第10話 最後の戦い 最終章
「西田センセイ、逃げるのか?私は許さんぞ!」
その声を聞いて西田はひどく驚いた。
「あ・・・あ・・・これは・・・!」
聞こえてきたのは、録音した声ではなく、まさに「地獄からの声」だった。
「児玉、児玉伸二の声だ・・・あの島独特の抑揚のあるしゃべり・・・間違いなく児玉だ」
西田は動揺していた。部屋から出ようと立ち上がっていたが、恐怖に震え再び椅子に座り込んでしまった。
信子が言った。
「西田さん、私の横にいる男性を見てください。彼はあなたがヤクザに命じてビルから転落させて殺した児玉さんの息子の心さんです!」
「えっ!児玉の・・・」
西田は絶句した。
「心さんは亡くなった人の声を聞いたり話したり出来る不思議な能力を持っているのです。そして今、彼には父親が乗り移っています。先ほどの声も伸二さんが乗り移った息子の心くんの体を使って喋っているんです」
信子が説明すると、西田は
「そんなバカなことが・・・」
と言ったが、心の顔を見て真っ青になった。
心は父親が憑依したことで顔つきも父親を思わせるように変化し、父親の声になって話し始めた。
「西田センセイ、私は本当に辛かった。特攻に出撃する前に終戦になり、命をもらって、これからは家族3人で平和に暮らそうと思って得た仕事があなたの秘書だったんです。
得体の知れない集団を秘密裏に車に乗せて運ぶ仕事も『あの国』の工作員を運んでいたと知って、辞めようとしたら・・・『家族に危害を加える』と脅されて・・・自分は国を裏切っていると思い苦しみ続けたんだ!!」
西田は、まるで亡霊を見るような表情で震えながら心に乗り移った父親の伸二の話を聞いていた。
「西田センセイ、なぜ私を殺さなければならなかったのか正直に教えてくれ」
「そ、それは・・・
君がやめたがっている事を『あの国』の諜報機関が知って、私の所へ指令がきたんだ。『その秘書を処分するか、お前が責任を取って処分を受けるか、いずれかを早急に実施せよ』だった。でも私があの国に行けば処刑になることもある・・・」
「それで私を殺す方を選んだんだな」
「・・・」
「ひどいもんだ・・・人の命を使い捨てにしている。それじゃ多くの人が命を落とした先の戦争の時といっしょだ。」
すると西田が独り言のように言った。
「戦争が・・・なければ・・・私もこんなことには・・・そうだ、戦争が悪いんだ」
心に乗り移っている父親の伸二が、西田をたしなめるように言った。
「西田センセイ、確かに戦争は理性を失わせ恐怖が渦巻く地獄のようなもので、とても言えないようなひどいことがたくさん行われました。だからと言って、何をやっても許されるわけではないですよ。しっかり司法の裁きを受けてください!」
そこまできたところで、県警の島崎刑事部長ら警察官10人あまりが部屋に入ってきた。
信子は島崎刑事部長に、西田のインタビュー取材のときに相手が強硬手段に出ることも予想されるため、予め危険防止策を相談してしていたのだ。
島﨑刑事部長は西田に
「今のお話、ドアのところで聞かせていただきました。つきましては、殺人容疑でお話をお聞きしたいんですが警察まで来ていただけますか? ちなみに現在国会は会期中ではございませんので、国会議員の不逮捕特権はありません。その辺りをよろしくお含み置きください」
と告げた。
西田も観念したのか、素直に従った。
西田は警察の車両に乗せられて事情聴取のため警察署に連れて行かれた。
これを見届けて信子は島﨑刑事部長に近づき「ありがとうございました」と言うと島崎刑事部長が信子に耳打ちした。
「今日の殊勲者は心さんかも知れないですよ」
「え?」
「さっき、心さんが私のところに走ってきて『ナイフやピストルを持った不審な外国人4人がホテル周辺にいて、このままだと大変危険です』と言って、4人の場所や特徴を教えてくれたんです。おかげで全員捕捉できたから、もう大丈夫」
「そうですか、そんなことがあったんですね。本当にありがとうございました」
信子が心に聞いた。
「途中でいなくなったのは、島崎さんに危険を伝えるためだったのね。ありがとう」
「父が危険だと教えてくれたんです。僕たちを守るために・・・」
「ありがたいね・・・」
「信子さん、終わりましたね」
「そうだね、ようやく終わった」
信子と心はお互いの手を強く握り締め勝利を祝った。
すると信子が突然、「あ!いけない!」と叫んだ。
心が
「どうしたんですか?」と聞くと、
「明日の朝刊の原稿、今から急いで書かなくちゃ!」
(つづく)




