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第4話 パラダイス島のヤクザ 第7章

「おはよう!信子さん」


二日酔いの信子には信じられないほど、爽やかな笑顔の山口がホテルのフロントの近くに立っていた。


「山口さん!何でここにいるの? お墓参りは現地集合って…」


「それは分かっていたんですが、きのうは信子さん、かなり飲んでいたんでレンタカーは運転できないだろうと思って、お迎えに来ました。もちろん運転は他の者にさせます」


「でもねえ」

信子は断ろうとした。

しかし、「父親の命の恩人の友人と分かったからには、これ以上ひどいことはしないだろう」と思い直して、山口の好意に甘えることにした。


墓地までの車の中で山口は饒舌だった。

「信子さんは岬さんのお友達だったんですね。昨夜は遅くまで事務所に引き留めて済みませんでした」

「私も山口さんのお父さんと、岬さんの間にそんなドラマがあったなんて、びっくりしました。でも、私は岬さんのお友達と言うより、仕事の上で、息子の心さんにいろいろ協力してもらっているんです」


そう言って、信子はこれまでことを山口に説明した。心の不思議な能力の話を聞いたときに、ほとんどの人は「分からない」といった困惑した表情を見せるが、意外なことに山口は真剣に信子の話を聞いていた。


「Y島には宗教的な行事を行う女性は昔からいるし、霊的な話を聞いたことはあります。でも、男性でそのような話は聞かないですね。でも、そういう能力が本当にあったらいいですね」

山口はそう言って、車の窓から遠くの景色に目をやった。


ヤクザの仲間の中では強面(こわもて)の彼は、意外と寂しがりやで、打ち解けて話ができる相手を求めているように信子は感じた。


「信子さん、実は亡くなった父とはここ10数年ほとんど話をしていなかったんです」

「えっ、そうなんですか」信子は聞き返した。

「母が亡くなったのは、自分が高校1年生のときだったんですが、母はヤクザから殺されたんです」

「ええっ!」意外な話に信子は思わず声を上げた。


「そのころ、Y島には中央のヤクザ組織の流れをくむグループが入り込もうとして親父らの地元のヤクザとにらみ合いが続いていたんですが、相手グループの過激な連中が地元のヤクザ事務所を銃撃したんです。深夜、誰もいない時間を見計らって、脅しのつもりで10数発撃ち込んだらしいんですが、運悪くたまたま事務所に物を取りにいった母に当たり即死でした」

「そうだったんですか。可哀そうに…」


「当然、弔い合戦だとして親父らが仕返しの準備をしているところにストップがかかったんです」


「S県のヤクザ組織は中央のどの組織にも入っていない独自の組織だったんですが、ここで中央の大きな組織と本格的に事を構えるとつぶされる恐れがあり、一方の中央の組織も全国の覇権を争って抗争中で、地方のトラブルに手を出す余裕はなかったんです。それで手打ちが行われて、母の件はうやむやに…」


「お父さんはそれじゃ済まなかったでしょう」


「そりゃそうです。父は親分に直接訴えたんですが親分の決定は絶対です。これ以上頑張っても他の仲間に迷惑がかかるとして諦め

『俺はもう辞めた!』と言ってヤクザを辞めてしまったんです。


母の件があったんで誰も父には何も言わなかったそうです。


でも、高校1年生だった僕は『お父さんのせいでお母さんは死んだ』と言って家を出たんです」

ここまで話したところで墓地に着いた。


墓地は大海原を見下ろせる景色のいいところにあった。


心と岬はすでに着いていたが、山口の車から信子が降りてきたのに驚いていた。


それを察した山口がすかさず

「みなさん、この光景を見て誤解されるといけませんので説明させてください。私がきのう無理にお酒を飲ませたので信子さんは二日酔いで運転できません。せめてもの罪ほろぼしで、けさホテルにお迎えに行き、こちらからお願いして乗ってもらいました。それだけですので誤解のないように…」

「その通りです。びっくりさせて済みません」

信子もペコリと頭を下げて謝った。


心は不機嫌そうな顔で山口をにらんでいた。  


「信子さん、山口さんは本当はいい人かもしれませんが、ヤクザなのも事実です。市民の味方の新聞記者が市民の敵のヤクザと親しそうにしているのはいいのかな?」


「ごめん、心さん、気を付けるよ。でも、きのうの夜助けに来てくれてありがとう。嬉しかったよ」

その言葉を聞いて心の機嫌もよくなった。


山口の両親が眠る墓はきれいに手入れされており、全員で線香をあげて手を合わせた。


「じゃあ、父さん、母さん、また来るな」

山口が墓に語り掛けて帰ろうとしたとき


「みんな!ちょっと待って!」

心が叫んだ。

「誰かの声が聞こえる!」


       (つづく)


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