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同級生を助けて! 第5章

美知子と会うことにしたのは、S市のホテルのレストラン。


ところが時間になっても、美知子は現れない。待ち合わせの時間か場所を間違ったかもしれないと思って信子がヤキモキしている中、美知子は15分遅れて到着した。


「ごめん、またせてしまって」

「いやーそうでもないよ」


「私ね、きょう何を着て行こうかと思ってクローゼットを開いてみたら、仕事用の服とか普段着ばかりで、レストランに着て行くような綺麗目な服が一着も無かったの。思い返せば、私は家を出てから母や妹達のために稼がなきゃと思って一人で頑張ってきて、自分のためにはお金をあまり使ってこなかったから・・・この服もさっき買ったばかり、それでちょっと遅れちゃった・・・ごめんね」


「いいよいいよ。どの服にしようか迷うこと、私もあるよ」


信子は先日、美知子の実家を訪れたとき、美知子の母親が『毎月仕送りをしてもらって本当に助かっているけど、あの子無理していないかな』と話していたのを思い出した。

自分より周りの人たちのことを先に考える、美知子は昔から、そういう思いやりのある優しい子だった。


2人はディナーを楽しみながら、小学生時代の楽しかった思い出やそれぞれの家族の話など、なるべく明るい話題を取り上げ楽しく語らった。


メインディッシュも終わったところで、美知子は急に真面目な顔になり、キャバレーで10年ぶりに出会った日のことを話し始めた。


「ノブちゃん、あの日は本当にごめんなさい。ノブちゃんたち記者の方々は、県警本部の部長さんなど偉い方々と一緒に店にこられて、ほぼ同等にお話をされていた。ノブちゃんも『立派になったんだな』と思って感心したんだけど、それに比べて、ホステスをしている自分の姿が急にみじめに思えてしまったの。ノブちゃんが店の前で待っててくれているのは分かってたんだけど、裏口から帰ってしまった・・・。本当にごめんなさい」


「みっちゃん、そんなこと気にしなくていいよ。私たちが立派に見えるとしたら、それは新聞社とかテレビ局といった会社がバックにあるからだと思うよ。第一、みっちゃんだって、仕事を一生懸命やって、たくさん稼いで、家族を支えているじゃない。立派だよ。仕事とか関係なく、私たち友達じゃない」

「うん、そんなに言ってくれて、ありがとう」


「私の方こそ、小学校の卒業式が終って引っ越すときに、みっちゃんと会う約束をすっぽかしたことが、ずっと気になっていたんだけど・・・みっちゃんに謝らなければと思っていながら、きょうになってしまいました。ごめんなさい」

「そんなことは気にしなくてよかったのに・・・・・それぞれの家庭にはそれぞれの事情があるからね」


当時のことを思い出したのか、美知子の目に涙が浮かんだ。


「あの時、みっちゃんのお家、大変だったんでしょう? お母さんが話してくれたよ」


「ああ、お父さんのこと?・・・私、お父さんが大好きだったの。両親がうまくいっていないことは子供の私も感じていたんだけど、お父さんは子供たちには優しくて、よく遊んでくれたから・・・・・でもお父さんは離婚して家を出て行った。私たちを残して・・・お父さんに捨てられたのだ、そう感じて、ショックだった」


「そうね、それはとても辛かっただろうね」


「でもね、ノブちゃん、それから10年たって、今、私はお父さんを恨んではいないの。誰だってその人にはそれぞれに悩みがあり、後悔もあるでしょう。でも過去にとらわれていたら幸せはやってこない。お父さんはいなくても私たち親子4人の生活はそれなりに幸せだった。お父さんも再婚して幸せな家庭を築いていると思いたい。過去はともかく、今が幸せなら、それでいいと思っているの」


「みっちゃん、えらいなあ。私だったらお父さんを恨み続けるかもしれないよ」


しばらく沈黙した後、美知子が口を開いた。


「私は本当にノブちゃんに感謝しているんだ。小学校の2年間一緒に遊んだ同級生というだけで、ノブちゃんは私のことを気にかけてくれていた。そんなことなかなか無いから」


「私はみっちゃんのこと大事な友達だと思っているよ」


「ありがとう、ノブちゃん。お願い・・・もう一度親友になれるかな?」


「もちろん、みっちゃんとは、今までも、これからも親友だよ」


その言葉を聞いた美知子は信子の手を取り

「ありがとう」

と微笑んだ。


レストランを出るとまだ11月というのに、クリスマスの飾りつけをホテルのスタッフが行なっていた。


「そういえば体調をくずしていたそうだけど・・・」

信子が気遣うと、美知子は

「もう大丈夫。先週からお店にも出ているのよ。今年中にはもう1回会おうね」 

そう言って帰って行った。




それから2週間ほどたって12月も近くなり、街は忘年会のシーズンを迎えていた。

県警本部の忘年会に出席した信子は一次会が終り、島崎刑事部長や数社の記者らと二次会の会場に行くため、タクシーを待っていた。

タクシーに乗り込んで出ようとたときに広報官が走ってきて島崎刑事部長に耳打ちした。島崎刑事部長は一瞬、困ったなという表情をしたが、タクシーを待っていた記者らを集めて”異例”の記者発表を行った。


「えー私は二次会にいけなくなりました。記者発表は記者クラブを通して行うルールですが、ここにいらっしゃる記者の皆さんに私が嘘を言う訳に行きませんので、皆さんに対しては、今、ここで発表します」


「本日、S市内で殺人事件が発生しました。現場はS市○○町のキャバレー○○」


「あのキャバレーだ!」

信子はいやな予感がした。


「本日午後8時10分ごろ、男性が同店のホステス1名をサバイバルナイフ様の刃物で刺して逃走。ホステスの女性は心肺停止状態で救急搬送されたが午後8時50分死亡確認。氏名などは確認中。なお、逃走した男性とみられる人物は近くの路上で警察官により捕捉されている。以上」


「まさか、みっちゃんでは・・・」

信子が放心していると


「小田さん!早く乗って!現場に行くよ!」

と、島崎刑事部長に肩を叩かれハッと我に戻った。


信子は島崎刑事部長が乗ったタクシーに同乗させてもらい現場に急いだ。


            (つづく)

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