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まるで戦場のよう 第6章

4年前の大量殺害事件で最愛の妻を殺された道岡光男が、信子たちの○○新聞社のS支局を訪れた。


今回のダンプカー暴走殺人事件で信子らが容疑者とみている人物だ。

支局の人間は全員が光男の顔を知っている。

その時に支局にいたのは、山元支局長と信子だけだった。


その光男が支局に入ってきた。

「こんにちは。こちらは○〇新聞の支局ですよね」

「あ、あなたは道岡さん!」


「やはり、私の名前をご存じでしたか」


山元と信子は身構えた。

「何しに来たんですか?!」

信子は叫んだ。


なんといっても、この支局の入り口付近に乗用車を激突させ、信子を殺そうとした人間である。その人物が目の前に現れたのだ。


信子は一瞬、死を覚悟した。


「どうされたのですか? 私は何もしませんよ」


「何もしませんって! だってその入り口のドアだってあなたが…」

光男は入り口の状況を見て

「そういえば大変なことになっていますね。これを私が?」

「そうですよ!! あなたは自分のしたことが分かってないんですか?」

信子が聞いた。


光男は

「ああ、そうか…」

そう言ってしばらく考えた後

「実は私、自分のしたことを覚えていないようなんです…」


光男の様子をみると、とりあえず危険はなさそうなので話を聞くことになった。

浜田も連絡を受けて支局に戻り、一緒に話を聞いた。


「ご存じだと思いますが、私は4年前の12月にO 町で発生した6人殺害事件で殺害された道岡寛子の夫の光男です。寛子はたまたま井田家の殺人現場に居合わせたために殺されたんです。何も悪いことをしていないのに…」

光男は声を詰まらせた。


「道岡さん、すみませんが、なぜそのような4年も前の話を我々にされるんですか?」

信子が声をかけると、光男は再び話し始めた。


「そうですね。突然こんな話をしてすみませんでした。私は何も知らないということを、あなたたちにお伝えしたくて来たんです。実はきのう刑事の方が2人私の家に来られて、いろいろ話を聞かれたんです。刑事さんの態度から私が何らかの事件の容疑者であると疑われていることは、すぐに分かりました。ダンプカーが暴走して4人が亡くなった事件の現場に私がいたというんです。それをお宅の記者の方から聞いたと…」


浜田は驚いて聞き返した。

「刑事がそんなことを言ったんですか…しまったな」


現場の刑事は何とかして事件を解決したいと思っている。しかし、その思いが暴走し、冤罪などを引き起こしてきた暗黒の歴史もある。刑事は何とか事件解決の糸口になるような情報を得ようと必死になり、新聞社の名前などを出したのだろうが、やはり、心の見る映像などの情報が独り歩きする危険性には十分な注意が必要だったと浜田は反省した。


「でも、私はそこに行った覚えはないんです」

光男はそう言って、浜田の目を見た。嘘を言っているようには見えなかった。

「そうですか。では、この写真をみてください。先日の事件現場で撮ったものです。これは、あなたじゃないですか?」

そう言って浜田は写真を見せた。


写真をじっと見つめていた光男は

「そうですね。これは私だと思います」と認めたうえで話を続けた。


「これで確信が持てました。自分ではよく分からないんですが、どうやら私にはほかの人格が宿っているようなんです。だったら、ダンプカーの事件も私がやったのかもしれません。井田敏明という男は私にとって一番大切な妻を、ただそこにいたという理由だけで殺した男ですから。この手で殺してやろうと以前から思っていましたから…。ただ、その時の記憶は全くないのが残念です」

そう言って光男は帰って行った。


光男の姿が見えなくなったら、浜田がみんなに謝った。

「ごめん、みんな。俺が警察幹部に話すときに慎重さが足りずに詳しく話しすぎたようだ。おかげでうちの新聞社の名前が出てしまったのはまずかったし、みんなを危険に晒す結果となってしまった」


浜田はすぐに警察幹部に電話を入れ、光男が支局に来たことを伝えた。

警察は光男から任意で事情を聞くため、すぐに光男の家に行ったが、光男はその日、自宅には帰らなかった。


その日の夜、信子が避難している心の家で


「ガチャン!」


窓ガラスが割れる音がした。


             (つづく)

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