第9話 国士の秘密 第2章
ヤクザの山口が持ってきた録音テープ2本を聴いた。
「センセイ、まだやばいことをやっているんですか?あの国で戦時中にやったようなこと、いい加減やめないと身を滅ぼしますぜ」
○○新聞S支局で録音テープを聴いたのは山元支局長、信子、青木、それに心の4人だ。
頼りになる先輩記者、浜田はこの春、東京本社の政治部に異動になっていた。
信子が心に聞いた。
「心くん、これから聴く内容は亡くなったお父さんについて話しているんだけど、中には聞きたくないような部分もあると思うの。心くん、本当に大丈夫?」
「・・・はい。途中で破棄されずに信子さんの手元に届いた、こんな貴重なテープを聞かないはずはないでしょう。早く聴きましょう」
と言ったものの、父親の死に直接絡んでいる者たちの話だけに心はかなり緊張して聴いていた。
録音テープに添えられた封筒入りの説明書によると、話しているのは、関東地区の暴力団の幹部と「センセイ」と呼ばれる男性で、暴力団側が後日厄介なことになった時の保険として、隠し録りしたものだとされている。
2人は旧知の間柄らしく、テープの1本目は戦時中の日本の占領地での話だった。
「『センセイ』はじゃまな現地人だと判断すれば、すぐに我々『実行班』に『殺せ』と命令するから忙しかったですぜ」
「相手はほぼ無抵抗だったから簡単だったろう・・・総督府としても、我々が反対分子を一掃したから、やりやすかったと思うよ。あれもこれもオクニのために急がなきゃいけなかったんだよ」
戦時中、日本が占領した地域では、日本軍や警察が反乱を鎮圧し、大勢の現地人を殺害したが、『センセイ』が率いる総督府の『実行班』も現地に入っていたヤクザ者などを使って、反乱の要となる現地人を次々と殺害していったのだろう。
「でも、『センセイ』、一家全員、ジジイやババアから小さな子供までというのは、実際に手を下す、こちらも辛かったですぜ」
「他への見せしめとしては、一番効果的なんだよ・・・」
「それにしても多勢やりましたね。200人ぐらいですか?」
「そんな多くはないよ・・・数えてはいないけど120人ぐらいかな・・・」
2人の話は戦時中の話とはいえ、おぞましい内容で、聴いている信子たちも耳を塞ぎたくなるような内容だった。
「センセイ」が誰なのか録音テープの中には出てこないが、一緒に添えてある封筒入りの説明書には衆議院議員の西田英三郎議員であると記されている。
録音テープの2本目が、「センセイ」からの新たな「仕事」の依頼だった。
「・・・それでな、お前に頼みたい事があるんだ」
「『センセイ』・・・それはヤバい仕事ですかい?」
「お前に頼むんだからな・・・やってくれるか?」
「『センセイ』からのご依頼を断ることはできんでしょう・・・でも出来ればこれっ限りに・・・」
「お前が俺に指図するのか?」
「いえ・・・」
「うちの秘書の一人なんだが・・・これがその秘書の写真だ。名前と住所も書いてある」
「この秘書さんが何かしたんですかい?」
「こいつが私の秘密を知ってしまってな。秘書を辞めると言っているんだ。辞めさせていいんだが、辞めた後、秘密を暴露されると私は終わりだ。なんとか出来ないか」
「へえ〜秘密ってあの件ですか?・・・」
「そんなこと、お前は知らなくていい。やるのか?やらないのか?」
「分かりました。事故か自殺に見せかけてやりましょうかね」
テープに添えられた説明書によると、議員から依頼されて殺害した相手は、秘書の児玉伸二、心の父親である。
テープを聞いているうちに、心の様子がおかしくなったのに信子が気づいた。
「心くん大丈夫?心くんにはつらい内容だったわね」
「・・・大丈夫です。録音の中で父の名前は出ませんでしたが僕には感じられるんです。父のことを話していると・・・でも、一つわからない事があるんです」
「何?」
「これまでだと、亡くなった父の声や映像のようなものが感じられるんですが、今回はそれがないんです。僕の父なんだから強く感じてもいいのに・・・」
心が不思議な能力を得てから一番聞きたい父親の声が聞こえない。
「僕の力が弱くなったのだろうか・・・?」
(つづく)




