第10話 最後の戦い 第5章
「西田さん、もう悪いことはやめましょうよ」
今度聞こえてきたのは、なんと数日前にひき逃げされ死亡した前屋敷県議の声だった。
「西田さん、あなたはもうおしまいだよ。悪あがきはやめなさい。あなたは戦時中『あの国』の住民を虐殺したにも関わらず、戦後も国会議員でありながら『あの国』のスパイとして活動している。そのことは、とても許し難いが、あなたの秘密に気づいた者の命を秘密を守るため奪った。これも絶対に許されない」
西田衆議院議員を糾弾する前屋敷県議の生なましい声が会議室に流れ、信子は亡くなった前屋敷県議が今にも会議室のドアを開けて入ってくるような錯覚を覚えた。
一方、西田は突然響き渡った前屋敷県議の声に動揺していた。
「前屋敷・・・生きていたのか? そんなはずはない・・・」
信子が会議室のテレビのスイッチを入れると画面に前屋敷県議の顔が映った。
「残念ながら前屋敷県議は亡くなりました。というか西田さん、あなたに殺されました。でもこのビデオで素晴らしいものを残してくれました」
みなみによると、西田が突然、前屋敷県議の自宅を訪問し警告した日の午後、前屋敷県議は、娘のみなみに電話した。
「みなみ、とても重要なことをお前にお願いしたい。急いで私の証言をビデオで残したいんだ。最近お前たちが取材にビデオを使っているのを知っていたんで、ビデオの機材を使わせてもらいたいんだ。そんなことできないのは十分承知の上で・・・時間がないんだ」
みなみは父親の突然の依頼にびっくりしたが、切羽詰まった声の様子にただことではないと感じ、その日の夜、機材をもって自宅に帰った。一人では心細かったので、信子の同僚でみなみと恋仲でもある青木祐一朗記者も一緒に行ってもらった。
幸い青木はカメラ機材に詳しく、
「みなみさん、撮影は僕に任せて」と言ってくれた。
みなみはまだ、青木のことを父親に紹介していなかったので、自分の娘が男性を連れてきたことにびっくりした前屋敷県議だったが、2人の関係を察して笑顔で迎え入れた。
青木がカメラを操作し、その横にみなみが立って父親の証言を撮影した。前屋敷県議は落ち着いた口調で、西田が国会議員でないと手に入らない政府や国会の動きや情報を『あの国』に送ったり、工作員の潜入を手助けをしていたことなどを証言した。最初の収録が終わった後、前屋敷県議は
「これだけじゃ不十分だ」と言って2回目の収録をした。
2回目は、より強い口調で西田の悪事を告発する内容となっていた。
「お父さん、これは?」
みなみは、恐る恐る聞いた。
「最初に撮ったのは『通常』の場合。2回目に撮ったのは『通常』の場合が使えなくなった時に使えるようにした『万が一』の場合だよ」
「お父さん、『万が一』の場合って?」
「お父さんが証言できなくなったときだよ」
この時、みなみは父親が死を覚悟していると思い、その予感は残念ながら的中して、収録した次の日の朝、前屋敷県議は亡くなったのだ。
みなみは父親が命を掛けて残したビデオを使って悪事を暴いて欲しいと言って、ビデオを信子に託した。
そのビデオが、まさに今、西田のインタビュー会場で流れている。
動揺した様子の西田に対し信子は
「こちらが全マスコミに流れたら影響はもっと大きいでしょうね」
さすがにこのままではヤバいと思ったのか西田は
「おい、こんな馬鹿馬鹿しいことに付き合ってはいられない。帰るぞ。お前たち、このままで済むと思うなよ!!」
と、捨て台詞を残して帰ろうとした。
そのとき、またもや男性の声が聞こえた。
「西田センセイ、逃げるのか?俺は許さんぞ!」
(つづく)




