭を通って生徒会の専用サロンに向かったら他に招待客らしき者が見当たらない。

 婚約者のオリヴァー・ライオネル様は公爵家の嫡男で成績優秀なこともあり生徒会長の立場にある。

 

 婚約者の私だけがこの場にいて職権乱用のように思われたら困る。

 困惑していると生徒会の副会長を務めるエリクト・フォート様が私を出迎えた。


「お久しぶりです。今日は急遽仲間内だけでお茶会を開くことになり、定期茶会は後日となりました」

「そうですか。では私は帰りますね」

「いえいえ、レイア様はいていただかないと」

「なぜですか」


 生徒会書記を務めるリリス・ケプラ様が私の手を取った。

 リリス様は小麦色の髪を二つに結って濃緑の瞳を輝かせる活発な印象の先輩だ。

 他に会計、庶務のメンバーが2人いるのだが、今日は1人欠席のようだ。


「今日のお茶会は恋がテーマだからです」

「はい?」


 そのままぐいぐいとお茶会のテーブルまで引っ張られて行くと、婚約者のオリヴァー様はいつものように私をエスコートすることは無く不愛想に挨拶だけ済ませて席に着いた。

 私は鉄面皮令嬢と揶揄されたことがあるほど感情が表情に出ないタイプだけれど、オリヴァー様は私的な場では割と表情豊かなタイプだ。

 今までは生徒会の仲間や私の前では素っ気ない態度だったことはほとんどない。


 嫌な予感がしたけれど、普通にお茶会は進んでいき、私と同学年の生徒会庶務のアンナ・ショクア様の話が終わった後、副会長のエリクト・フォート様が笑顔で立ち上がった。


「では後はお二人で」

「ごきげんよう」

「会長、ちゃんとお気持ちを伝えてくださいね」


 お気持ちとは?

 内心は引き止める気でもそんな気配を漂わせることができないのが私だ。

 何と声を掛けたら良いか躊躇ためらっているうちにフォート様は私とオリヴァー様以外の生徒会の仲間を促して退室してしまった。


「……」

「……」


 この気まずい時間の後、私にとって最も乗り越えたい難局である婚約破棄の危機はやって来たのだ。




◇◇◇


「君は私を愛しているのか?」

「ふぁ。も、もちろんです」


 考えがまとまる前に繰り出されたオリヴァー様からの直球の質問に動揺したけれど、このチャンスを活かしてしっかりと気持ちを伝えることにした。

 以前お兄様が言っていた『レイアの気持ちは表情では伝わりにくいのだから言動で伝わるようにすれば良いよ』を実行するのだ。


「私は」


 お茶会の席から立ち上がりオリヴァー様の元へ向かう。


「オリヴァー様のことを」


 あれ。なんだか目がひりひりする。目が潤んでしまってオリヴァー様がぼやけて見える。

 いや今そんなことに気を囚われている場合ではない。


「心から愛しています」


 い、言ったー。照れるぅ。

 何度か瞬きをして視界が鮮明になった時、真っ赤になった婚約者とその向こうの少し開いたドアの隙間から生徒会のメンバーがサムズアップする姿が見えた。


 婚約者の返答を聞きたかったのに、眩暈がして視界が霞む。


「レイア!」


 たくましい腕に包まれた気がした。




 3話完結予定です。よろしくお願いいたします。

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