第9話 国士の秘密 第7章
「僕、西田議員を以前にも見ていました。意外なところで・・・」
心は以前の事件の取材で自身が持つ特殊能力を使って見た映像が次々と蘇ってきた。
「意外なところってどこ?」
「ここじゃ人も通るんで、まずい。一旦、本社に戻りましょう」
急いで〇〇新聞東京本社に戻り、会議室で心から話を聞くことにした。
「信子さん、浜田さん、2年ほど前にS市でダンプカーが暴走して4人が亡くなるという事件がありましたよね」
「うん、あの事件でも、心くんにかなり頑張ってもらったよね?」
「信子さん。あの事件の取材で、僕が特殊能力を使って感じた映像の中に外国人の女性が、日本人の男性と話をしているシーンがあったと話したのを覚えていますか」
「うん、覚えてる。確か女性の方は、『あの国』のスパイではないかいうことだったけど、男性の方は誰だったか分からなかったよね」
「でも今日、西田議員を初めて間近で見て、一瞬だけ目と目が合ったとき、私の中で、全てが繋がりました。あのスパイと話していた男性は西田衆議院議員です。間違いありません」
「えっ、本当? それは重要な情報だよ」
信子が驚いて答えると、
浜田も
「これは凄い話になった。西田議員が外国のスパイと連絡を取り合っている。これは西田議員を追い詰める良い情報になるよ。父親を殺された心さんと、それを指示した疑いのある西田議員が接近遭遇したらどうなるだろうという、ちょっとしたアイデアだったけど、うまくハマったね」
「『あの国』の工作員と関係があるとすると、西田議員は日本の機密情報をあの国に渡すスパイだということ・・・?」
信子が聞くと、
浜田は、
「まだそれを裏付ける証拠や証言はないが、その可能性は、今日の心さんのお手柄で高くなったよね」
すると、心が
「お手柄じゃないです」と
申し訳なさそうに言った。
「僕は西田議員が自分の父親を殺した憎い相手だと思っているので、何度も写真を見ているし、その顔は知っているつもりだったのに、今日まで映像で見た男性が西田議員だと気づきませんでした。もっとしっかり確認すべきでした」
すっかり意気消沈している心を浜田が慰めた。
「心さん、人の印象なんてしょっちゅう変わるものだよ。逆に印象が似ていると言うだっけで人を間違えることもよくある話だ。だから人の確認は慎重すぎるぐらいがいいんだよ」
「そうだよ、心くん。浜田さんの言うとおり!」
「浜田さん、信子さん、ありがとうございます。おかげで気持ちが楽になりました」
心の顔に笑顔がもどった。
一段落したところで、浜田が
「さぁて、いよいよ明日出発だ」
西田議員による戦時中の現地住民虐殺事件の海外取材は本社の了解も得られ、予定通り、浜田が行くことになった。
「浜田さん、すみません。大変な取材をお願い して」
「ノブちゃん、心配しないで、大丈夫。久しぶりの海外取材なんでね・・・頑張ってくるよ」
「日本と違って外国だから大変じゃないですか?」
「幸い、現地に被害者の会というのができていると聞いたんで、連絡を取ったところ、取材を受けるということだったんだ。だから、その辺りを足がかりにして、取材ができると思うよ」
そう言って、浜田は日本を旅立った。
だが・・・とくに海外では「取材は、思い通りには行かない」のが常である。
(続く)