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第7話 海から来た悪魔 第3章

車内で男女が焼死した現場は、S市で建設中の住宅団地の一角の道路上である。


まだ全体の半分くらいしか住宅は建っておらず、現場付近には住宅はないため、他人に知られたくない訳ありのカップルが密かに会うには最適の場所だった。


ここで2人はどんな話をしていたのか。


2人とも死亡しているので、他人には知り得ない話だが、そこで威力を発揮するのが、死者の声や死の瞬間に死者が見たり回想した映像を感じることができるという心の不思議な能力である。


もちろん、その内容は裁判の証拠などにはならないものだが、取材や捜査の糸口を掴むことができる優れた「武器」になると信子は考えている。 

 

「心くん、頑張ってね」


今回、初めて心の調査に立ち会った地元テレビ局のアナウンサー、前屋敷みなみが心に励ましの言葉を送った。


心は照れくさそうに微笑んだ。


事件現場までおよそ50メートルのところまできた。これまで心が経験した事件では、現場から発せられる死者の怨念のようなものが、現場に近づくにつれて強く感じられたのだが、今回はなかなか感じられないらしい。


心は不思議そうに首を振りながら歩いている。


「ダメだ、どうしてだろう・・・」

焦る心の声が聞こえる。



しばらく付近を歩き回って心が信子のところに帰ってきた。


「ごめんなさい、信子さん。声らしいのは聞こえるんですが、あまりにも小さ過ぎて聞き取れません。映像もダメです」


「今回は事件から1年も経っているから難しかったかもしれないね・・・そうだ!心くん、こっちに来て。ここに焼けた車があったんだよ」


そう言って信子が道路脇の一角を指差した。


それを聞いた心は、その場所に駆け寄った。


しばらく耳を済ました後、心が呟いた。


「さっきよりは聞こえます。その車ってどんな車なんですか?」


信子は肩から下げたバッグから数枚の写真を出して

「ここに当時私がとった車の写真があるんだけど・・・」

「見せてください」

「私も!」

「二人ともちょっと待って。これを見る前に注意事項があるの・・・このうちの1枚に亡くなった2人の遺体が写っているの」


写真を覗き込んだみなみは

「本当だわ・・・運転席と助手席に一人ずつ座っているのが、頭の上の部分だけだけど白く写っている」


「撮影した時には分からなかったんだけど、現像してみたら焼けて骨が露出した頭部がフラッシュの光を受けて白く写っていたの。この写真は新聞には掲載していないんだけどね」


心は信子から写真を受け取り、食い入るように見ていた・・・そして

「写真を見て更に声が聞きやすくなった気がします!でも、正確に聞き取れない・・・ あと少しなんですが・・・」


すると信子が叫んだ。


「車は証拠品として警察署に保管されているはずよ! 今から見に行こう」



その車は警察署の倉庫の隅にブルーシートをかけられて静かに眠っていた。


ブルーシートの隙間から見える車体は、事件から1年という年月を物語るように赤茶色に錆びており、この中で2人が死亡したと思って見ると、信子はなんとも言えない重苦しい感情に襲われた。


すると、急に心が不思議そうな様子で話しだした。


「ああっ!声が聞こえてきました!映像も・・・でも、これはどういうことだろう?」


「どうしたの?何が見えたの?」


「それが、なぜか海が見えたんです」


(つづく)


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