第5話 同級生を助けて! 第6章
殺人事件の現場近くの道路では関係者が見たらびっくりする光景が見られた。
タクシーが3台、次々に到着し、中から警察幹部と報道関係者合わせて十数人が次々と降
り立ち現場に急ぐ姿が見られたのだ。警察と報道が一緒に事件現場に行くということは、
まずありえないこと。しかし、今回は二次会に向かう途中で一緒にタクシーに乗っていた
という事情があり、やむを得ず「呉越同舟」となったのだ。
タクシーを降りた信子は必死になって走った。当然のことながら、警察幹部は現場に入れ
たが、信子ら報道関係者は、現場のキャバレーから50メートルほど手前に設置された立ち
入り禁止の防止策の前で止められた。
早く知りたいのは、男に刺されて死亡したホステスの身元だ。信子は近くにいた野次馬に
手当たり次第に聞いて回った。
「犠牲者の姿を見ました?」
「いや、今来たばかりなんで・・・」
「犠牲者を見ましたか?」
「ここに来た時、ちょうど救急車が出るとこだったけど、どんな人が運ばれたかは見てな
いな」
「ホステスさんが刺されたって聞いたけどな」
「刺されたのはどんな人ですか? 年齢はいくつぐらい?」
「そこまでは聞いてないな」
信子が必死になって聞きまわっていると、後ろから声をかけられた。
「ちょっと、記者さん、ちょっと」
振り返ると、ホステスとおぼしき30代のドレス姿の女性が立っていた。
「間違っていたらごめんなさい。あなた、美知子さんのお友達じゃない?」
「はい、そうですけど・・・」
女性はキャバレー○○で10年ぶりに美知子に出会ったときに、同じテーブルで接客してくれ
たホステスだった。
「刺されたのが誰か、知っています?」
「ええ」
「まさか・・・」
信子は完全に動揺していた。
ホステスは
「ちょっと、ちょっと、落ち着いて! あなた、美知子さんが刺されたと思っていたの。安
心して、刺されたのは美知子さんじゃないよ」
「本当ですか・・・良かった」
信子は胸をなでおろした。
「でも・・・」
ホステスは言った。
「刺された人はあなたも覚えているかもしれないけど、ベテランのホステスさんがいたで
しょう。刺されたのはあの人らしいわよ」
「そうですか、なんであのホステスさんが殺されなければならないんでしょう・・・・」
信子がそう言うと、いろいろ教えてくれたホステスの目から大粒の涙がこぼれた。
「やっぱり、助からなかったのね・・・。救急車で運ばれたので命は助かるんじゃないか
と・・・。可哀そう、可哀そうに・・・」
ホステスは号泣した。
信子はそのホステスの肩にそっと手を置いて慰めた。
警察の発表によると、殺人容疑で逮捕されたのは、住所、職業不定の30歳の男、死亡した
のは、キャバレー○○のホステスの47歳の女性だった。
容疑者の男は3年ほど前から、同じキャバレーで働いていたが、2年ほど前から関係が密
接になりホステスのマンションで一緒に住むようになった。その後、男はキャバレーを辞
めて働かなくなり、いわゆる「ヒモ」の状態になった。しかし、半年ぐらい前から、男が
別れたいと言い始めて、喧嘩が絶えなかったという。逮捕された男は女性から「別れるな
ら、これまでにあなたにあげた金を全部返して」としつこく言われて、かっとなって刺し
た」と話しているらしい。
「みっちゃんはどうしているだろう?」
身近で殺人事件が発生して、ショックを受けているだろうと思い、美知子から教えてもら
った自宅の電話番号に何度かかけてみたが、誰もでなかった。
殺人事件そのものは特異な内容は無く、容疑者も逮捕されているので、2~3日は大きな
進展は無かった。信子は事件を担当している○○警察署の刑事課に、その後の捜査の状況を
聞きに行った。
信子が刑事課の部屋に入った時に、ちょうど取調室から一人出て来るのが見えた。
容疑者の逃走防止用の腰縄を付けられた女性だ。
取り調べが終って留置場に行くんだろうなと思って、女性の顔を見た信子は、予想もして
いなかった女性の姿に絶句して立ちすくんだ。
美知子だった。
美知子も信子に気付き立ち止まったが、すぐにうつむき、警察官に促されて部屋を出て行
った。
「みっちゃん、どうしたの? なにをしたの?」
(つづく)