第10話 最後の戦い 第3章
「大変だ!西田が明日のインタビュー取材を断ってきた」
特別取材チームの要、ベテラン記者の浜田公平が〇〇新聞S支局で悲鳴をあげた。
このインタビュー取材は、浜田が特別取材チームに入った当初から準備していた西田を追い詰めるための切り札、「架空」の取材話である。信子らが戦う相手は 国会議員の仮面の裏で、殺人をもいとわない凶悪な顔を持つ衆議院議員、西田英三郎。心の父親の死に関わっているとの疑惑がある人物だ。正面から当たってノコノコ出てくるような相手ではない。
そこで、浜田は西田を断罪の場に引き出す秘策を考えて準備を進めていたのだ。
その秘策とは
架空の〇〇新聞特集の企画を作る。
タイトルは「戦後35年 平和を考える」。各界の識者にインタビューする企画であると説明し、西田衆議院議員に出演依頼をする。もちろん全てのことは、西田を取材チームのホームグラウンドに引きずりこむための ウソの仕掛けである。
西田が好みそうなテーマだったので、インタビュー取材を申し込んだら、すぐにOKが来た。
「それが、ここに来てキャンセルとは・・・何があったんだ?」
さすがの浜田も頭を抱えた。
その浜田の前に信子が今にも泣き出しそうな顔をして進み出た。
「あの・・・浜田さん・・・ひょっとしたら原因は私かもしれません」
「えっ!ノブちゃん心当たりがあるの?」
「ええ・・・昨日、前屋敷さんの葬儀があったでしょう。そこで当初予定されていなかった弔辞を無理やり西田が入れさせて自分で読んだことに強い怒りを感じていたんです・・・囲み取材の時によせばいいのに質問してしまって・・・それで西田は警戒して取材を断ってきたんじゃないかと」
「ノブちゃんは、どんな質問をしたの?」
信子はその時の質問の内容や西田の反応を詳しく説明した。
「う〜んその可能性はあるね・・・どうしようかな?」
「浜田さん・・・すみません。私のせいで・・・」
すると2人のやりとりを聞いていた支局長の山元大樹がすっくと立ち上がり、力強く言った。
「浜田くん、もう1回お願いしに行くしかないだろう。明日の予定だったから時間がないよ。私も一緒に行くから急いで。ノブちゃんは支局で待機していて」
支局長と浜田が西田の事務所に行くと、幸い西田は事務所にいるとのことだったので、秘書に取り次いでもらったが、西田の返事は「忙しいので時間がない」だった。
すると山元支局長が秘書に
「すみません。〇〇新聞の山元が来ているとお伝え願えないでしょうか。西田センセイが幹事長の時にお世話になった〇〇
新聞の山元です」
と言って再度取り次いでもらった。すると10分間ということで会うことができた。
「〇〇新聞の山元です。お久しぶりです」
「やあ、私が幹事長をしていた時だから20年ぶりぐらいかな。その節はお世話になったね」
「私が政治担当の記者になって1年目。センセイが若手のホープと言われていましたね」
支局長と西田が知り合いだったことに驚く浜田に構わず、支局長は話を進めた。
「時間がないので早速本題に入ります。明日のインタビュー取材についてですが・・・」
「ああ、それについては、私にメリットがないと思ったからね。申し訳ないけど断ったんだよ」
「でも、センセイ、前日のキャンセルはひどいですよ」
西田と山元支局長は知り合いとあって、思いの外親しげな会話となり、一緒に行った浜田は「上手くいくんじゃないか」と期待した・・・が
「最近お宅の新聞の記者の質、低下してしてるんじゃない?」
「センセイ、何かありましたか?」
「・・・小田って女はお宅の記者だろう?」
西田が鋭く睨みつけてくる。
「ああ、小田信子記者のことですね。うちの支局の記者です。・・・わかりました。小田記者が取材しているセンセイ関係の疑惑について心配なさっていらっしゃるんですね」
西田は黙って頷いた。
「センセイ、それはですね・・・どうやら匿名のタレコミがあって小田記者が勝手に調べていたようなんです。でも、噂話レベルの話であったので支局長の私から見て、あれはものにならないですよ」
「・・・」
「ですから、センセイ、新聞に出ることはないでしょう、心配なさらなくていいですよ」
警戒していた表情から一転し、西田は椅子に深々と座り満足そうに説明を聞いていた。
事実と異なる話をする支社長を浜田は驚きの表情で見ていたが、支社長の話は更にエスカレートしていった。
「小田記者は思い込みの激しい性格で、支社長の私も困っているんです。」
「えっ!?」
浜田が思わず驚きの声を上げる。
しかし、支局長は浜田の反応を気にもとめず話を続けた。
「いつも独断専行で、これまでにいろんな所にご迷惑をおかけしていまして、支社長としてその度に謝りに行かなくちゃならなくて大変なんです〜。まあ、記者に向いていないと思うんで、近いうちに新聞社も辞めることになるんじゃないですか」
支社長が部下の小田記者を貶す言葉を連発したことで、西田の警戒心もすっかり解けたのかニンマリとして、
「まあまあ、山元君、部下をそんなに貶すもんじゃないよ。でもそれなら一安心かな」
「じゃあ明日の取材も・・・」
山元支社長が意気込むと
「山元君、それとこれとは別だよ」
「センセイ、今回の終戦企画は『最後の国士』西田栄三郎がいないと成り立たないんです。先ほど事務所の方に聞いたら、明日は一日中予定は入っていないということでした。どうか明日のインタビュー取材の件、ご再考願えませんでしょうか」
山元支局長の必死の訴えが功を奏したのか、西田は断っていた明日の取材を再び受け入れることに同意した。
帰り道、浜田が山元に聞いた。
「支局長がノブちゃんのことを貶し始めた時、僕はびっくりしました」
「あっ、わかっているだろうけど、私が西田に話した事やノブちゃんの評価は全部ウソだからね。西田に、僕が裏事情を含めてなんでもペラペラしゃべる男だと思わせたのは、あくまでも相手を油断させるため。ノブちゃんは最高の記者だと僕は思っているよ」
「やっぱりそうでしたか」
「いずれにしろ、明日の戦いには絶対に勝たなければならないんだ。負けたらうちの新聞社もただでは済まない。そのためには、ノブちゃんには悪いけど西田が相手なら、嘘もつくさ。ノブちゃんごめん」
「この話、ノブちゃんには言えませんね」
そうして、架空のインタビュー取材は予定どおり翌日行われ、西田衆議院議員と信子たちとの最後の戦いの火蓋は切って落とされた。
(つづく)




