表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/74

第9話 国士の秘密 第6章

信子らが明らかにしようとしているのは、心の父親で西田英三郎衆議院議員の秘書だった児玉伸二の死に、西田議員が関与しているのではというもの。


取材の発端となったのは、元ヤクザの山口衛が持ってきた2本の録音テープだが音声のみであること、西田議員の名前が一切出てこないこと、一方の当事者のヤクザの幹部が死去していることなどから、これだけでは疑惑の証拠としては弱いと信子は思っていた。


また、西田議員の残忍さを形作った要素の一つである戦時中の現地人殺害についても伝聞ばかりで、直接被害者本人などから聞いたもので無いことも気になっていた。


そんなことを考えながら、信子が支局で頭を抱えていると、取材班の応援で東京本社と支局を行ったり来たりしている浜田公平記者が信子に声をかけた。


「ノブちゃん、そんな顔して何を悩んでいるの?」


「あっ! 

浜田さんおはようございます。ちょうど良かった。実は・・・」


信子は取材で悩んでいることを浜田に伝えた

「ノブちゃん、僕も同じようなことを考えていたんだ。

僕たちの仕事は、最終的に記事にして読者に必要な情報を伝えることだよね。そのためには戦時中の西田議員の話は絶対に必要だし、海外取材は必須だよ。これについてはノブちゃんが行きたいだろうが、時間が無いし、女性の一人取材は、今回については危険すぎると思うので・・・」


「確かに私は行きたいし行くべきなんでしょうが・・・浜田さんにお任せしていいですか?」


「海外取材だから、まず、ウチの会社の経理担当を説得してからの話だけどね・・・それと、もう一つ提案だけど、ウチにあって他社に無い『素晴らしいモノ』って何でしょう?」


「浜田さん、突然の謎かけですか?うーん・・・モノじゃ無いけど・・・答えは心くんでしょう」


「あたり!これまで我々は心さんの特殊能力に色々助けられてきたよね。ましてや今回は心さん自身も当事者だし、色々試してみてもいいんじゃないかと思ったら、面白い事を思いついたんだ」



その「面白い事」は、それから1週間後に実行に移された。


信子は「ちょっと危険じゃないですか」と浜田に言ったが、当の心が

「私の父があまり話してくれそうにないんで、多少危険であっても、いろんな事にチャレンジしたいと思います」と話したので、信子も実施に同意するしかなかった。


その日、心は浜田や信子と共に与党本部の正面入り口にいた。この日は総選挙が終了して初めての国会が開かれるので、ほぼ全員の国会議員が国会に集合する。


浜田の作戦というのは、この日を狙って、心と西田議員の接近遭遇を仕組もうといううもの。これまでも対象との距離が近くなる程、心の特殊な能力が高まることがあったので、今回も、やってみる価値はあると、浜田は説明した。この日を選んだのは、国会開会で取材の記者やカメラマンが多いので心の姿は目立たず、危険も少ないと考えてのことだった。


開会の時間が近づいてきたので議員達が国会に行くために次々と出てきた。概ね、当選回数の少ない議員から先に出てくるので、西田議員は後ろの方である。


「来たぞ」


浜田が小声で心に知らせた。


心と信子は緊張した面持ちで大階段の上の方に視線を移した。


西田議員は派閥の議員数人と談笑しながら階段を降りてきた。顔は笑っているが、その目は鋭く、信子は「蛇のような目」だと思った。


西田議員は玄関を出る前に大勢の記者団を見渡した。信子と浜田は西田議員に気づかれないかヒヤリとしたが、西田議員はそのまま外に出たのでほっと胸を撫で下ろした。


取材が終わると他社の記者やカメラマンは潮が引いたようにいなくなったが、心はその場に立ちつくしたままだった。


「どうしたの?大丈夫?心くん」


すると心は閉じていた目を開いて震えながら言った。


「すみません、信子さん・・・もっとちゃんと見ておけば良かった・・・僕、西田議員を以前にも見ていました。意外なところで・・・」



          (続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ