第10話 最後の戦い 第4章
S県選出の衆議院議員、西田英三郎がインタビュー取材を受けるためS市内の老舗ホテルに到着した。
秘書が一人ついて来たが、いかにも屈強なボディーガードのような男で、日本人というより、アジア系の外国人のようでもあると出迎えた浜田は思った。
架空のインタビュー取材を仕掛ける信子側の陣容は、山元支局長が総指揮。浜田記者がインタビュアー。西田の件について説明を受けている本社や近隣の支局からの応援が十人で、会場の雑務や万が一に備えて周辺の警戒に当たる。
信子は西田と顔を合わせると警戒される恐れがあるので、会場隣の映写室に、心やみなみと一緒に待機。タイミングを見て隣の会場に入ることになっている。
「では、衆議院議員の西田英三郎さんです。よろしくお願いします」
「よろしく」
架空のインタビューが始まった。
ところが始まった途端、信子の横にいた心がそわそわし始めた。信子が小声で聞いた。
「心くん、どうしたの?」
心は慌てた様子で
「今、父の声が聞こえたんです。警告のようでした。信子さん、ちょっと、ここを離れます」
そう言って、心は映写室を飛び出した。
インタビューの会場では架空のテーマに沿った質問が続いていた。
西田議員の生い立ちから戦時中の話、そして戦後の議員活動の話などを通じて、日本の平和についてどのように考えるのかといった質問が続いた。
信子が真剣な面持ちで西田のインタビューを見守っていると、心が戻ってきた。
「心くん、お父さんは・・・」
「信子さん、詳しいことは後で話します」
「うん、分かった」
「あっ! 暴力団組長の録音テープが始まるみたいです」
「いよいよだね。」
信子は武者ぶるいのようなものを感じて映写室の小窓から隣のインタビュー会場を覗き込んだ。
隣のインタビュー会場ではオープンリールのテープを再生するデッキが運びこまれ西田の前に置かれた。インタビュアーの浜田が西田に言った。
「西田さん、インタビューの途中ですが、このテープに録音されている音声をお聞きください」
テープの音声が会場に流れた。
『お前に頼みたい事があるんだ』
『センセイ・・・それはヤバい仕事ですかい?』
『お前に頼むんだからな・・・やってくれるか? うちの秘書の一人なんだが・・・これがその秘書の写真だ。名前と住所も書いてある』
『この秘書さんが何かしたんですかい?』
信子や浜田らが息をひそめて見守る中、西田は憮然とした表情で自分の前に置かれたテープデッキから流れる音声を聞いていた。
テープは核心の部分に差し掛かった。
『こいつに例の仕事を手伝わせていたんだ。最初のうちは何もわからずやっていたんだが、やばい連中を運んでいるとわかってからは、犯罪の片棒はかつげない、やめさせてくれと言い出してね。辞めさせていいんだが、辞めた後、秘密を暴露されると私は終わりだ。なんとか出来ないか?』
『分かりました。事故か自殺に見せかけてやりましょうかね』
「何だこの音声は!テープを止めろ!」
突然、西田が叫んだ。
浜田はテープデッキを止めると西田の方を向いて強い口調で問いただした。
「西田さん! このテープの中で殺人を依頼している「センセイ』と呼ばれている人物はあなたですね!」
すると西田は
「何を寝ぼけたことを言うんだキミは! 私はそんなことを誰かに頼んだことはないし、第一、私の名前はどこにも出てこないじゃないか。何を根拠に私だと言うんだ?」
浜田は封筒の中から取り出した文書を示して
「これはテープに添えられた説明書で依頼を受けた暴力団SS組組長が書いたものです。それによりますと、センセイは西田英三郎衆議院議員、つまり、あなた、そして殺害されたのは秘書の児玉伸二さんで、高層マンションからの転落に見せかけて数人で投げ落としたとあります」
「そんなヤクザの親分が書いたものなど、なんの証明にも無らんだろう」
西田はそう言うと
「もう話にならん、帰るぞ」と言って椅子から立ち上がろうとした。
その時、部屋中に女性の声が響き渡った。
「待って下さい!西田さん!まだ聞きたいことがあります」
隣の映写室で待機していた信子だった。
声がした方向を睨みつけた西田は
「お前はこの前の小うるさい女記者か」
「西田さん、このまま帰られたらこの録音テープを全マスコミに渡しますよ」
「ほー、この私を脅すつもりか?いい度胸だ」
西田はニヤリと笑みを浮かべ、椅子に座り直すと、反撃に転じた。
「録音テープをばら撒くならそうすればいい。でも、そうすれば君たちも大変なことになるよ。
教えてやろう。当事者に無断で録音した内容は裁判の証拠としては採用されないことがほとんどだ。その声が私だと言い張るなら、お前たちを名誉毀損で訴える事もできる!第一、暴力団の組長が作ったものを誰が信じる?そんなテープは捨ててしまえ!!」
「西田さん、言いたいことは、それだけですか?」
信子は語気を強めて言った。
「証言する人は他にもいるんですよ」
(つづく)




