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第9話 国士の秘密 第5章【挿絵有】

「お父さん!ようやく会えたね。この日が来るのをずーっと待っていたんだよ」


自宅で寝ていた心に、遠くから聞こえてきた声は、心が10歳の時に亡くなった父親、児玉伸二の声だった。伸二は高層マンションの階段から転落して死亡したもので、自殺とされている。


心は、目の前の暗がりに向けて叫んだ。


「お父さん!僕の声が聞こえますか?」


「ああ、良く聞こえるよ・・・お前もお母さんも無事か?」


「はい、お母さんも僕も元気です」


「そうか、それは良かった・・・・」


待望の父親との「対話」であるが、心に緊張は無かった。


「ねえ、お父さん・・・僕は亡くなった人の声を聞くことができるという特種な能力を持っているんだ・・・お父さんにも呼びかけていたんだけど・・・」


「ああ・・・お前が私を呼んでいるのは知っていた」


「えっ!?・・・じゃあ、どうして応えてくれなかったの?」


「それはお前達の安全を考えたからだ・・・お前が私の死の真相を突き止めるために、あの人に近づくのは、とても危ない。あの人は人を殺すことを何とも思っていない人だ。だから、このまま私が自殺だということで終われば、お前たちに危害が及ぶことは無い・・・お前が追及を諦めてくれる事を願って、これまで黙っていたんだが・・・」


父親の話をじっと聴いていた心は、父親に訴えた。


「僕達の安全を考えて、沈黙を守ったお父さんの気持ちはよく分かります。ありがとう・・・でも、あの人の悪事を見過す訳にはいかないんじゃない?」


「それはそうだが・・・あの人は本当に危険な人なんだ。何の関係も無いお前たちを巻き込んで、万が一のことがあったらと思うと・・・お父さんとしては、できればここでやめて欲しいんだ」


「お父さん・・・亡くなる少し前、小学生の僕に『特攻』について話してくれたことがあったよね。『特攻という戦い方は間違っているのでは?』って・・・」


「ああ、特攻隊員や指揮官、整備などの基地関係者、それに事情を知っている国民の中には、そう考える人もかなりいたが、当時はそう思っても誰も声を上げることはできなかった。これからの日本では、間違っていることは、間違っていると、ちゃんと言えるようでなければならない・・・今でもそう思っているよ」


「今回のことも、大変危険だけど、見て見ぬ振りすることはできないんじゃないの?」


「お前の言うことは正しい。しかし、命は一つしかない。お母さんと、もう一度話し合って欲しい」


そう言うと伸二は一方的に通信を切るような形で姿が消えていった。


「お父さん待って!まだ聞きたいことがいっぱいあるんだ」


その後いくら心が呼びかけても、伸二から返事は無かった。  



聞きたいことは、ほとんど聞けなかったが、待ちに待った父親の声。

心は寝ていた母親の岬を起こして伝えた。


「えっ!今だったの・・・お父さんと・・・心、よかったね!」


岬も心がその特殊な能力で亡くなった父親と「交信」が出来た事を一緒になって喜んだ。


「心・・・お父さんの声、どうだった?」


「10年前と変わらなかったよ」


「本当に良かったね!お母さんも嬉しいよ・・・でも・・・正直に言うと、お母さんは亡くなったお父さんと今でも話ができる心が羨ましい。」

「お母さん・・・」

「次はその場に立ち会いたい・・・機会があったらお願いね」

「うん、今回は時間が無くてごめんなさい。お母さんもお父さんの声を聞きたいよね。どうしたらいいか考えてみるよ」



朝が来るのを待って、心は○○新聞S支局に行った。


「心くん、やったね!」

事前に電話で連絡したので、支局の前で信子が待っていた。


「心くん、いつもお父さんの声を聞きたいと言ってたものね。よかった!よかった!」


「でも、ほとんど何も聞けなかったんですが」

そう言って心が申し訳無さそうにしていたので、信子が励ました。


「まず第一歩だよ。一歩ずつ進んで目的達成すればいいんだと思うよ」



挿絵(By みてみん)



2人は支局に入り今後の進め方を話し合った。


亡くなった父親・伸二が話したことを、心が説明し、これに信子が答えた。


「記者の立場から言うと、お父さんやご家族を説得して了解を得られた上で取材を進めると言うことになると思います。しかし、今回、取材に反対しているのが最大の被害者であるお父さんであることから、もしご家族も取材に反対であるなら、取材を続けることは難しいと考えます。ですから、まずはご家族の意見を聞く必要があると思います」


「そうですね」


山元支局長をはじめ出席者全員が同意した。


信子が心に聞いた。


「心くん、ご家族としてはどうですか?」


「母は私に言いました。

『大切な家族が誰に殺されたのか、ほぼ明らかになった今、私たちが危険を恐れて追及をやめると言うことは、これから常に怯えて暮らしていくと言うこと。そんなのは、私は嫌よ。戦うしか無いでしょう』

私は母と同意見です。」


最後に信子が締めた。

「心さんのお父さんは一人で悩んで沈黙という結論を出さざるを得なかったのだろうと、私は考えます。しかし今、私達には大勢の仲間がいます。みんなで力を合わせて、新たな犠牲者を一人も出さずに戦いに勝利しましょう!」


それぞれの記者の意気は高まってきたが、


ここまできて、信子はある思いが強くなってきた。



そのためにはまだまだ、取材が足りない!



(続く)                                       

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