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第5話 同級生を助けて! 第1章

「同級生」


その言葉には不思議な響きがある。


その言葉をきくと自分が今より若く未熟なときに感じた、楽しい気持ち、嬉しい気持ち、寂しい気持ち、悲しい気持ちが瞬時に蘇る。

それを懐かしく思う人がいる一方、苦々しく思う人もいる。


同窓会を計画し旧交を温める人もいれば、誘われて出席し友人の変わりように驚く人、自分と比べて成功している友人に複雑な気持ちとなる人、しぶしぶ出席したものの雰囲気に違和感を感じて次は欠席しようと思っている人、そもそも同窓会なんて出席しないと最初から決めている人、そして出たくても事情があって出られない人……


「同級生」の卒業後の人生はさまざまである。



○○新聞のS支局で社会部記者として頑張っている小田信子おだのぶこが、その「同級生」と出会ったのは意外な場所だった。


信子が新人記者としてS支局に赴任した1970年代末のころ、警察や海上保安庁、自衛隊、県や市などの自治体といった報道機関の取材を受けることが多いお役所では、新しい年度が始まる4月に報道機関との懇親会を開くところが多かった。


お役所側も報道機関側も人事の入れ替えが

ある時期なので、お互いに仕事をスムーズに進めるために行われるものだが、日本独自の記者クラブ制度に批判的な意見を持つ人たちからは癒着ではないかと指摘されてもいた。


当時女性の記者は珍しかったので、新人記者としてS支局に来た信子はあちこちの懇親会から引っ張りだこだった。


S県の県警本部の幹部と記者クラブとの新年度懇親会は盛大に開かれた。県警本部は最大の取材先ともいえるので、唯一の女性記者である信子は出席しないわけにいかない。もちろん信子は警察関係者と一緒の飲み会は初めてである。


県警側は本部長をはじめ刑事部長や交通部長、警備部長など幹部が勢ぞろい、懇親会は本部長のあいさつや記者クラブ幹事社のあいさつなどお決まりのセレモニーが終り、乾杯をして始まった。

しばらくしたら新たに赴任した記者の自己紹介が始まった。


信子は一番最後だった。


「皆さんこんばんは。○○新聞社S支局に参りました小田信子です。今年入社したばかりの新人です。今後、女性の記者も増えてくると思いますので、今後の女性記者のためにも恥ずかしくない仕事をしたいと思っています。どうぞよろしくお願いします」

と、手短にあいさつした。


すると、会場から誰かが大声を上げて質問した。

「小田さん! お父さんのお仕事は何ですか?」


どうやらS支局のベテラン記者、浜田公平はまだこうへいの仕業のようだ。


「えーっと、今質問したのは私の同僚のようですが…父と私は別の人格ですから、この場で言うことは避けていたんですが…父は警察官です」


信子がそう言った途端、会場は「わーっ」と沸いた。


信子の一言で会場の県警幹部は信子を自分たちの仲間と認めたかのような反応だった。信子はこれを避けたかったのだ。自席に戻った信子は浜田の方を向いて

「浜田さん!…もう…」と言うと、浜田は

「ごめん、ごめん…でも、これで君の名前を県警幹部全員が覚えたよ」と笑いながら話した。


確かにその後、ほとんどの県警幹部が信子のところにお酒の徳利をもって訪れるという人気ぶりだった。


幹部たちは自分の子どもぐらいの年齢の信子に酒を勧め、にこやかに話しかけた。信子は必死になって酒を飲み応対したが、そのうちに気付いた。


よく観察していると、幹部らはほとんど飲んでいなかった。幹部らはまるで酒に酔っているように演技しながら酒を勧め、冷静に信子のことを観察している、そんな感じだった。


信子は和やかな懇親会で警察官の鋭さを感じていた。


一次会が終り、信子は他の記者らと一緒に二次会に誘われた。メンバーで女性は信子だけである。

二次会の会場は老舗のキャバレーだった。このキャバレーは誰でも知っている有名な芸能人が駆け出しのころ出演していたとして知られている店だが、女性客はほとんどいない。信子は帰ろうとしたが、県警幹部らに熱心に進められて、しぶしぶ店内に入った。


老舗の店らしく、ホステスの年齢もそれなりに高そうだった。しばらくすると、この店のナンバーワンと思しき若いホステスが現れ、刑事部長の横に座った。

信子はそのホステスと目が合った。


その女性は、小学校6年生の時に隣の席だった仲良しの「同級生」だった。


           (つづく)

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