表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/72

遺第1話 あなたに逢いたくて 第7章

信子はなんでも知っているような素振りでさらに質問した。

「最近、緒方さんは吉岡さんと会っていますよね」

「なんでもお見通しなんですね・・・。そうですね、電話が来た翌日は日曜日で、彼女が私のアパートに来ました。2人でいろいろ話しました。彼女は『あなたに裏切られるとは思わなかった』といって私を責め、私は『黒田さんと付き合い始めたのはあなたがⅯ銀行を辞めたあとで、裏切ってはいない』と言って謝りました。彼女は『黒田さんのことを好きになろうと頑張ってみたけれど、頑張れば頑張るほど自分の気持ちに嘘をついていることが分かった。そして一番大事な人はあなただと分かった。あなたとよりを戻したいと思ったが、そんな虫のいい話はないし、あなたも異性との結婚を考えていないわけではないことを知っている。だから、あなたの前から姿を消した。でも今でも気持ちは変わらない』などと話しました。私も彼女のことが今でも好きで以前の関係に戻りたいと言いました。そして、ベッドに入り久しぶりに愛し合いました」

 

「夕方になって彼女は黒田さんとも話してくると言ってアパートを出ました。」

「その後、吉岡さんとは会いましたか?」

「いえ、それっきりです。」

信子はさらに黒田についても聞いた。

「そのお・・・黒田さんはあなたと由希恵さんの関係を知っているのですか」

「はっきりは分かりませんが、少なくとも私は話していません。多分、彼女も話していないと思います。私も彼女も自分がほかの人と性的に違うことで、いろいろ悩み苦しんできました。人生もそろそろ半分に近くなってきて残りの半生を考えたら、彼女が自分の心にふたをして異性と結婚しようとした気持ちもわかります。自分の子どもも欲しいですしね」

「ですから、まったくこのことを知らない黒田さんに秘密を打ち明ける必要はないと思っています。このことは簡単に話せるようなことではないと思います」

最後に信子が聞いた。

「警察は吉岡さんの死について事故、自殺、事件の可能性も含めて捜査すると言っているんですが、緒方さんはこの件について、どう考えますか?」

「全く分かりません。彼女は聡明な人でしたから、自殺は無いと思いたいんですが、最後に会った時、とても心が乱れていて彼女らしくないなと感じたのも事実です。今考えれば、あの時、黒田さんのところへ行かせなければ、私のところに引き留めれば、彼女を助けることが出来たのかもしれません。なぜそうしなかったんだろう」

緒方はそう言うと耐えきれなくなりテーブルに突っ伏して慟哭した。

緒方が落ち着いてきたところで、信子は黒田からも直接話を聞きたいので、連絡を取ってほしいと頼んだ。

黒田とは緒方のアパートで夕方から会うことになった。


アパートのドアを開けるなり、

「ひかりちゃん、大丈夫か?色々聞かれて大変だったんじゃないの」と気遣ったあと、信子に対して「君もしつこいなあ。僕もひかりも大切な友人を亡くして深い悲しみに包まれているんだ。どうか、そっとしておいてくれないか」と強い口調で言った。

「そうですね、お二人の気持ちは分かります」

信子は黒田の目をまっすぐに見て理解を求めた。

「でも亡くなった由希恵さんがなぜ死ななけければならなかったのか、その真実を私は知りたいのです。。そして、その真実がほかの人たちに伝えるべきものであれば記事にしますし、そうでなければ記事にしません。真実に近づくにはまずはできるだけ多くの人たちから話を聞いたり証言してもらうことが必要です。いくつか質問したいのですが協力してもらえませんでしょうか」


黒田は渋々ではあったが質問に答えることを了解した。

「まず、プライバシーに関わることかもしれませんが、できれば答えてください。あなたと由希恵さんはなぜ別れたのですか?」

「僕にも全く分かりません。僕は彼女の竹を割ったような性格が好きで付き合ってほしいと何度もアプローチしたのですがことごとく断られました。さすがの僕も諦めようとしたとき、急にOKが出たんです。それから順調にいっていたので、結婚の準備も始めていたんですけど、突然、『分かれよう』と言い出して・・・」

「由希恵さんは別れる理由を言わなかったんですか」

「僕も『なぜ?』と聞いたんですが、『あなたには本当に申し訳ないと思っている。でも、やはりあなたとは結婚できない。ごめんなさい』というだけで何も話してくれないんです。」

「そして最後に会ったのは由希恵さんが亡くなる前ですね」

「そうです」

「その時の由希恵さんは、どんな様子でした」

「そうですね、今考えれば彼女はすっかり変わっていましたね。何事にも自信を持って明快な判断を下す、そんな方なんですが、その日の彼女は考えがまとまらずどうしていいか分からないといった感じで、僕もびっくりしたんです」

信子はさらに聞いた。

「今一つ分からないんですが、由希恵さんが刃物を取り出して黒田さんと緒方さんとの結婚を辞めるように迫ったと警察発表にあったんですが。本当ですか」

「確かに、彼女はそのようなことを言って刃物を取り出したんですけど、本当に私を刺そうという意思があったかどうかは分かりません。彼女は刃物を手にしたものの、どうしていいか分からないといった感じで動揺しているようでした。ですから、このままだと彼女が自分自身を傷つけるのではないかと思って、刃物を取り上げたんです」

「そうだったんですか。警察の発表は簡単すぎたんでよく分からなかったんですが、今、黒田さんのお話を聞いてよく分かりました」


関係者の話を総合すると、現時点では「自殺」の線が強いと思わざるを得ないと信子は考えた。

ただ、黒田と別れた後、由希恵が自殺に至るまでの気持ちの変化とどこをさまよっていたのかは全く分からない。

信子はそれを是非とも知りたいと思った。


取材を受けてくれた黒田と緒方にお礼を言って別れたが、信子は「2人はこれからどのような選択をするのだろうか」と気になった。

でも、それは2人の問題である、「どの道を選んだとしても、できれば幸せになってほしい」と信子は思った。

                       (つづく)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ