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第9話 国士の秘密 最終章


疑惑の国会議員、西田英三郎とその選挙を支える地元の県議会議員、前屋敷誠一。前屋敷は、信子の親しい友人でテレビ局アナウンサー、みなみの父親である。


信子は、以前、前屋敷県議からも話を聞いたが、その時には、前屋敷県議は、心の父親で西田議員の秘書だった児玉伸二の死について、「詳しいことは知らない」と話していた。


しかし、西田議員をめぐる様々な証言が出てくる中で、「西田議員に最も近い前屋敷県議が何も知らないはずがない。まだまだ隠していることがありそうで、もう一度、前屋敷県議に会って我々の疑問をぶつける必要がある」と信子は強く思うようになった。


再度の取材を受けて、前屋敷県議が信子の側につくか、西田衆議院議員側につくか?大きなそして危険な賭けである。


取材を申し込んだら前屋敷県議からは、すぐにO Kの返事が来た。



「やあ、やあ、またきてくれたね。ゆっくりして・・・」


前屋敷邸を訪れた信子、浜田、心の3人を前屋敷県議は、いつものように満面の笑顔で迎えた・・・が、前回と違い今回は警戒している様子がうかがえた。


「前屋敷さんは私たちの親しい友人の、みなみさんのお父様ですので、今日も楽しいお話をしたいところですが・・・」


信子が口火を切った。


「お答えしにくいことをお聞きするかもしれません」


「なんでもどうぞ」


そう言いつつ、前屋敷県議から笑顔が消えた。


信子が続けた。

「まず、西田議員の戦時中の虐殺行為について前屋敷さんは知っていたんじゃないですか?」


「そのようなことをおっしゃる方もいらっしゃるようですが・・・西田からは虐殺行為については特に聞いていません」


「前屋敷さん、我々の取材では、西田議員は戦時中、占領政策を強力に推し進めるために、総督府に『実行班』という別働隊を作り、占領政策に反対する現地の住民35家族およそ140人殺害していたんです」


「えっ、そんなにですか!?・・・それはひどい・・・」


前屋敷県議は言葉を詰まらせた。


「次にここにいる心さんの父、児玉伸二さんの死についてです」


修子は録音テープ2本と封筒の入った箱

を前屋敷県議に示した。


「これは、西田議員がヤクザの幹部に伸二さんの殺害を依頼した際に、ヤクザ側がイザというときの保険として、こっそり録音したテープです。


最近行われている声紋分析という技術を使って調べると、『センセイ』と呼ばれている男性の声と西田議員の声は、ほぼ一致しました。聞いてみてください」


テープレコーダーから男性2人の会話が聞こえてきた。


「『この秘書さんが何かしたんですかい?』


『こいつが私の秘密を知ってしまってな。秘書を辞めると言っているんだ。辞めさせていいんだが、辞めた後、秘密を暴露されると私は終わりだ。なんとか出来ないか』


テープの音声を聞いた前屋敷県議の顔色が青ざめた。


「こ、こ、これは西田の声です」


すかさず信子が質問した。


「前屋敷さん、あなたはこの前お会いした時、伸二さんのことは詳しくは知らないといったお話をされましたよね。それは本当ですか?」


心も訴えた。

「前屋敷さん、父の死について知っていることを全て話してください」


2人の訴えをじっと聞いていた前屋敷県議は、重い口を開いた。


「私は本当に、当時は自殺だと思っていたよ。でも、このテープを聞いたら・・・」


「西田の犯罪を追及するには前屋敷さんの証言が必要になるかもしれません。その時になったら証言してくれますか?」

信子が聞いた。


「・・・分かりました。できる限りの協力はさせていただきます。」


前屋敷県議は唇を噛み締め、神妙な面持ちで頷いた。



 


2日後、信子とみなみが、山崎刑事部長の家を訪れた。


「久しぶりだね3人集まるのは」


刑事部長の長女、康代が笑顔で出迎えた。


今回の取材は危険を伴うため警察との協力も考えなければならず、信子はそのことを打診に来たのだ。


久しぶりに女性3人でいろんな話をしたいと言ってみなみもついてきた。


話を聞いた刑事部長は

「よく分かった。取材は十分気をつけてね。特に危険が予想されるときには警察も何らかの対応を考えるからね」


このあと3人は恋愛の話で盛り上がった。


みなみが幸せそうにしているので信子が

「みなみちゃん、最近うちの新人くんと付き合いだしたんだよね」


「えへっ、そうなの。彼とても優しくて、大好きなんだ」

みなみがうれしそうに言った。


すると康代も

「実は私も・・・多分結婚することになる男性がいて・・・警察官じゃないんだけどね」


信子が

「2人とも好きな人がいていいな。わたしなんか仕事仕事で忙しくて恋する暇なんかないわ」

と言うと


みなみと康代は声をそろえて


「えーっ!うそー!そんなはずないでしょう」

「???」


不思議そうな顔をする信子に康代が


「あなたは仕事の時は獲物を狙う鷹のような鋭い目を持っているのに、自分のことについては節穴なのね」


みなみも調子にのって

「年下の男の子って、可愛いでしょう」と信子を茶化した。


女性3人の楽しい話はいつまでも続いた。




それから3日後の早朝、信子のアパートの電話がけたたましく鳴った。


取り乱した様子のみなみからの電話だった。


「ノ、ノブちゃん、父が・・・父が・・・死んじゃった・・・!!!」



        (続く)






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