第10話 最後の戦い 第1章
「えっ!前屋敷県議が亡くなった?」
「朝の散歩の途中
車にはねられて?」
「亡くなった?」
「まさか! うそだろ!」
「ひき逃げだって ひどい!!
S県の県議会議員、前屋敷誠一が亡くなり 悲しみが広がった。
信子たちが前屋敷県議から話を聞いた日から3日後の早朝5時過ぎ、前屋敷県議は自宅からおよそ300メートル離れた県道の中央付近で死亡しているのが見つかった。
前屋敷県議は全身を強く打って死亡していて、現場の県道上には自動車の部品の一部が散乱しており、警察ではひき逃げ事件とみて捜査を始めた。
前屋敷県議は毎朝1時間ほどかけて自宅周辺を散歩するのが日課だった.
前屋敷県議の選挙区は、ほとんどが農業地帯であり、前屋敷県議は散歩の途中に出会った農家の人たちと天気や作物の出来などについて会話をするのが好きで、いろんな悩み事の相談にも気軽に応じていた。
その日も日課の散歩をしてた前屋敷県議が悲劇に襲われた・・・
信子は心の運転する車で前屋敷県議の家に急いだ。
「今朝の電話の様子だと、みなみちゃん 、大好きなお父さんを突然亡くして、とても混乱しているようだったわ。なんて声をかけたらいいだろう・・・」
「信子さん、心配することはないですよ・・・信子さんの姿を見せるだけで十分です。あとは、みなみさんに寄り添ってあげれば・・・」
「・・・そうだね。それにしても、みなみちゃんの今の心境を考えると・・・」
前屋敷県議の自宅ではたくさんの人が訃報を聞いて集まっていた。耕作されていない田んぼが臨時の駐車場になっており、信子たちの車もそちらに誘導された。
「あれっ?・・・あそこで車を誘導しているのは?」
そこで車の誘導をしていたのは信子の同僚の青木祐一朗記者だった。
信子が車の中から声をかけた。
「青木くん!」
「あっ!信子さんと心さん・・・!」
「青木くん、何してるの?」
「みなみさんから電話もらって駆けつけたんですけど、駐車場係が足りないと言っていたんで、お手伝いしているんです」
「そうだったんだ・・・ところで、みなみちゃんの様子はどう?」
「僕は30分ぐらい前に来たんですけど、その時はずっと泣いてばかりで・・・信子さんに会いたがっていました・・・早く行って慰めてあげてください」
前屋敷県議の遺体は一番奥の床間に安置されていた。俯いて涙を堪えているみなみに信子と心が近づき、声をかけた。
「みなみちゃん!」
「あ、信子さん、心くんも・・・」
「大変・・・だったね」
「お父さんが・・・」
そのあとは、みなみも信子も声にならず、しばらく2人で泣き続けた。
ひとしきり泣いた後、みなみが涙を拭きながら言った。
「ノブちゃんと心くんに、お願いがあるの」
「ええ、何でも言って、みなみちゃん」
「私は父の声をもう聞けなくなったけど・・・心くんは亡くなった父と話すことができるでしょ。心くんにお願いしたいんだけど、もう一度、父と話をしたいの」
亡くなった前屋敷県議への呼びかけは、心の特殊な能力が一番発揮できると期待される「ひき逃げ事件の現場」で行われた。自宅から300メートルの、すぐ近くの場所である。
「現場」の県道上には、鑑識作業のチョークの痕や血液を洗い流した痕などが残っていて、さすがに、みなみは恐怖で近づくことができず、少し離れたところから見守った。横には青木が立ってみなみを支えた。
「前屋敷さん、前屋敷さん・・・お願いします。応えてください・・・!」
心がくりかえし何度も呼びかけると反応があった。
「あっ・・・前屋敷さんから反応が・・・!」
亡くなった人の声は、特殊な能力を持つ心だけが聴くことができる。しかし、亡くなった人が身近な人だったりすると、亡くなった人が心に憑依する形でその場にいる人と話ができることもある。
心の様子に変化が現れた。
「みなみちゃん、こっちに来て!お父さんと話ができるかも!お父さんが心くんにのりうつったみたい」
心が話し始めた。でも、声や語り口は、まるで前屋敷県議が話しているようだった。
「・・・こ、ここは・・・どこだ?・・・ああ、自宅の近くか・・・私はどうしたんだ?」
みなみが堪らずに声を掛けた。
「お父さん! お父さん! 私の声、聞こえる?」」
「みなみか・・・良く聞こえるよ・・・隣にいるのは信子さんか。そちらに行きたいんだけど動けない・・・おかしいな・・・どうしたんだろう?」
信子が答えた。
「前屋敷さん・・・前屋敷さんは今、心くんの体を借りて話しています」
「えっ!?・・・そうか私は朝の散歩をしていたんだ・・・道路を渡ろうとしたら、道路脇に黒い車が停まっていて、『こんな所に変だな』と思ったんだ。そうしたら、その車が急発進して私めがけて突進してきて・・・そ・・・、そうか・・・私は死んだんだね」
「残念ながら、その通りです」
信子が告げた。
「ああ・・・西田議員・・・いや、私たちを苦しめてきた悪魔のような西田が命じて私の口を封じたんだ」
「西田と何かあったんですか?」
信子が聞いた。
「実は君たちと話した日の次の日、西田が前ぶれもなくウチに来たんだ。そして、西田は私にこう言ったんだ。
『最近、私のことを嗅ぎ回っている新聞があるらしい。私の過去を色々調べているようなんだ。何が目的なのか分からんがね。君は何か聞いていないか?」
そう言って、私の目をじっと見て、『ウチの関係者の中に新聞に情報を漏らす奴がいるようだが・・お前じゃないよな』と聞いてきたんだ」
それを聞いて信子は
「えっ・・・!取材では西田に感づかれないように慎重に動いてきたつもりでしたが・・・。
それで、どうされたんですか?」
「私は否定したが、疑われているのは明らかだった。最悪の事態に備えて、今日にも家族の避難などの対策をしようと思っていたが・・・こんなに早く行動に出るとは・・・油断した・・・」
「前屋敷さん、ごめんなさい。私達のせいで・・・」
「いや、信子さんは悪くないよ。悪いのは西田と・・・止められなかった自分だ」
前屋敷県議がそこまで言ったところで、みなみが声をかけた。
「お父さん、わたしの声、聞こえる?」
「ああ・・・みなみ・・・お父さん油断してしまって・・・・こういうことになったので、昨日話した通りだ。あとは頼んだよ・・みな・・・み・・・・・・」
「お父さん・・・お父さん 分かりました。お父さん・・・?」
「・・・・・・・・・」
みなみは、父親を呼び続けたが、返事はなかった。
「・・・消えました・・・」
心の憑依は終わった。
みなみは青木に支えられながら、静かに泣いていた。
「許せない・・・」
心の父親に続いてみなみの父親まで・・・。
大切な友人2人の父親の命を奪った西田に対する信子の怒りは頂点に達した。
(つづく)




