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遺体は語る 死の瞬間 エピローグ

衆議院議員の西田英三郎は県議の前屋敷誠一に対する殺人容疑で逮捕、起訴された。ひき逃げを装った犯行に使われた自動車も西田が所有する別荘の車庫から見つかり重要な物証となった。


児玉心の父親、児玉伸二に対する殺人容疑についても捜査が進められている。


また、スパイ行為についても、戦時中の残虐行為を含めて、追及が始まっている。


西田が使っていた工作員も検挙され、そのうち外国人については国外退去の処置が取られ、自国に強制送還された。




信子は今回の事件の顛末を描いたシリーズ「戦後35年 “最後の国士”の秘密」を連載。高い評価を受けた。


信子の連載も終わり一段落したことから、山元支局長が提案して「お疲れ様会」を開くことになった。


「お疲れ様会」には、〇〇新聞S支局関係者のほか、信子がお世話になった人たちも呼ばれ、にぎやかに行われた。



報道機関の、このような会合に警察幹部が出席することはほぼないと思うが、信子が島崎正県警刑事部長を誘ったところ、喜んで出席してくれた。


「今回の事件はノブちゃんと心くんのお手柄だよ。よく頑張ったね。2人はいいコンビだよ」 

  

島﨑刑事部長の長女、島崎泰代は信子にこっそり打ち明けた。

「うちのお父さんも独断が過ぎて、警察では立場が難しくなっているようだけど、そんなこと全く気にしていないわよ」 

泰代は来春、結婚する。

「S市の職員の男性で、派手なところはないけど市の観光開発に頑張っていて、お父さんとも話がよく合うの」



「お疲れ様会」の会場で島崎刑事部長の隣に座ったのが、元ヤクザの山口衛。「元」だから全く問題はないが、知っている人が見れば驚いて腰をぬかすような2ショットではある。でも、そんなことは全く気にせず、2人で楽しそうに談笑していた。


山口はS市内のラーメン店で修行中だったが、指の欠損がネックとなり断念した。

「世間は厳しいですね。でもめげずに頑張ります」 


信子が

「島崎さんと楽しそうに話していたね」


と聞くと、山口は


「そうなんです、島崎さんが『仕事については相談にのるよ』と言ってくださって、本当にありがたいですね」 

と話して笑顔を見せた。 


そこにはヤクザの顔は全くなかった。



父親の前屋敷誠一を亡くして悲しみの中にいる、みなみを呼ぶか信子は迷っていたが、みなみの方から出席させて欲しいと言ってきた。


「ノブちゃん、父を失った悲しみは簡単に癒えないけど、死を覚悟して証言を残した父なら『泣くのはもうやめなさい。そして前進しなさい』と言うと思うの・・・だから出席しようと思って」

そう言って笑顔をみせた。


「みなみちゃん、本当に大変だったね。今日は出席してくれて、ありがとう」


「だって、私を励ましてくれた仲間に感謝の気持ちを伝えたいし・・・」


そんな、みなみの隣には信子と同じ〇〇新聞S支局に勤務する同僚の記者、青木祐一朗が座っている。


みなみは

「私に寄り添ってくれる青木くんのやさしさには助けられているわ」

「僕は以前から、みなみさんの大ファンでした。これからも、それは変わりません」


みなみは青木との絆を強めながら悲しみを乗り越えていけるだろうと信子は思った。



〇〇新聞S支局長の山元大樹は来春60歳で定年退職する。


「世間では最近60歳を越えても元気で働こうと言っているようだが、俺は十分働いた。後は好きにさせてもらうよ」


多趣味の山元支局長なら、楽しい第2の人生を送れるだろう。



「仕事が忙しいよ〜。どこか支局に行きたいよ〜」


浜田公平は東京本社で頑張っている。

ところで、元妻との関係はどうなったのか?信子が聞いてみると・・・


「元妻の方は新しいパートナーも見つかったようだし、一度壊れた絆を元に戻すのって難しいね。子供達との関係はこれまで通り頑張るよ」

「それは寂しいですね。でも最近ニコニコしていませんか?」


「実は今、ある女性に猛烈アタック中なんだ。外国人なんで大変なんだけどね」

「えっ!? 外国人? 誰?」

「秘密・・・」

「私の知ってる人? 教えて! 教えて!」

「・・・ノブちゃんに全く関係のない話でもないので話すけど・・・実はこの間『あの国』に僕が取材に行ったよね。その時に最初に行った被害者の会・・・」


「そうそう最初、取材を断られましたよね・・・ええっ! ・・・まさか、その!!」 


「そう・・・事務局長の女性Aさんなんだ。向こうでいい感じになって、帰国してからも手紙でやりとりしてるんだけど、彼女、お母さんが日本人で日本に行きたいと言っているし、僕のこと信用してくれているしね」


「そうか、だから最近ニコニコしてたのね」


「これからどうなるか分からないけど頑張るよ」 



死者の声を聞く事ができるという特殊な能力を使って信子を助けてきた児玉心は、母親の児玉岬といっしょに「お疲れ様会」に参加した。

心は21歳になり、そろそろ今後の進路を決めなければならない時期になっている。


「色々考えているんですけど、僕が進学するにしろ就職するにしろS市を離れなければならなくなったら、お母さんが一人になるんで、それが心配で・・・」


すると岬が

「心、何を馬鹿なことを言ってるの。私は一人でも大丈夫。お前は自分のやりたいように生きていきなさい。急ぐことはありません」


岬はいつもマイペース。心を温かく見守っている。



そうして、和やかな時間が過ぎていき──


「皆さんのところを回ったら、少しお酒を飲み過ぎたみたい・・・」

そう言って信子が心の隣に座った。


信子は「勝利の美酒」に少し酔って潤んだ目で、愛する人のことを熱く語った、みなみや泰代、浜田の方を羨ましそうに見つめていた。


心はそんな信子を横目に見ながら


(ここで『信子さんには僕がいます』と言いたいところだけど、今後の進路も決まっていない僕にはそんなこと言えない・・・)


と、「勝利の美酒」にも酔えず、一人悶々とするのだった。




それから1週間後──



仕事も一段落したので、信子は休みをもらい、心をドライブに誘った。

心が運転したいというので、岬の車を借りて、心がハンドルを握った。


「心くん、運転うまくなったね」


「信子さんみたいにうまくはないですけど、運転するのは好きです」


心は信子と出会ってから、ひきこもりは克服したが、この3年近く仕事はせず信子の取材を手伝っていた。


「信子さん、私の父の事件が終わってから、私のあの特殊な能力が弱くなっているようなんです」


「そうなんだ。でも、もう十分、亡くなった人達の手助けはできたと思うよ」


「でも、信子さんのお手伝いができなくなりなりますよ」


「大丈夫、その能力が無くなっても心くんは心くんだから・・・これまでと一緒だよ。・・・ところで、心くん、これからどうするか決めたの?」


「まだはっきり決めたわけではないんですが、3年近く信子さんたちの取材を手伝わせていただいて、ジャーナリズムというものの大切さを少しだけですが学ばせてもらいました。それで、もっと知りたいという気持ちが強くなっている自分に気づいたんです。これから母と相談するんですが、大学に進んでジャーナリズムについて研究したいなと思っています」


「そうか・・・それは良いね。心くんに合っていると思うよ・・・私も遠くから心くんのこと応援してるよ」


その言葉を聞いて心は


「僕は・・・」

「ん?」

「いえ、なんでもありません。」


「お疲れ様会」から今日まで信子への思いを募らせている心だが、信子を前にすると何もいえなくなる。


信子への気持ちをぐっと抑えて運転に集中した。


しばらく無言で運転した後、信子が


「あっ、ここ眺めがいいんだよ!ちょっと車を停めて」と言った。




信子に促されて車を停め、駐車スペースから続く小道を進むとコンクリート製の小さな展望台があった。


天気が良いこともあって展望台からは遠くの山々や海が綺麗に見えていた。


「信子さんと最初に出会ったのも、このような見晴らしの良い道路沿いの空き地でしたね」


「そうね、心くんがお母さんと車で朝早く、現場に着いて大騒ぎになってたんだよね・・・もうあれからまもなく3年になるのかぁ・・・」


「信子さんと出会って僕はひきこもりから抜け出すことができ、信子さんには感謝しています。この3年近く、大変なこともありましたが、とても楽しかった・・・」


「心くん・・・私も楽しかったよ」


「だけどこれから先、そのようなことが無くなって、信子さんとの距離が遠くなるんじゃないかと思って、それが怖いんです・・・」


 

そして心は信子に対する自分の気持ちを素直に伝えた。



「信子さん、僕はこれからも信子さんの近くにいたい」



そう言って、心は真っ直ぐな視線で信子を見つめ、返事を待った。


信子は微笑みながら言った。


「さっき、君の夢を聞いて思ったんだ・・・君は今21歳でまだ若い。若いうちは自分の夢の実現に向かって最大限の努力をすべきだと私は思うの。だから、まずは一人で取り組む方が思いっきりチャレンジできるし、可能性も広がる・・・今は夢に向かって頑張る時だよ」


心は

「信子と離れたくない」と叫びたい気持ちをグッと堪えて自分に言い聞かせるように言った。


「そうですね、信子さんの言う通りです・・・がんばります・・・」


そう言いながら、涙が出そうになったので、心は空を見上げた。


すると・・・


「ごめん、ごめん。今言ったのは、6歳上の、ちょっぴりお姉さんという立場からのお話」


そう言うと、信子は心の胸に顔を寄せ心を抱きしめた。


心も信子の肩を優しく抱いた。



「信子さん、初めて出会った時から、あなたのことが好きでした」



「うん・・・キミの気持ちは分かってたよ。


心くん、ありがとう・・・


大好き・・・」



「信子さん・・・」



信子は目を閉じ、心が唇を重ねた。




信子が言った。


「君がどこに行っても、必要になったら、すぐに呼ぶからね」



信子が笑顔でそう言うと、

心も笑顔で応えた。


「はい! その時は喜んで!!」



西の空はすでに夕陽で紅く染まり、信子と心の二人を紅色に染めた。


今年もあと僅かで新年を迎える。


新しい年は二人にとってすばらしい希望の年となることだろう。 




       (おしまい)




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